5 縮めたいのは攻略対象との距離なのに!?②
リリアーヌの脳に刻まれた記憶を辿り、割とすんなり自室へ戻ることができた。
意識すれば思い出せるという状況は、私にとってはかなりありがたいものだ。
悪条件ばかり揃っているが、やはりこのヒントは救いかもしれない。
これまでのリリアーヌの記憶がなければ、あまりの混乱で、今ごろ発狂していただろう。
こんなことを淡々と語っているから案外、この世界を楽しんでいると思われそうだけど、そうではない。
感情的になると、失敗の確率が上がるだけ。ということを、三十路まで生きてきたので、それなりに経験しているからだ。
元経理らしく、計算して進めていかないと、ゲームの攻略なんて、夢のまた夢で終わってしまう。
なので少し前から、前世の記憶を使ってチートになれる可能性について考えてみたのだが、大して役立ちそうなスキルなんてないのだ。
私はかつて日本という国で、普通のOLをしていた。
だからそこで使える技能がないか思い起こしてみたけど、碌な生活を送っていなかった。
毎日パソコンに向かって仕事をして、夜は終電まで残業三昧だった。
パソコンがあれば、それなりに使いこなせる自信はあるが、この世界にあるわけないし、使えたからといって、無双できるスキルでもないだろう。
ただ単に操作できるレベルなのだから。
趣味はおしゃれなカフェ巡りという女子力高めな行動でカムフラージュしつつ、一人で黙々と漫画を読んでいただけ。
乙女ゲームも、妹くらいにやり込んでいれば、この先の展開をポンポン思い出せるのだろうが、残念ながら私は、妹から聞かされていただけにすぎない。
多少知っているくらいの知識で無双できるほど、この世界は甘くないだろう……。
いろいろ詰んでるじゃない。
普通すぎて秀でているものがないんだもの。
そのうえ私ってば、妹と一緒に行った相席屋が悪かった。
なんと女性は無料で飲み放題なんていう、超ボーナス設定だったから、めちゃくちゃ浮かれて飲み過ぎた。
よりによって、その帰りに死んだのだろう。
そもそも無料なのに、元をとろうとしていた自分が浅ましい。
睡眠時間を削って仕事を無理にこなしていたのに、浴びるように飲んだ酒が災いした。お馬鹿すぎる……。
子どもがいる同期たちが羨ましくて、愚痴をこぼしたら、妹が気にしてくれたんだけどね。
大好きな妹に、もう会えないんだな。
そう思うと、寂しくなってきた。
私がいなくなって、妹も泣いているだろうな。
どうして死んだのかもわからないという、不甲斐ない姉でごめんね。
もっと一緒に、たくさん思い出を作れば良かったな……。
「ハッ!」
いけない、いけない。
前世を嘆いている場合ではない。
問題は今なんだから。
『ラビリンス学園』は、入学式から始まるため、すでに進行している。
残念ながら、魔法を使えないことを隠すのに必死だったリリアーヌが、好感度を上げないどころか、クラスの誰とも喋らず、孤立した状態でバトンを託された。
割とまともな解釈をするアルフォンスから、気味が悪いと言われるくらい、リリアーヌの存在は怪しかったのだろう。最悪の状況だ。
頭を抱えた私は、途方に暮れている。
だけどここで諦めれば、死ぬ道しかない。
なんとしても死にたくないし、明日から全力で攻略対象への接近を試みるしかない!
うんと力強く頷くと、前世の記憶とリリアーヌの記憶を融合させるために頭をフル回転させた。
攻略キャラ全員を狙っても駄目だ。
個別ルートに入らないと、そもそも攻略は話にならないし。
私が狙えそうな攻略キャラは誰なのか、緻密に見極めなければならないだろう。
そして、その相手を演習のグループに誘うことが、明日の課題ともいえるし、私の命が繋がる可能性を秘めている。
そう考えた私は、さっそく机に向かい、誘うべき攻略対象を書き出していた。
グループを作る締め切りは明日の昼だ。
大半のグループが結成されている気もするけど、高位貴族の場合は、最後まで自分の有益になる人間を見極めるため、敢えて決定していないことも考えられる。
そう……。
だから私にもまだ、可能性は残されているはず。
それにこの現状がゲームの世界というなら、ヒロインバイアスが働いていてもおかしくない。
想像ではあるが、ゲームの進行上、キャラの誰かを自分から誘う必要がある気がしているのだ。だから頑張るしかない!
燃えてきた私は、前世で妹から聞かされた言葉の数々を思い起こしていた。
この世界には、4人の攻略対象がいる。
『攻略対象その1 公爵家嫡男のベルナール・ドラン』
彼は金髪にアクアマリンのような瞳というテンプレ王子様ビジュアル。
しかも頭脳明晰で将来有望。そしてお決まりという感じだが、笑顔が眩しい。
その人の前に立つだけで空気が澄み渡るような、まさに純白なオーラ。
穏やかで美しい微笑みの下で、何を考えているのか一切読めないという貴公子。そのせいで恋愛の駆け引きというものが、一筋縄ではいかない。
攻略難易度は星5つという最難度だったはず。
ゲーム内でもファンが多かったし、妹も強く推していたのをよく覚えている。
要するに、誰もが一度は攻略したくなる、超人気キャラってことだ。
……となれば今の私には無理だ。身の丈は弁えているつもりだし。
ただでさえ難易度が高いのに、すでに進行中のゲームではまさに無理ゲー。
超絶イケメンというなら、私には眺めるくらいがちょうどいいかもしれない。
……狙うなんておこがましいから却下だ。
「はぁ~」
という絶望を含むため息をついて、次に進む。
『攻略対象その2 侯爵家嫡男ダミアン・クレージュ』
燃えるような赤髪に深紅の瞳。
見た目からして、俺様感がすごい。
常に上から目線なのに、時折見せる優しさに胸を掴まれる。
いわゆるツンデレってやつだったはず。
女子はこの手の男性に弱いところもあるし、人気の理由はわかる。
妹は、少しきつい性格はメンタル強者専用もしくは、Mっ気女子向けと言っていたはず。
ゲームだから好きだけど、現実世界で対面するなら、ビビちゃいそうと聞かされた気がする。
クリアしないと死ぬゲームで挑む勇気はない。
恋愛メンタル赤ちゃんの私には無理だ。次!!
『攻略対象その3 伯爵家嫡男のジェラルド・ファビウス』
栗色の髪に黒の瞳。魔術師団長の息子。
つまり、チート魔法使い枠だ。
魔法に関しては、座学でも、演習でも一番。
魔法のサラブレッド一族。
ここまで言って虚しくなってきた。
どう考えても、魔法が使えない私なんて、視界にも入らないだろう。
はい、論外決定。次いこ! 次!!
『攻略対象その4 伯爵家嫡男で騎士団長の息子でもあるリュカ・ドローヌ』
黒髪にエメラルドグリーンの瞳。
柔らかい表情で気さくで優しくて、何より、普通に話しかけられる空気感がある。
うん、これだ。私の本命君。
決して消去法で決めたわけではないが、ゲームで唯一、難易度が普通で優しくて、偏見もないキャラだし。
生存率上げるなら、リュカ一択じゃない!
よし、ターゲットは決定だ!
このゲームで個別ルートに入るためには、まず『接点イベント』を起こさなきゃいけない。
そしてイベント中に話しかける! 仲良くなる! 好感度アップ! 初回のイベント確約!
こんな流れだと妹が教えてくれた。
私はこれでもヒロインなんだから、勇気を出してこちらから接触しないといけないわけだ。
まずは明日、演習のグループに誘ってみれば、発展の可能性がある。たぶんね。
こうやって書き出してみたら、ラビリンス学園のキャラって全員嫡男なんだよね。
あっ、そっか。
平民や次男だったら婿養子になる可能性が高いから、嫁ぎ先にならないものね。
だからか……。
アルフォンスが攻略キャラにいない理由って……。残念だな。
せっかくの乙女ゲームだから、ちゃんと恋をしたいんだけどね。
無意識に触れてしまった彼の滑らかな髪の感触を思い出し、思わず手のひらを見てしまった。
あんなに緊張せずにたくさん話をした男性は、初めてだったな。
ふふっ、馬鹿ね。
現状はゲームを進めないといけないし、明日は怯まずリュカに声をかけてみよう。
幸い、アルフォンスのおかげで、イケメン免疫は少しついた気がするし、大丈夫だと思う。




