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クリアしないと死ぬゲームに転生した落ちこぼれ令嬢のはずが、いつの間にか裏ルートで溺愛されてました  作者: 瑞貴
第1章 死なないためのルート選択

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4 縮めたいのは攻略対象との距離なのに!?①

 私は教室の時計に視線を向けた。


 その動きを見たアルフォンスにも、私が時間を気にしているのが伝わったのだろう。


 幸いと言うべきか、こちらの期待どおり、彼から帰宅を促す言葉が返ってきた。

 だが、その提案が私の困惑を深めてしまう。


「せっかくだし、このまま話しながら一緒に寮へ帰ろう」

 そう言って彼が扉へ向かって体を向けたのだが、その言葉に対し、すぐに返答できなかった。


 私自身がまだ、リリアーヌについてきちんと理解していないのだ。


 悠長に彼と会話なんてすれば、墓穴を掘る気がしてならない。


 断りたい……。

 そう考えてしまったタイミングで、少し沈んだ声が聞こえた。


「ごめん、もしかして嫌だった?」


「あ、いえ、嫌じゃないから!」

 少し落ち込む様子の彼を見て、慌てて否定した。


「なんか無理をしているように見えるけど」


「ご、ごめんなさい。私ってば教室の床で、どれだけ眠っていたのかなって、考えていただけなので。せっかくだし一緒に帰りましょう」


「なるほどね。そういうことか。それなら10分も眠っていないよ」


「え? どうしてわかるの?」

 自信たっぷりに答える様子からは、どう見ても適当に言っているとは思えないのだ。


 そう断言する理由を聞かせて欲しい私は、じっと答えを待った。

 すると、なんの躊躇いもないアルフォンスが、ふわりと穏やかな笑顔を見せると、自分の行動を説明してくれた。


「俺が教室を出て、用事を済ませて戻ってくるまで、10分もかかってないからね。その前のリリアーヌは、まだ机に向かって座っていたから」

 その説明が妙に説得力があったため、疑う余地はなかった。


「そうなんだ」

 と静かに返したあと、少し前から気になり始めたことを、勇気を出して尋ねることにした。


 彼の爵位が、どうしても気になるのだ。あわよくば、攻略キャラと親友という場合もあるかもしれない。

 友達の紹介から発展する恋なら、少しハードルが下がる気がしているし。


 だが、直接爵位を尋ねるのは失礼な気がして、遠回しに聞いてみた。


「そういえば、アルフォンスも次の週末は実家に帰るの? なんか先生が半月経ったときに帰省するように言ってたよね」


「俺の場合は、武者修行に出て来いって追い出された感じだから、用事がない限りは実家に帰る予定はないんだよね。リリアーヌは?」


「あー、私は帰省する予定だよ」

 おどけたように言ったあと、微笑んで見せた。

 内心、ミラベルの思惑を阻止するという、黒い目的があるけど。


 このゲームのヒロイン。つまり私は、伯爵家の後継者の座が欲しいミラベルに命を狙われている。

 だから、乙女ゲームをクリアしないと自殺を装って殺される。状況は大筋で理解した。


 自分を殺そうとしているミラベルと一緒の馬車に乗って領地へ帰るなんて、カオスね。

 さすがにまだ、殺される気はしないけど、ゲームの進行が悪ければ、私のことをいつ消し去ってもおかしくないという事態だけは、読めてきた。


「リリアーヌの領地は、馬車で半日くらいだっけ?」


「へぇ〜、この国の地理が詳しいのね。そういえばアルフォンスは貴族なんだよね?」


「いいや、俺は貴族ではないよ」


「あれ? そうなの?」

 思っていた回答と違い、ぽかんと口を開けてしまった。

 そのせいで、彼を不快にさせたのかもしれない。

 アルフォンスが、少し皮肉を込めた口調で、息を吐くように言った。


「リリアーヌも身分で人を見るタイプなんだ。なんかガッカリだな」


「違う、違う。身のこなしが優雅だから、てっきり貴族だと思って驚いただけなんだ」


 アルフォンスの洗練された所作が、日本で限界OLをしていた私とは違い、とても洗練されているのだ。


 貴族についてよくわかっていない私でもすぐに感じた、ただものではないオーラ。アルフォンスからは、そんな気品が垣間見える。


 まあでも、爵位がないのに武者修行というくらいだ。おそらく、大きな商家の息子なのだろうと、私なりに解釈している。

 何も言わないアルフォンスを見て、抱いている感情をそのまま口にした。


「私ね。貴族とか平民の違いなんてないと思っているし、それはただ、役割の違いにすぎないだけでしょう」


「へぇ〜、この学園でそんな返しをされたの初めてだから、ちょっと感動してる」


「大袈裟ね。だって学園規則で、家柄は関係ないって決まっているでしょう。私はそれに従うだけだし、ルールがあって良かったなって思ってるよ」


「リリアーヌは素直なんだね。かわいい。そんな純情な子見たことないから、好きになるかもしれないけど、いい?」


「き、急に揶揄わないでよ!」

 言われ慣れない言葉の連発に、耳まで熱くなった。絶対に顔が真っ赤じゃない。恥ずかしい。


 動揺しまくりの私とは裏腹に、真面目な顔で彼が続けた。

 それを見て、やっぱり揶揄われたと確信したけど。


「俺に爵位がないと知った途端、軽蔑されて、1週間経った今では、誰も話しかけてくれなくなったよ。名前で呼び合うルールはあっても、本質では爵位の上下で見下しているんだよね」


「それって変だよね。貴族ばかり通うこの学園に、平民で入学するなんて立派だし、知っている人が誰もいない場所に1人で飛び込んで勉強するなんて、すごい勇気だと思うし尊敬する。なんで見下すのか理解できないな」


「ねえ、嬉しいからハグしたいんだけど、いい?」


「駄目に決まってるでしょう。でも困ったらなんでも相談してね」

 そう言って、アルフォンスの柔らかいシルバーブロンドの髪を、よしよしと撫でた。ほぼ無意識に。


 そうすれば、アルフォンスが目をパチクリさせて、言葉を失っていた。


 しまった。

 やってしまった。

 相談してね、なんてどの口が言ってる!

 大口をたたきすぎてしまった……。

 そのうえ私に甘える姿が、以前飼っていたシベリアンハスキーに思えてしまい、勝手に撫でてしまったではないか!


 つい調子に乗ったため、慌てて前言と行動を撤回しようと思ったのだが、すでに遅かった。


 先ほどまで驚いた顔を見せていた彼が、今は一変、嬉しそうに微笑んでいるし!


 アルフォンスってば、私が相談を聞くなんて言ったから喜んでいるよね。


 そうだよね。味方のいない平民が貴族の中に放り込まれて、苦労続きのはずだ。


 笑顔のアルフォンスを見て、前言を軽々しく否定できなくなってしまい、何事もなかったように、静かに手を下ろした。


 彼には申し訳ないけど、崖っぷちもいいところの私が味方になっても、何もできないから、期待外れだろうな。


 傍から見れば伯爵令嬢ではあるが、私は実家のコネも使えないし、この世界の知識は途切れ途切れ。

 挙句に魔法を使えないという落ちこぼれなのに。


 少しも良いところのない私が、悩み相談を受けられるわけもないし、たとえ相談されたとしても、解決できるはずもない。


 だけど、一緒に悩むくらいならできるし、いいよね。

 そう考えているとアルフォンスから穏やかな声が返ってきた。


「ありがとう。いい友達ができたみたいで嬉しいな。この先、いろいろ頼りにしてるから、よろしくね。でも、次はハグさせて欲しいな」


「冗談ばっかり言うのね。だけど私もアルフォンスと友達になれて、すごく嬉しいし、お互いによろしくね」

 その言葉を満足げに聞き終えた彼が、肩をすくめると、言いにくそうに頼みごとをしてきた。


「さっそくで申し訳ないんだけど、演習のグループを、俺と組んでくれない? 明日の午前中に決めないといけないのに、まだどこにも混ぜてもらえなくて」


「えっと……演習のグループだよね」

 そう言って時間稼ぎをして頭をフル回転させた。


 すると、うまい具合にリリアーヌの記憶を見つけられた。

 引っ張り出してきた記憶によると、この先1年間の活動をするため、「3人1組の演習グループを作っておくように」と1週間前のホームルームで説明されていたのだ。


 もちろん、この説明を聞いたリリアーヌも困惑したようだ。


 教室中をぐるぐると見回して、自分が組む相手を探そうとしたが、策のないリリアーヌは、諦めたのだろう。


 結論としては、30人のクラスなので、必然的にどこかのグループに所属できる。

 そのため、自分から動かなくても、なんとかなると受け身で待っていたみたいね。


 できれば、攻略対象2人に挟まれるような3人グループが理想的なんだけど、魔法を使えない私が、演習で好感度を上げられるとも思えない。


 そうなれば私の味方になってくれそうなアルフォンスが傍にいてくれるのは、ゲームを進めるうえでチャンスかもしれない!


 俄然やる気を出した私が、笑顔で提案した。


「アルフォンスと同じグループになれるなら頼もしいし、ぜひお願いするわ」


「そう言ってくれて良かった。嬉しいよ。でも、もう一人はどうしようか?」


「それなら、思い当たる人がいるから、私から声をかけてもいいかしら?」


「お願いしても大丈夫なの?」


「たとえ断られても、当たって砕けてくるわ。見てて!」

 これまでのリリアーヌでは、絶対に口にしない言動だろう。


 私がやる気を出しているのが嬉しいようで、ふわっと笑顔を見せたアルフォンスが、手を合わせて拝んできた。

「助かるよ。お言葉に甘えてお願いするね」


 彼から感謝を向けられてしまえば、むしろ罪悪感を覚え、胸がチクッと痛い。


 当初、彼を利用しようとした、自分が情けなくて、恥ずかしい。ごめんなさい。

 平民と落ちこぼれなんだから、互いに協力し合わないといけないのに、身勝手だったなと、深く反省した。


 歩きながら話していた私たちは、学園寮の男性棟と女性棟の分岐点まで来ていたため、アルフォンスとの時間はここでおしまいのようだ。

「またね」と言って手を振り、別々の方向へ歩みを進めた。


 ◇◇◇

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