33 デートイベント②
ジェラルドとの会話を終え、再び自分の席に戻り、アルフォンスの登園を待つ。
彼と早く話をしたいが、教室の入り口で待ち構えるのも違う気がした。
登園してきた生徒も徐々に増え、教室が少しずつざわつき始めたそのときだった。
少しだけ不機嫌な口調のアルフォンスの声が聞こえた。
「おはよう、リリアーヌ」
「おはよう。今日はいつもより遅かったのね」
「教室に入ろうとしたら、廊下でジェラルドに声をかけられたからだよ」
「ああ~、そうだったんだ」
失敗した。ジェラルドってば、アルフォンスに買い物の話をしてしまったみたいだ。
リュカを誘うことさえ、アルフォンスに伝えていなかった。それなのに、ジェラルドも一緒に来るというのは、寝耳に水の話だったに違いない。
そうなる前に私から伝えようと思ったのだが、すでに出遅れてしまった。
なんだか、昨日からうまくいかないことに肩を落としていると、ムスッとした口調で聞かれた。
「魔道具を買いに行く話、リュカにもしてたの?」
単刀直入に疑問をぶつけてきた。笑っていない目元は、怒っている証拠だろう。
私は一瞬だけ言葉に詰まりつつも、笑顔を貼り付けた。
「うん。魔道具に詳しそうなジェラルドも一緒に来て欲しいなって思って」
「別にジェラルドがいなくても、困らないのに。俺はリリアーヌと2人で出かけるのを楽しみにしていたんだけど、詰まんないな」
「そ、それはね? 魔法に関してはジェラルドがこのクラスで一番成績がいいし、魔道具を選ぶなら一緒にいた方が安心かな〜って思ったのよ」
先週までは、ゲームの攻略を考えていたなんて、さすがに言えない。
そのため、半分本当で半分作り話の言い訳をした。
私を殺してまで家督を望んでいたミラベルに、まさか王太子の婚約者話が浮上するとは思ってもいなかったから仕方ない。前世の妹は、一度もそんな話を聞かせてくれたことはなかったし。
私はゲームの攻略対象と結ばれる道をなんとしても手にしたかったのだ。
アルフォンスにこの気持ちをわかって欲しいとは言わないが、責めないでもらいたい。
少しだけ口を閉ざしていたアルフォンスが、不機嫌に言った。
「ねぇ、ジェラルドは来なくていいって、断ってよ」
「断ったけど、リュカからの頼みだから、来るって譲らないの」
「やっぱりリリアーヌは、魔導士団長の息子という肩書とかに弱いんだ。がっかりだな」
「はぁ? そんなこと言うんだ。そうよ、私はジェラルドが気になっているから誘ってもらったの」
カチンときて、咄嗟に言い返してしまった。
すると、寂しそうな声でぼそっと一言だけ告げられた。
「……わかった」
感情の読めない表情のまま、アルフォンスはそれ以上、何も言わない。
肯定なのか、不満なのか、私には判断ができなかった。
――その結果。
この放課後。ものすごく空気が悪い三人が誕生したわけだ。
賑やかで活気あふれる市井を歩いているというのに、誰も喋らない。
周囲から聞こえる楽しそうな話声が、一層虚しさを掻き立てる沈黙が、あまりにも重い。
私の胃がキリキリする。
「……ねえ」
最初に耐えきれなくなったのは、ジェラルドだった。
「何か文句あるなら、はっきり言えばいいじゃん」
「……」
アルフォンスに、真正面から突っかかる。だが、アルフォンスは無言を貫く。
お願いだから、そのまま怒らないでいて欲しい。
そう祈っているが、ジェラルドの感情は一向に収まる気配もなく、アルフォンスを責め立てる言葉が続く。
「さっきからずっと不機嫌だけどさ。察しろって態度って、俺は嫌いなんだけど」
「……」
「なんか言い返したら? せっかく俺が護衛しているのに、そんなふてくされた顔されると、マジでイラつく」
「別に護衛なんて頼んでないし」
「お前が碌に火球も飛ばせないから、リュカが心配して俺に頼んできたんだろう。何かあっても、お前のことは助けてやらないからな」
「ああ、結構だ。余計な手出しで、邪魔をされる方が困るからな」
あ、やばい。
このままじゃ、魔道具を買いに行く前に、大喧嘩が勃発しかねない! なんでこんなことになっているのよ!
私は何としても魔法を使えるようになりたいし、そのためには魔道具が必要なのだ。早急に!
今日の買い物を諦めて、出直しなんて悠長なことを言っていられない。
このまま黙っている場合ではないと考え、私は慌てて二人の間に割って入った。
「ま、待って!」
「アルフォンスは、緊張してるせいで、うまく言葉で表現できていないだけだから! 私は3人で買い物に来られて、嬉しいよ」
「……は?」
その一言に、ジェラルドがきょとんとした顔をして、私を見つめて来た。
アルフォンスが何か言い返すのを事前に阻止しようと、ジェラルドからアルフォンスが見えないよう、私が壁になるように横歩きをしている。
だが、きっと意味はなさないはずだ。
私たちには身長差がありすぎる。アルフォンスの方が、私より頭1つ分以上、背が高いのだから。
だから、アルフォンスが口を挟めないように、私がマシンガントークを続けた。
「ほら、私も初めて喋る人には緊張して、何も言えなくなるし! それが身分の高い人だったら、余計にでちゃうから!」
アルフォンスに限って、身分差に引け目を感じ、遠慮することはないとわかっている。
リュカとの3人での演習中も、毅然とした態度で自分の意見を言っていたのだから。
ジェラルドに対して緊張しているはずはないけど、喧嘩は困る。私が!
この場を丸く収めようと必死な私が、小さく小首を傾げた。
「だから、ジェラルドはアルフォンスを怒らないで」
その一言で、この場が静まり返った。
だが、意外にも誰からの反論もなく、しばしの沈黙が広がる。
気まずく感じていると、その静寂を打ち破ったのは、ジェラルドだった。
彼が、ふぅ~っと大きく息を吐いた。
「……なるほどな。そういうことなら、まあ、仕方ないか。アルフォンスは無理に喋らなくてもいいから」
「理解してくれて、ありがとう」
「……で?」
場の空気を切り替えるように、ジェラルドが話題を変えた。
「魔道具って、結局何が欲しいんだ?」
私は少しだけ言葉を選んでから、答えた。
「先天属性を抑える魔道具が欲しくて」
先天属性と曖昧にしたことが気になったのだろう。
眉根を寄せたジェラルドが、間髪入れずに聞き返してきた。
「それって、どんな効果のを探してるんだ? その手の魔道具なら、古くから続いてる店じゃないと入手できないと思うが、心当たりはあるが、そこの店主は少し偏屈なんだよな」
「うん。お店では、ちゃんと自分で説明するから、大丈夫だよ」
即答した私に対し、未だに訝しむジュラルドが、首を傾げる。
「……そもそもさ、先天属性を抑える魔道具なんて、どうして欲しいんだ? 魔力が多すぎて困ってる、とかじゃないだろ?」
「ははは……」
私は曖昧に笑った。
「そうじゃないんだけど、ちょっと困ってることがあってね。魔道具屋に着いてから、教えるから、今は内緒かな」
「ふーん」
そのとき、ふとジェラルドの一言が気になって聞き返した。
「ねえ、魔力が多すぎるからって、どうして魔道具なんて使うの?」
ジェラルドは、少し考えるように言葉を選んでから、話し始めた。
「まあ……実際、そんな魔道具を必要とする人物なんて、見たことないけど、先祖返りしたレベルの人間だと、魔力過多を抑える魔道具を使うって話を聞いたことがあるんだ」
「へえ……」
「魔力が強すぎると、ほどほどの魔法を放つのが難しいらしい。普通に放った魔法が、周囲に危害を与えるって話だぜ」
「それはまた、すごい話ね。魔法を使えない私からすると羨ましいけどね」
そう言って、肩をすくめた。
「魔法騎士団長の父でさえ、魔力過多の人物に会ったことはないって言ってたし、ただの言い伝えだろうな」
その言葉を聞き、横にいるアルフォンスに視線を向けた。
……そういえば、魔法の小テストのとき、「身を守るための魔道具を着けてる」って言ってた。
アルフォンスが身に着けている魔道具が、今話題になっている、魔力過多を抑えるものではなかろうか?
そう感じてジト目で見つめたものの、不機嫌モードのアルフォンスから、完全にスルーをくらった。
そのそっけない態度に、胸がちくっと痛んだ。
私……自分が思っている以上に、アルフォンスを傷つけたのかもしれない。
この買い物が終わったら、ちゃんと謝ろう。
そう考えながら歩いていれば、ほどなくして、目的の魔道具店に到着した。




