表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第一章完結】クリアしないと死ぬゲームに転生した落ちこぼれ令嬢のはずが、いつの間にか裏ルートで溺愛されてました  作者: 瑞貴
第1章 死なないためのルート選択

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/30

27 アルフォンスのイヤリング

 うぅぅ〜……。望んでいなかったが、土曜日が来てしまった。

 この世界は、日本と同じ曜日で構成されているため、学園も土日が休みというスケジュールである。


 私がラビリンス学園の世界で目を覚ましてから6日経過したが、異世界に転生してもカレンダーだけは裏切らないというわけで、あんまり嬉しくない。


 この生徒は、基本的に全員寮生活を送っており、外泊は禁止されているが、今日は例外だ。


 アルドワン伯爵家の長女として、屋敷へ帰省しなければならない日である。


 正直、気が重い。

 というか胃が重い。鉛みたいにずしんと響いている。

 だって、アルドワン伯爵と伯爵夫人は、私の存在をあまり好ましく思っていない。正確には、リリアーヌのことをね。

 私はというと、ミラベルを迎えに来た馬車で、ついでに帰ってきた厄介者扱いだろう。


 いや、言い方を正確にすべきかしら。

 伯爵夫人に関しては、私のことを「殺したいほど嫌っている」邪魔ものだ。


 無意味な争いに発展しないためにも、今回の帰省では、この感情を知っていると、気づかせるわけにはいかないけど。


 まあ、一緒に帰る妹のミラベルは、天使かってくらい伯爵夫妻に溺愛されている存在である。

 彼女が帰省すれば、玄関で抱きしめられ、ありとあらゆる賛辞のシャワーで歓迎されるのは目に見えている。


 そんなどんよりオーラを全身に纏いながら、私は寮の中にある、1年生用の食堂へ向かった。

 上級生とは使う場所が異なるため、6日経った今でも、他の学年の生徒とは、ほとんど顔を合わせたことがない。

 こんなところは、上下関係がきっぱりしている貴族社会らしいなとは思う。


 いつもどおりの時間に起きた私ではあるが、寝起き早々は全くお腹も空かず、食欲も動く意欲も出なかったため、朝食を摂るのをやめようと考えていたのだ。


 だが、寮を出る時間が近づいてくるに従い、お腹が鳴った。


 やはりここは、出発前にお腹だけでも満たしておくべきね。空腹はメンタルを削るから。

 そんな検討をした結果、かなり遅めの朝食時間になったわけである。


 もう誰もいないと思っていた食堂の扉を開けた瞬間、意外な人物が目に入った。


「あれ……アルフォンス?」



 シルバーブロンドの髪が、どこか浮世離れした気品を放っていた。

 私が名前を呼んだことで、彼はサファイヤブルーの瞳をこちらに向けてくれた。


 平民出身ながら、魔力量が以上に多いうえ、魔法に関する知識があり得ないほど豊富なアルフォンス。だからなのか、ちっとも平民に見えない高貴なオーラが相変わらず溢れている。


 そんな彼が、カウンターから朝食の乗ったトレーを受け取っていた。


「おはよう、リリアーヌ」


 にこっと微笑むアルフォンスを見て、私はパタパタと彼に駆け寄った。

 だがふと、あることに気がついた。

 なんだか今さらだけど、ここに転生して初めての光景に思える。

 そう思う私は、散々アルフォンスと一緒にいることもあり、遠慮のない大きめの声が出た。


「ねえ、アルフォンス。私たち、食堂で会うの初めてじゃない?」


 演習のグループが同じため、毎日たくさん彼と悲しをしていた。

 そのこともあり、あまり気にしていなかったが、アルフォンスと寮内で鉢合わせた経験がないのだ。


 どうしてだろうと思い、首を傾げていると、アルフォンスが事情を説明してくれた。


「ああ、それはね。俺はいつも、他の寮生が来ない時間を見計らい、食堂を使っていたからだよ。今日はみんな、早い時間から動き出していたから、遅くに来たってわけね」


「もう……。アルフォンスってば、人を避けてばかりいるから、友達ができないんじゃないの?」


 リリアーヌが呆れながらに放った一言で、アルフォンスは少しだけ困ったように笑ってから、ぽつりと言葉にした。


「平民と同じ空間で食べるのは嫌だ、って言う寮生がいたんだよ」


「それ、酷すぎない?」


「言い返してもしょうがないしね。まあ、誰もいない朝一番の時間に来ればいいだけだし」


「ラビリンス学園は、身分なんて関係ないって謳っているんだから、気にしなくていいよ」


 そう言葉にしながら、私とアルフォンスは、対面するように席に着いた。


「まあ、差別されるのは慣れてるから」


「慣れるとか、そういう問題じゃないでしょ、それ!」


「怒ってくれるのは、リリアーヌだけだよね。どこまでも身分を気にしてないのが、なんか嬉しいな」


 その彼の言葉が、胸に刺さり、私は顔を上げて、できるだけ明るく提案した。


「私と一緒なら、文句は言われないでしょ。来週から、一緒に朝ご飯を食べようよ」


「……いいの?」


 アルフォンスは一瞬きょとんとして、それから信じられないくらい嬉しそうな顔で、潤んだ瞳を真っすぐ向けてきている。


 子犬みたいでかわいい。そんなことを思ったと知られてしまえば、怒るだろうな。

 なんて余計なことを考えず、アルフォンスの不安を払しょくすることにした。


「うん。魔法は使えなくても、一応は伯爵令嬢だし。私と一緒なら、誰も文句を言ってこないはずだから」


「ありがとう、リリアーヌ。これから毎朝一緒に過ごせると考えると、たまらなく嬉しいな」


 彼が満面の笑みで言ったせいで、私の顔が、ぽわっと熱くなった。


 いちいち彼でときめきたくないのに、その笑顔は反則だし。すぐに負けちゃう自分が情けない。


 するとアルフォンスが、はっとしたように言った。


「来週からって……そっか。今日からリリアーヌはアルドワン伯爵領に戻るから、このあとは会えないのか……。寂しいな」


 アルフォンスの眉根が下がり、その切なそうな表情に釣られるように、胸がきゅっとした。

 私だって、ずっと一緒だったから、急に離れるのは不安だな。


「私も……少し、寂しいな」

「リリアーヌが俺の存在を意識してくれるなんて、嬉しいね」


 そんな他愛もない会話を交わしていると、アルフォンスが急に真剣な顔になった。


「俺、リリアーヌと離れているのが不安でたまらないからさ」


 そう言って、彼は握っていたフォークをトレーの上に一度置いた。

 どうしたのだろうと思って彼の行動を見ていると、自分のイヤリングを外した。

 すると、対になった銀色のイヤリングの片方を、私に差し出してきた。


「これ、持っててくれない? 唯一の俺の味方が傍にいなくても、土日が平穏に暮らせるように、お守りとして」


「ふふっ、何それ。大げさなんだから」


 くすくす笑いながらも、彼の真剣な瞳を前に、提案を拒めなかった。

 私は素直にイヤリングを受け取り、そっと耳につけてみた。

 そうすればアルフォンスが、おどけて言った。


「一対の片割れを互いに着けてるって、なんか恋人同士みたいだね。キスしてもいい?」


「……ダメに決まってるでしょう」


 即座に一蹴しておく。ここでアルフォンスをその気にさせてはいけないし。


 でも、私の胸の奥では、恋人同士、なんて言葉が嬉しかった。

 だけど、私たちはそうなってはいけない。ゲームのヒロインとモブ。クリアしないと死ぬ私。立場の壁。これ以上、彼と関係を縮めてはいけない。絶対に。


 内心、複雑な感情を抱えながら、あらぬ方向に進展しないように、話題を変えようとした。


「アルフォンスは、週末何をするの?」


「市井を散策しようかなって思ってるよ。リリアーヌは半日の馬車移動、大変だろうけど……実家で、ゆっくりしてきなよ」


 ゆっくり……かぁ。そんなこと、実際はできるかな。

 と思ったけど、余計なことは言えないものね。

 気持ちを整えて、穏やかな笑顔を見せた。


「うん、運頑張ってくるね」


 そう言って、私たちは笑顔で手を振り別れた。


 耳元で揺れるイヤリングが、少しだけ心を軽くしてくれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ