23 新しい仲間②
だって、だって、だって、魔法研究所でも数個しか作れない代物が、今、私の手の中に握られているのよ。
それも、絶対にポーションは作れないと思われていた、わかめスープが原料で。すごくない!
何が何だかわからなくなり、頭の中でパニックを起こしていると、マリエットが深々と頭を下げてきた。
「わかっています。それほど希少なものをただで譲って欲しいと言うつもりはありません。お望みの金額をご用意いたしますので、どうか弟のために、そのポーションを譲ってください」
振り絞るように発せられたその言葉を聞くと、これまでの苦労が痛いほど伝わってきた。
もう一度、手の中でキラキラと光を放つポーションを見て、決意は固まった。
なんとなくだが、これはゲームのイベントのような気がする。
私がSランクのポーションを作れたことは、ヒロインのボーナス特典的な感じがしてならないのだ。
だから、ここは素直に流されておくのがいいはず。
間違いないわね。ゲーマーの妹も、裏イベントの招待状は、恩を作ることだって言ってた記憶があるし。
なので自信をもって、はっきりと言い切った。
「わかったわ。これはマリエットの弟にあげるわ」
「ありがとうリリアーヌ。私はおいくらお支払いすればよろしいですか?」
「お金なんていらないわ。ただ、私のポーションがなくなると困るから、マリエットのと交換しましょう」
「ご冗談ですよね。それではあまりにも、価値が合いませんわ。私のは、Cランクのポーションですよ」
そう言って、先ほどの授業で作ったポーションを、制服のポケットから取り出した。
「それで十分よ。その代わりと言ってはなんだけど、私と友達になってくれないかしら? いろんなお話を聞ける友人が欲しかったの」
「もちろんそれは、私からお願いしたいくらいですわ」
その言葉をマリエットが発した直後、私の横に座るアルフォンスが、ふてくされたような声を出した。
「ねえ、リリアーヌが作ったポーションを、どうして弟にあげるなんて約束してるの? 全然意味がわかんないだけど」
その言葉に青ざめたマリエットが、アルフォンスを見つめている。
私は彼をなだめようと、慎重に口を開いた。
「私たちのグループにSランクのポーションがなくなっても、大丈夫だって! ほらっ、そもそも学生では作れないんだよ。演習では、高位のポーションが必要のなる危険はないはずだし」
「違うって。そんなの気にしてないから。ってか、俺がいるなら、学生の演習レベルで怪我するわけないじゃん」
でたっ! 急に出現する強気モードのアルフォンス。魔力が多くて自信があるのだろうが、ここは引いて欲しい。
説得しようと、一応、不機嫌になっている理由を尋ねてみた。
「じゃあどうしてアルフォンスは、反対しているのよ」
「だって、リリアーヌが作ったポーションを、どこぞの男が後生大事にいつも持ち歩くってことだろう。そんなの許せないから!」
「はい?」
私は大きく首を傾げてしまった。
待てっ!
その言動に、ツッコミどころしかない。
男って言っても、マリエットの弟で子どもだ。そのうえ、まるでやきもちみたいな台詞は、恋人関係みたいじゃない。意味がわからない。
っていうか、本当に私のことが好きなんじゃないの!?
駄目よ。彼が私に恋愛感情を抱くのは、なんとしても火消しが必要なのよ。
私たちは、惹かれあってはいけないのだから。
前世では、浮気だの、不倫だのというものに全く縁がなかった私である。そもそも恋人さえできなかったくらい、モテなかった。
にもかかわらず、自分のことを好きになってくれる存在に、胸をざわつかせる日が来るとは、思ってもいなかった。
私のお手製ポーション。それをアルフォンスが他の男性に取られることを嫌がる理由に、ひとつも同意できないため、全力で説得しようと思った。
だがその瞬間、私より先にマリエットが口を開いた。
「わかりました。そうですよね。私のお願いは、都合がよすぎたんです。ごめんなさい」
肩を落とす彼女が、小さくなっている。
まずい。これ、イベントだよね。なんとかしないと!
そう思った私が慌てて否定しようとすれば、胸ポケットに手を当てたアルフォンスが、先に代替え案を告げた。
「俺のポーションをマリエットの弟にあげるから、リリアーヌが作ったのは、俺が貰う」
「ですが……」
と、口ごもったマリエットは、その辺に売っているような、Aランク以下のポーションはいらないと言いたかったのだろう。ちょっとだけ顔を引きつらせ、困った顔をしている。
その態度に怯む様子のないアルフォンスは、マリエットの目の前に、彼が作ったポーションを置いた。
それは、まぎれもなくSランクのポーションだ。
どこから見ても、私の手の中にあるポーションと同じで、光り輝く緑色をしている。
それを見た私は、「あ~、やっぱりアルフォンスもSランクのポーションを作っているじゃない。授業中に知らんふりしてずるいんだから」と叫びそうになった。
作成直後、彼の手に見えていたのは、気のせいじゃなかったのねと、納得する自分もいたけど。
だが、マリエットはそうではない。
信じられないものを見たという顔をしているマリエットは、顎を外したように開口し、固まっている。
そんなマリエットの様子を気に留めず、上機嫌なアルフォンスがおちゃめな声を出す。
「っていうわけで、リリアーヌのポーションは、俺が貰うから、ちょうだいね」
国宝級のイケメンが、首を傾げてかわいい仕草を見せたため、まるで催眠術にかかったように彼に渡してしまった。
あ~、バカバカ。
アルフォンスにプレゼントしたところで、攻略対象の好感度が上がるわけじゃないのに……。
私がSランクのポーションを作れたのが、イベントのためなら、アルフォンスに渡すのは、違う気がするのだ。
それに、アルフォンスの気持ちが本当に恋心だったら、それに応えたい自分もいるし。
彼の手を取れば、ゲームオーバーである。
げっ。私……このゲームでますます詰んでるよね。
私たちは、ずっと恋人未満でいなければいけないのだから。
気落ちする私とは裏腹に、嬉しそうなアルフォンスと目を大きく見開くマリエットが硬直している。
奇妙すぎる3人が座るカオスさと言ったら、さぞかし不気味だろう。
この場をどうやってまとめようかと思えば、マリエットが私たち2人を見て、真剣な口調で尋ねてきた。
「お二人は、いったい何者ですか?」
やばい。これは、転生者だと思われている?
という疑念が浮かんでしまったが、一切ためらいのないアルフォンスが即座に答えた。
「落第点カップルじゃなかったかな。ねぇ、リリアーヌ」
最後に私の方へ顔を向けたが、その口調がおどけていたせいだろう。
少しだけ感情的になったマリエットが、鋭い突っ込みを入れた。
「ふざけないでください。そんな二人が、そろってSランクのポーションを作れるわけがないですよ」
「まあ、あまり目立ちたくないんだよね。だから、そのポーションは、リリアーヌから貰ったということを貫いて欲しいな。それができないなら、渡せないし」
「わかりました。そういうことで納得しておきます。余計なことは一切他言しませんね」
凛とした表情を見せるマリエットは、一つたりとも疑問めいた提言をせず、条件を飲み込んだのだ。
それには、私の方が突っ込みを入れたいところだったけど、マリエットとアルフォンスが放つ圧倒的なオーラに、私なんかが出る幕ではないと察し、口をつぐんだまま、彼らの会話を静かに見守った。
「助かるよ」
「お礼を言うのは私の方です。お二人は私と弟の恩人ですから、どんな協力も惜しみませんので、いつでも頼ってくださいね」
「ふふっ、筆頭公爵家のご令嬢にそう言ってもらえるなんて、頼もしいな」
そんな言葉で、私たちの秘密の会合は終えたのだった。




