21 ポーション作り⑥
少ししてから、ハッと正気に戻ったカツキ先生が、震える声で言った。
「エ、エ……Sランクです」
「……は?」
私が洩らした声と同じ音が、教室中から発せられた。
「今、Sランクって言いましたか?」
聞き違いじゃないわよね……。
そう思っていると、カツキ先生が私の手元のポーションをまじまじと覗き込んでいる。
「この透明度と輝きは間違いありませんわ……。教師を30年やっていますが、授業中にSランクのポーションを見たのは初めてです」
その言葉に教室中がざわめいた。
「うそ!? リリアーヌは魔法が使えないのにSランクポーションを作ったの!?」
という、悲鳴にも近い動揺がクラスメイトから湧き上がり、依然、ミラベルは固まっていた。
「い、い、いっ、一体、どうしたらSランクのポーションを作れたのですか? あ、いえ、まずは、私がリリアーヌさんに失礼なことを言ったのを謝らなければいけなかったですね。ごめんなさい」
動揺のあまり、一方的に自分の言いたいことだけ言っているカツキ先生が、深々と頭を下げてきた。
その謝罪は素直に受け取り、カツキ先生の不躾な言動も水に流そうと思った。一応大人だし。
だが、どうやって作ったのか問われても、説明する言葉はうまく見つからない。
アルフォンスが私に言ったアドバイスどおり、魔力を注入しただけだし。
そうだ。アルフォンスも、美しく輝くグリーンをしていたんだ。だから彼のも見てよ! という気持ちでアルフォンスへ視線を向けた。
すると、涼しい顔をしたアルフォンスは、すでにポーションをポケットにしまい、今しがたまであった小瓶の存在は消えていた。
あれ? ここは自慢するところじゃないんだ……?
平民の彼が上級ポーションを作ったなんて、胸を張れること間違いないのに。しないの?
どうしてアルフォンスはポーションを隠してしまったのだろうと、目をパチクリさせていたが、ミラベルが声をかけてきた。
「薬草が足りなかったお姉様がSランクのポーションを作ったなんて、嘘に決まっているわ! 元々持参していたポーションと、すり替えたんでしょう! こんなことをしては、本当にお父様からお叱りを受けますわよ」
少し声を荒げる彼女は、普通に青ざめている。どっちの意味かはわからないけど。
ただ、はっきり言えることは、とことん私がズルをしたと決めつけていることだ。腹立たしいけど。
断じてあり得ないと否定しようとした矢先、目の前に座るアルフォンスが、冷静に言った。
「すり替えるなんて無理でしょう。Sランクなんて、国の管理下にある組織が使うためのもので、市販されていないんだから、彼女が作った以外に説明がつかないさ」
「そんなはずはないわ。あなたは平民だから売ってもらえないだけよ。貴族の私たちなら買えるはずだもの」
アルフォンスが平民ということで、彼の言葉を全否定された。
ここは私が言い返そうかと思ったが、アルフォンスが気にする様子もなく、砕けたように言い返していた。
「あっそう。まあ、小難しいことよりも、俺としては、同じチームのリリアーヌがSランクのポーションを持っているんだから、超ラッキーだな」
そのアルフォンスの返答が面白くなかったのだろう。ミラベルが真っ赤になった。
何かを言いかけようとしていたが、それより先に、私へ声をかけてくる女子生徒が登場した。
「リリアーヌさん、さっきは何も言えずにごめんなさい」
そう言ったのは、私が自作自演で薬草を捨てたと言い出したとき、ミラベルの横で静かに座っていた公爵令嬢のマリエット・オクレールである。
彼女はゲームでも出てきたので知っている。
美しいその見た目から、男子生徒のみならず、女子生徒にもファンがいるほどモテる彼女が、肩をすくめて立っていた。
急にどうしたのかしらと思っていれば、艶のある髪を耳にかけ、口ごもりながら申し出てきた。
「すごく不躾なお願いだとはわかっているんですが、そのポーションを私に譲ってください」
「え? どういうことですか?」
「リリアーヌのポーションが、どうしても欲しいんです! ください!」
ドン引きするくらいの直球できたため、必死なのは伝わった。だが回答は保留しておこうと思った。
「ごめんなさい。急に言われても、いいですよとは言えません。演習のために作ったものだし、チームメイトに確認しないといけないから」
「それはわかっているのですが、どうしてもSランクのポーションが必要なんです。それなのに、どうやっても買うことはできなくて。今、初めてSランクのポーションを見たので、感激しているんです」
私の手をぎゅっと握り、潤んだ瞳を向けてきたため、ひとまず話をまとめることにした。
「何か事情がありそうだし、ポーションを譲るかどうかは、あとで考えさせてちょうだい」
「あっ、そうですわね。前向きに検討してください」
そう言って深々とお辞儀された。
なにやらわけありのクラスメイトの気持ちだけ受け止め、このポーションの使い道は、後ほどゆっくり考えることにした。
だが、この国の筆頭公爵家の令嬢であるマリエットの発言により、アルフォンスが指摘したSランクのポーションの価値について、事実だと認識された。
そのおかげで、クラス中のみんなから、羨望の眼差しを向けられている。
それがなんとも居心地が悪い。
だが、ここでビクビクしていても仕方がないし、ミラベルに言い返すには、いいチャンスだろう。
すっと姿勢を正すと、妹の方へ顔を向けた。
「Sランクのポーションは買えないみたいだし、これで私が作ったことが証明されたわね。今週末、実家に帰ったときに、お父様に報告するわ」
Sランクのポーションの貴重性を理解した今、これは使える。
魔法研究所員の選ばれし者しか作れないSランクのポーションを作ったという娘が、そう卑屈になるわけがない。そんな印象を植え付けてくる。
果たしてミラベルはどんな反応を見せるだろうかと思っていれば、私の想像以上だった。
耳まで真っ赤にしたミラベルは、今にも泣きそうな表情を浮かべながら、悔し紛れに言い放った。
「勝手にすればいいじゃない! 私は魔草を使ったポーションを早く作らないといけないから、リリアーヌに構っている暇はないから」
「そうね。私も魔草を早くポーションにしないといけないわ。だけど、ミラベルが見つけた魔草はチームメイトに譲ったはずじゃなかったの?」
「うっ──」
声に詰まり、それ以上に言い返す言葉が見つからなかったミラベルは、口唇をぎゅっと固く結び、ガタンと椅子の音を立てて腰掛けた。
その姿を確認し、私も作業の続きをしようと、空の瓶を手に取ったのだった。




