20 ポーション作り⑤
「ありがとう。心強い仲間がいてよかったな」
そう言って、出遅れた作業の進行を取り戻すように、僅かに残っていた薬草を手のひらサイズの瓶に押し込み、水を注いだ。
「あはは~、だいぶ、みんなとは違うね」
ふと本音が漏れた。
いろいろ気を遣ってくれるアルフォンスも、さすがに気の毒なものを見るような目で私の瓶を見ている。
本来なら、薬草がびっしり入っているはずなのに、私の瓶の状況を例えるなら、申し訳程度のわかめが入ったスープみたいな感じだろうか。
だけど弱音なんて吐いていられない。
薬草が足りなくても、ここはなんとか、やるっきゃないのだから。
そう気合を入れた。
◇◇◇
完成するポーションは、A、B、Cランクに分かれるみたいだ。余談だが、絶対にできないSランクという最上級のものも存在する。
緑色がAで、黄緑がB、黄色がCという感じに、薬草からいかに多くの成分を抽出できたかによって、色と効果が大きく変わる。
ただ一つ注意が必要で、緑だから、一概にAランクとも限らない。
色が濃いのに、透明度のあるポーションこそが、Aランクである。
というのは、ただやみくもに魔力を流すと、薬草がどろどろに溶けて濁ってしまうから。
成分だけを抽出できるのが上級ポーションであり、濁っているのは、薬草をただ溶かしただけの液体で、ポーションとは言えない代物になるのだ。これはランク外。
世間でいうポーションは、Cランク以上とされている。
最下位ランクのポーションが黄色いのは、成分を十分に抽出できていないからだ。
そのため、効果が低くなってしまう。
まあ学生のレベルだと、薬草に適切な魔力を通せないせいで、Cランクにも届かないらしいのだ。
だから、この授業では少し薬草を多めに入れているらしく、そのおかげで、大半の生徒はCランクのポーションに到達できるってわけだ。
ちなみにランクが高い程、創傷の回復能力が高いみたいで、Cランクのポーションで治せるものは、せいぜいかすり傷程度。
それがAランクになると、大半の傷を回復できる優れものになるらしい。
同じ材料でも、制作者の能力に大きく左右される。
乙女ゲームの攻略を目指している身としては、優劣がつく授業はやめて欲しい。恥をかくだけなんだし。
ちなみにAランクのポーションでも、身体の欠損を治すのは無理みたい。
身体の再生ができるのは、回復魔法の使い手だけらしい。私には関係ないけどね。
魔法を使えないヒロインでは、無縁の話だ。
それはさておき、窮地の現実に戻るか。
薬草多めの学生サービスを受けられなかった挙句、本来必要な量も足りていない。
これではCランク未満というのが席の山だろうし。
上級なものほど『濃い緑色』という時点で、物理的に作れるわけないし。
薬草が圧倒的に少ない私のわかめスープでは、お話にならない状況なのね。
コツのわからない私がこの状況でポーションを精製できるのは、もはや奇跡に近い。それはわかっている。
諦めの気持ちはあるが、ミラベルには負けたくない。どうしても。
次こそは嫌がらせに屈せず、より上級なものを作るからと心に誓い、最上級のポーションを思い起こした。
いつか、Sランクのポーションを作りたい。
だって手元にあれば、ミラベルや義母に狙われても、回復できる希望があるもの。
Sランクポーションは、怪我で失った血液なども回復することで、体力も全回復できるという万能なものらしいからね。お守りとして、ぜひ欲しいところ。
とはいえSランクのポーションを作れる者は、魔法研究所のトップの方だけという話で、とても貴重。
そもそも学生どころか、薬草学のカツキ先生でも作れないって言う、限られた人しか作れないポーションだ。
学生であれば、Bランクのポーションを作れたら、すごいと称賛されるレベルらしい。
ポーション作りの授業で私が失敗するのは、ミラベルにとって、好都合なのだろう。
姉の私がポーションを作れなかったと、父親へ告げ口する気なのが、見え見えだもの。あまりにも露骨すぎて、嫌になる。
足の引っ張り合いは現代の世界と、今の世界でも変わらなくて、本当に嫌い。
「はぁ~あ」と、深いため息をついた瞬間、鋭い視線を感じた。
カツキ先生が私を見てきたため、真面目な顔を取り繕い、気持ちを集中する。
「みなさんの準備が整ったようですので、これから同時に魔力を通してください」
カツキ先生が全員に指示を出した。
それに従うよう、薬草の細胞一つ一つを狙うようにして、繊細でありながら、かつ自分が放出できる魔力の最大量を手のひらから流す。
ただ一心に集中した。
そのため、周囲の音も視線も一切感じず、一体、どれくらい時間が経っていたのかわからない。
息が上がりそうなくらい、やりきった満足感はあった。
そりゃぁ~、圧倒的に薬草が足りないし、かつてないくらいの集中をしたから当然か。
気持ちを落ち着かせてから見た私のポーションで、今度は心臓が飛び跳ねた。
「な、何これ。めっちゃキレイだけど!?」
私の手のひらに包まれた小さな瓶の中には、透き通っているのに色がめっちゃくちゃ濃いグリーンをした液体が、太陽の光を反射するようにキラキラと輝いている。
そのあまりの美しさに、まるでエメラルドを溶かしたサイダーみたいだと思った。
ポーションができるはずがないのに変だなぁ~、と考えながら自分の瓶を上からそっと覗き込めば、ポーションから虹色の光まで出ている。
「これは……」
と呟いた私は、もしやSランクのポーションではなかろうかと考えてしまったが、さすがにそんなわけがない。
だってそれは、魔法研究所員のトップの人間くらいしか作れないという、今しがたカツキ先生が熱弁を奮っていた希少なものなのだ。
あるわけないと、自嘲気味に首を横に振った。
自分がすごいものを作ってしまったという、自惚れた考えを捨て去り、正面に座るアルフォンスを見た。
そうすれば、ぽかんと小さく口を開けてしまった。
彼もまた、美しく澄んでいるにもかかわらず、キラキラと光る濃い緑の液体を握っている。
そんなアルフォンスが私の手元を見て、くつくつと笑った。
「ほんとリリアーヌって、最高だよね」
どういう意味かしらと首を傾げていると、クラスメイトから「わあぁ~」という、大きな声が上がった。
何事かしらと、盛り上がる先に視線を向けると、やはりそこにはミラベルの姿があった。
ミラベルの瓶の中のポーションを見た先生が、弾むような声を出す。
「お見事、Bランクのポーションですわ! ミラベルさんは、稀にみる優秀な生徒ですね」
「先生の指導が良かったおかげですわ」
一瞬の判断で、褒め言葉をカツキ先生を立てる一言に代えていた。
敵ながら、聡い子だわ。
気味の悪さに、ぶるっと震えていれば、得意満面の顔で、私の方を振り返ってきた。
だが次の瞬間──。
私が握る瓶を見た直後に青ざめ、大きな声を出す。
「えっ! どうして、緑色の綺麗なポーションを作ってるのよ。それも、美しく虹色に輝いているんだけど、どういうことなの?」
目をパチクリするミラベルの横で、カツキ先生もぽかんと口を開けて固まっている。




