18 ポーション作り③
魔法準備教室は、大きな机を6人の生徒で並んで座る形式だ。小学校の理科室みたいな雰囲気に、懐かしい感情を覚える。
だが、課外活動を終えてすぐに、ポーションを作る授業という鬼畜スケジュール。前世の限界OLの日々を彷彿させる時間割に、げんなりもしているけど。
だけどこの時間配分の理由はちゃんとあるみたい。
担任の先生から「魔草は鮮度が命だ。今日は忙しいぞ」と言って送り出されているのである。
前世のテレビコマ―シャルにありそうな一言だが、魔草を採取してから時間が経過すると、魔力が抜けてしまう性質があるようだ。
そのため、課外活動の直後に組み込まれる、定番の授業らしい。
それに、一番初めの演習で、魔草採取をさせる大きな意味は、生徒の実践力の計測だ。
課題を当日発表の形式で行えば、実家のコネを使えず、ありのままの実力が反映される。
そのため、初回の演習内容は、外部に漏らしてはいけないらしい。
家族に聞かれても、あくまでも薬草採取で貫けという方針だ。
ちなみに私の頭の中では、ポーションなんか作らなくても、回復魔法くらいあるんじゃないの?
という疑問もあった。
だが、リリアーヌの記憶によると、回復魔法の使い手はいるが、そもそもそれを使える者は多くないみたいだ。
加護のある者だけが使える、かなり特殊な魔法らしい。
回復魔法でしか修復できない負傷もあるが、一人の術者が治療できる数は限られており、回復ポーションが主流で使われている世界みたいだ。
それに作り方は案外単純みたい。
水の中に薬草を入れ、魔力を通過させることで、本来持っている薬草の力を何倍にも引き出す仕組み。ねっ、簡単でしょ。
だけどそれはあくまでも言葉上で、実際は難しいみたい。
魔力を注入した人物次第で、効果が大きく変わるの。
このクラスの生徒は今、その手の説明を延々と聞かされている……。
きっちり結われたお団子ヘアの、いかにも気難しい女教師。そんな見た目の薬草学のカツキ先生が、うっとしいくらいの熱量で語っているのだから。
転生者の私には、カツキ先生の話はもの珍しく感じ、つい熱心に耳を傾けている。
だが、この世界の人なら、カツキ先生の説明はすでに知っている話なのかもしれない。中には居眠りをしている生徒もいるくらいだ。
実技の授業にもかかわらず、カツキ先生がやけに熱弁を奮ったせいで、授業の残り時間がかなり短くなってきた。
まだ始まらないのだろうか? そう思ったところで、口調が変わった。
「それでは、皆さんの前に、紙に包んだ薬草を置いてありますから、開いてください」
先生の号令に従い、畳まれた薄茶色の紙を両手で持ち、そっと中を確認する。
その瞬間「え?」と思わず驚きの声が漏れ、言葉を失った──。
私に配布されている薬草が、明らかに少ないのだ。
カツキ先生の見本では、わんさと薬草をビーカーに入れていたが、私の紙の上には、ぱらっと葉っぱの欠片が入っている程度である。
「おかしい……」
小さく呟き周囲の様子を見渡すと、やはりみんな、こぼさないように慎重に薬草をビーカーに入れている。
それも、カツキ先生の熱い語りのせいで、実技の時間が圧縮されているため、真剣な表情で黙々と作業を進めている……。
どうしていいのかわからず、再び私の両手の上に広げた薬包紙の上を見ると、どう考えても薬草が足りない。
「何よこれ。ひどいわ」
なぜだろうと考えるまでもなく、嫌がらせの4文字が脳裏をよぎる。
移動教室の席は、あらかじめ決められているため、迷うことなく席に着いた。少しギリギリのタイミングで。
私に配られている薬草に触れる機会は、このクラスメイトなら誰でもあり得るのだ。
こんな嫌がらせをして得する人物は1人だけ。ミラベルだ。
けれど、落第点と嘲笑っていたクラスメイトもいるし、確信は持てないけど。
もしもミラベルなら、私が今、どんな顔をしているのか見ているはず。そう思って、背後に座る彼女を見ようと、振り返った。
そうすれば、ミラベルとバチッと目が合い、にたりと笑われた。
間違いない。ミラベルの嫌がらせだ。
私が魔草を手にしたのが気に入らないからといって、露骨に妨害をするなんて。信じられないし、悔しい。
ただでさえ魔法が使えない私は、演習ではグループの足を引っ張る存在なのに。
だからこそ、自分ができることは、精一杯やりたいと思っている。それさえ邪魔してくるのは、最低すぎる。
そんなことを考えていれば、他の生徒たちは、すでにビーカーに水を入れており、作業はどんどんと進んでいた。
こうなれば、駄目もとで先生に訴えてみるしかない。
そう考えて、私はおもむろに手を挙げて、声を出した。
「カツキ先生……私の薬草が少ないんですが、補充してくれませんか?」
「少ないなんてないはずよ。他の先生と2人でチェックしているんですから」
と、訝しむカツキ先生ではあるが、ひとまず私の薬草を確認しようと、こちらに近づいて来てくれた。
よかった。ミラベルの嫌がらせも意味をなさず、ここはなんとかなる。
そう思ったが、状況は真逆だった。
私の席の横に立ったカツキ先生は、眉間に深い皺を刻み、声を荒げた。
「リリアーヌさん! あなたは準備された薬草を自分で床に落としたのに、私の準備に不備があると仰ったのですか!」
「あ? え? ち、違います! 私が包み紙を開いたときには、すでに少なかったんです」
慌てて言うと、冷酷なまでに冷たい視線を向けていたカツキ先生が、視線を床に移した。
先生の視線の先を追うように床を見ると、私の足元に、踏みつぶされたような薬草の残骸がいくつも落ちていた。
「う、嘘っ! なにこれ!」
「私は事前に一人分を計量した上で、別の先生が確認しながら薬包紙を閉じているんですよ。この現状は、リリアーヌさんが薬草を落とした以外にあり得ないでしょう!」
「わ、私が落としたんじゃありません! 初めからこうなっていたんです……」
「人のせいになさるのは、淑女として相応しくありませんわ」
私の意見を聞き入れてくれない教師に、人格までも否定された。やだ。違うのに……。
この場を丸く治める方法はないかと、数少ない友人に視線を向ける。
だが、真正面に座るアルフォンスに味方して欲しくても、彼だって自分の作業をしていたため、私が包み紙を開いた瞬間を見ていたわけでもないし、無理だろう。
この状況で、味方はいないと思ったときだ──。
ミラベルが、私を庇うような声を上げた。




