15 潰えたルート
そう……そうなのだ……!
ラビリンス学園というゲームの世界で、攻略対象と同じグループになって、初回イベントじゃないはずがない。
だからめちゃくちゃ気合いを入れていたのに、馬鹿だな私ってば。うっかりしてた!
リュカの好感度を上げるように動かなきゃいけなかったのに、私ときたらすっかり忘れて魔草採取にのめり込んでいたんだけど。やばい。
それどころかアルフォンスとじゃれ合って、小さな恋心を抱いていたなんて、ヒロイン失格ね。
本当は、リュカの好きなものとか、興味のあるものとかを聞き出すように、たくさん話しかけなきゃいけなかったのに、山道を歩くことに夢中になりすぎて、すっぽかしてしまったわけだ。
正直なところ、リュカの好感度を上げられた自信はない。
よくわからないが、偶発的に私が持っているっぽい特級魔道具で結界を無効化して、魔草の場所を当てたみたいだが、根本が違法らしい。
いや……違法って言われても、どれが魔道具なのかわからないし、反省のしようもないわけだ。
このままではいけない。
今の私は、乙女らしい愛らしさを見せず、闇の側面だけを印象づけたじゃない!
しかも、特級魔道具を隠し持つ、謎の怪しい人物になっただけ……。
だから、今、リュカとアルフォンスがこっそり話していることも、犯罪者の私をどうしようか? という話題のような気がしてならないのだ。
前世の妹は、結界を破る魔道具の存在なんて、話していなかったけど……ナニソレ?
でも、でも、でも、このグループの意見は多数決で決めるのよ。
だから私が魔草のありかを主張したから、クラス全員が向かった生息地とは、真逆に来たわけで、いい感じに成績に反映されるわよね。
活躍したんじゃないの……?
ああああーあ、わかんない!
恋愛メンタル赤ちゃんの私に、初回からこんな難問ぶつけて来ないでよ!
果たしてこの演習で、ヒロインとして活躍したのか? 窮地に墜ちたのか? 私自身でもわからなくなったという事態に頭を抱えている。
……いや、大丈夫。なんとかなるはず! ここはなんでもありの乙女ゲームの世界のはずだし。そうじゃなければやってられない。
まだ、挽回はできるよね。
そうだよねと、自分自身に言い聞かせていれば、急にアルフォンスの声が遠くから聞こえてきた。
どうやらリュカとアルフォンスの極秘の会話は終わったようだ。
何か言われるかもしれないという警戒心を持ちつつ、彼ら2人の方へ視線を向ける。
そうすれば、至って表情の読めない普段どおりの顔をしている2人が、私の元へやってきて、リュカが先に口を開く。
「お待たせしましたね、麗しのお姫様。それでは、学校へ戻りましょうか」
あれ? 急に乙女ゲームのセリフが飛び出したけど、このセリフは、好感度が上がったときに出る言葉だよね。
もしかして、恋愛の進捗も、結構いい感じなんじゃないかしら?
さっきの会話は、私には全く関係のない話だったのかな? と思うくらい明るくて元気な言葉が飛んできた。とんだ拍子抜けだ。
まあ、それなら、気にする必要はないだろうと考え、「うん」と笑顔で大きく頷き、往路と同じように、縦一列になって歩き始めた。
今回の課外活動では、先生からあらかじめ魔草は一株あれば十分だと聞かされていたため、指示通り、一つだけ手折ってきた。
この演習では、クラスの半分以上が、魔草を収穫できないにもかかわらず、私たちのグループは、全員が持っているのだ。なかなかの奮闘だと思う。
それは、前と後ろを歩く2人から溢れる雰囲気も明るくて、満足のいく結果になったのだと、感じ取れた。
往路よりもリュカの表情は穏やかになっているし、これからの時間は、いよいよ乙女ゲームの次回イベントチケットをもらうべく、攻略に集中すべきだ!
ふふふ、まだイベント中だし、これはチャンスだと、内心ほくそ笑んだ。
次は特訓イベントがあるはずだから、それを発生させると順調ね。
そう考えた私は、前を歩くリュカに向かって声をかけた。
「ねえ、リュカ。都合のいいときでいいから、魔法の特訓してくれないかしら?」
至って自然に頼んでみた。
すると、わざわざ立ち止まり、振り返ったリュカの顔色は、相当に悪い。
引きつった顔で私を見てきて、覇気のない口調で言った。
「どうして私に頼んでくるんですか?」
「それは、リュカと一緒に特訓をしたいなって思ったからだよ」
「それは嬉しい申し出ですが、私では荷が重すぎるので、辞退します」
「は……?」
目を見開き、あんぐりと口を開けた私から、変な声が出た。
嘘でしょう……。
初回イベント中に次のイベントに繋ぐことができなければ、そのキャラのルートに入ることはできない。
今まさに、リュカのルートに入り損ねているわよね……私。
半べそをかきそうな私は、がっくしと肩を落としたまま、次の言葉が出てこなかった。
黙ったままの私を見かねたのか、リュカが穏やかな笑顔で提案してきた。
「そもそも、魔法の特訓でしたら、私ではなく、アルフォンスに頼むべきですよ」
「いや、だって、アルフォンスの魔法は特殊っていうか、私が特訓したいのとは違うから、いいでしょう!」
ここで食い下がってなるものかと、必死に食らいつく。
だが残念なことに、先ほどよりも強めに断られた。
「いえ、私ではリリアーヌに何かを教えることはできないので、魔法の特訓はアルフォンスとしてください」
緊張を含む口調からは、真剣さが伝わってきた。
ええええぇ~、嘘でしょう……。
これってもしかしてだけど、リュカルートは絶望的なんだよね……。
悲しすぎるが、間違いないだろう。
ゲームではイベントに成功すれば、次回のイベントカードが貰えるルールだった。それがハッピーエンドにつながるの! ちなみにゲーマーの妹もそのエンディングは見たことはないけどね。
それで今、次回の約束を即刻で拒絶された。
拒否。イベント失敗。次の約束はしたくない。強固に……。
これらのネガティブワードが私の心の中でいくつも反芻し、闇に飲み込まれそうになる。
確認するけど、今、リュカルートに入るための、次のイベントカードを与えられなかったということだよね……。泣きそうだし、最悪だ。
クリアしないと死ぬゲームで、一番攻略しやすいと考えていた対象のルートに入れなかったというのは、もう絶望じゃない……。
恐怖のせいだろうか? 指先が小さくカタカタと震えている。
本命にしていたリュカルートが、途絶えた。
それを受け入れられない私が泣きそうになっていると、少し不機嫌そうな声が、背後から聞こえた。
「ねえ、なんで俺のことは誘ってくれないの?」
「そ、それは、アイスボールを飛ばす特訓だし、アルフォンスよりリュカの方が成績が良かったから、お願いしたんだけど」
本来の理由は、攻略対象との次回のイベントだからである。だが、こんなことを馬鹿正直に言えるわけがない。
乙女ゲームのイベントのことを話せないとなれば、試験結果を言い訳にするのが一番だろう。
これで納得したわよね。
そう思っていると、少し不機嫌そうな口調のアルフォンスが、意味深な言葉を告げた。
「ってことは、リュカが好きだから誘ったわけじゃないんだ。それならまあいっか」
「え? どういう意味?」




