11 魔草採取②
私たちの中で、ルールを決めて少し経ったころに、担任の先生が教室へ入ってきた。
「10グループ全部、揃ってるか?」
「は〜い」
と答えた感じが、気怠そうで、なんともバラバラだ。
それでも担任は気にせず課題を説明した。
「学園の裏山で魔草を1人1株摘んで戻ってくること。但し、魔草は全員分はないぞ。おそらく3人に1人しか採取できないはずだ」
「えー、それってどういうことですか? 要するに早い者勝ちってことですか?」
男子生徒が手を挙げて質問した。
「そのとおりだ。採取できなくても、午後からの授業に間に合うよう、戻ってくるんだぞ」
その説明に、クラスメイトは一斉に「はい」という大きな声で返答した。
なるほどね。
午後の授業に着席していれば、昼休みの時間の使い方で、戻りの時間を調整していいということだ。
「それじゃ、気をつけて採ってこいよ」
と、担任の先生から出発の合図があったため、みんな一斉に教室を飛び出した。
なにせ、微量な魔力感知が必要になるため、魔力を持った人間が裏山に散らばったあとでは、感知が難しくなる。
ある意味一番乗りで裏山に到着した方が、魔草を持って帰れる可能性が高まるわけ。
そうなればみんな必死だ。
風魔法を使って、我先にと裏山へ向かっていった。
私はというと……。
完全にこのグループの足を引っ張ったのは言うまでもない。
魔法が使えないせいで、他のクラスメイトのように、何倍も早く走ったり、飛んだりできないから、かなり不利。
無暗に走ってみたところで、無駄に体力を使うだけ。
この先、広大な裏山を歩き回るのに、無駄なダッシュも、得策ではない。下山できなくなれば、洒落にならないし。
アルフォンスが「焦る必要はない」と声をかけてくれたため、至って普通に歩いて向かった。
私のせいで、他のクラスメイトよりも、遅れて裏山の入り口に到着する形となり、心底申し訳ない。
そうして目に入ったのは、木が茂った深い森のような雰囲気だ。
「ねぇ、この山には、魔物もいるの?」
「学園の裏山には、魔物が生息できないよう結界を張っているから、遭遇することはないよ」
「だから、入学直後の学生同士でも単独行動ができるのは。でも私、2人とはぐれたら帰れる自信がないな。置いていかないでね」
「心配いらないよ。リリアーヌは常に真ん中にいればいいから。それに裏山の範囲で迷子になっても、人の気配を探知できるから、好きなように動いて問題ないよ」
「リュカは詳しいのね」
「魔物討伐に、父に連れて行ってもらうことがあるから、そのときにいろいろ教えてもらうんだよね」
リュカの丁寧な説明に耳を傾けながら進んで来たところで、私たちの足が止まった。
この先の道は、3方向に分かれているのだ。
左右と前方に分かれた小道を一つずつ視界に捉えた、アルフォンスが口を開く。
「ここで、どちらに進むのか決めないといけないみたいだね」
アルフォンスの言葉に対し、瞬時に左という選択肢が浮かんだ。迷うことなく。
だがここは、リュカの意見を聞いてみたいという感情を優先した。
静かに考えている様子のリュカは、魔力探知をしているのだろう。
目を閉じて感覚を研ぎ澄ませている。
しばらくその様子を見つめ、私の意見と重なりますようにと願う。
例えるならこれは、答え合わせみたいな感覚だ。
少しすると、リュカは何かを探知したように眉根をぴくっとさせ、ゆっくりと瞼を持ち上げた。
その一部始終を見守っていたアルフォンスが、リュカに意見を求めた。
「リュカはどの方向に進む判断をしますか?」
「僕は右に行くべきだと、思います」
その言葉で、右の小道を3人同時に見た。
さすが攻略対象男子。自分の意見をはっきり言って、カッコいい。私なんて、答えが合っていたら意見しようと、少し狡い考えでいた。
そう思っていたけれど、リュカの意見に賛同できず、口唇をきゅっと結んだ。
そんな感情を知ってか、知らでか? アルフォンスの顔が私に向いた。
「リュカは右らしいけど、リリアーヌはどう思う?」
クラスの中で一番出遅れた状況にもかかわらず、全く焦る様子のないアルフォンスが、わざわざ私の意見まで尋ねてくれたのだ。
魔法が使えない私の意見なんて、聞く価値もない気がするのに、そうしないのがアルフォンスらしくて、好きだ。
こうして私をメンバーの1人としてちゃんと扱ってくれたことが、何より嬉しかった。
それなら、自分もきちんと答えたいと感じてしまい、勇気が湧いてきた。
たとえ、私の意見は却下されたとしても、引っ込み思案になる必要はない。
意見は正直に伝えようとアルフォンスを見つめた。
「私は左の山道がいいと思う」
そう言って、伸ばした腕で左を指した。
「どうしてそう思うの?」
「この山道のかなり奥に、わずかな魔力を放つ何かが、たくさんあるし、それは、ここに立ってから一度も動いてないから、魔虫ではないと思うの」
その言葉に小さく頷いたアルフォンスが、リーダーのリュカを見やる。
意味を察したリュカは、私の見解を聞いたうえで、意見をまとめようとしてくれた。
「リリアーヌの意見を聞いても、私には魔草の魔力を左の山道の先に感知できません。なので右へ行くべきだと思います。私とリリアーヌの意見が分かれていますが、アルフォンスはどう思いますか?」
ここでもしもアルフォンスが正面と答えても、私たちの向かう先は右になる。
意見が分かれたときは、リーダーの判断に従うと、事前に取り決めた。
そのルールを覆す気はない。
どうせ私の思い違いだと否定されると思っていたが、おもむろに口を開いたアルフォンスから、驚愕の意見が出てきた。
「俺はリリアーヌの意見に賛成だね。右より左の方が、俄然魔草が多いから。なかなか探知が難しい場所にあるせいなのか、他の生徒は左へ誰も向かってないし、今から右に行っても、先行してる連中に全部採られて終わるだけだから、左しかないかな」
あまりにも凛とした口調だった。
「左!」
自信と説得力のあるアルフォンスの答えに、私とリュカの声がハモった。
どうして、そんなはっきりと探知できるのか? 理解できないことはあったが、ひとまず目的の方向へ進むのが先決だろう。そう思って確認をとった。
「えっと~、じゃあ、私たちが向かうのは、左の山道でいいってことだよね?」
「もちろんです。2人の意見が重なったので左に行くことに異論はないですが……。すみません。私には2人の指す魔力がわからないので、少し困惑してます」
「私も右に魔草らしき魔力は感じるけど、それ以上に人の気配を感じるわ」
「リリアーヌはちゃんと魔草の魔力を感じとっているんですね。それでは迷う必要もありません。クラス全員分ないのなら、ここは冒険するしかないですし」
「きっと、行けば見つかるから大丈夫だよ」
どうしようもないくらい楽観的な言葉をリュカに返したが、ただ感じる。それだけで、うまい説明は見つからないから仕方ない。
「もしもこの先に魔草の群生地があれば、アルフォンスとリリアーヌは、とんでもない魔力量ですね」
私たちが、一斉に歩き出そうとしたときだ。
背後から、突如として声が聞こえた。




