1 まさかのハズレ転生!①
久々の異世界恋愛の連載です。
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「ねえ、死んでくれない?」
入学して1週間が経過したラビリンス学園の放課後。突然、不穏な言葉が背後から聞こえ、振り返った。
そうすれば、先に教室を出たと思っていた腹違いの妹が立っていた。
「今の言葉はミラベルが、私に言ったの……?」
「ええ、そうよ。私の姉が、愚図で無能だという噂が広がるのは、すごく迷惑なのよ」
私を蔑むような視線を向ける妹が、冷たく言い放った。
「き、急に何を言い出すのよ」
「お姉様が伯爵家の跡取りなんておかしいのよ。ですから私がアルドワン伯爵家を継ぎますので、一刻も早く私の周りから消えていただきたいの」
嫌悪を滲ませた妹の低い声が教室に響き渡り、2人きりの空間に不穏な気配が広がった。
母親違いの妹のミラベルは、幼い頃から魔法も得意で勉強においても優秀だった。
その母親も、今では商才を発揮している。輝かしい母娘だ。
一方の私はといえば、魔力はあるのに、なぜか魔法が使えない落ちこぼれ。
そのせいで有能な家庭教師はミラベルに取られ、満足な学習環境を与えてもらえず、勉強もそこそこ。
結局全部がパッとしない。
母親は私が6歳のときに亡くなった。理由は、伯爵家に絶望して自ら命を絶った。
優秀な妹と落ちこぼれの姉という関係だ。ライバルにもなれないなりほど、すでに差が開いている。
私の想像では、不出来な姉がクラス中の笑われ者になっていく姿を見るのが楽しみなのだろうと思っていた。
だから内心、死んでくれと言われるのは想定外で、正直、寝耳に水状態である。
というのも、ミラベルは好条件の嫁ぎ先を望んでいると思っていたし。
父親の前では、高位貴族の婚約情報をいつも確認していたから、いい嫁ぎ先を探していると思っていた。
だから伯爵家を自分のものにしようと企んでいたなんて、まったく気づいていなかった。
同じ年なのに、母親違いの妹がいるのは、第2夫人を持つのも当たり前のエスニコ帝国において、さして問題でもないのだろう。
とはいえ私は、母を精神的に苦しめた挙句、死に追いやった妹のミラベルも、その母親も、お父様のことも家族だなんて思っていない。
だけど、一番許せないのは、魔法を使えない私自身なんだけど。
正妻の産んだ子が、魔法を使えない不出来な娘となれば、夫の愛情は第2夫人とその娘のミラベルにばかり向けられていった。
そのせいで、母の居場所はなくなってしまったのだから。
私は母を孤立させて、死なせてしまったのだ。
その負い目のような感情は、16歳となった今でも消えない。たまに思い出して泣いてしまうほど、鮮明に残っている。
母が亡くなったあの日、私も消えていれば良かった。そう思うこともある。
私と母が暮らしていた別邸に火が上がったが、私だけ逃げ延びてしまったのだから。
別邸が急に燃え広がったのは、気が触れた母が油を撒いて火をつけた。そう検証された……。
全部母がやったこと。
その結果、どうして母を止めなかったと父親に叱られたけど、私だって気づいていれば止めていた。
母を失い父はショックを受けていたから、父親なりに母を愛していたのだと知った。
それならもっと前に愛情を示していれば良かったのに。自分勝手すぎて、どうしても好きになれない。
だって、子どもの私は父以上に悲しかったし、母を救えなかった自分を責めた。何度も何度も。
私の母がこの世からいなくなったことで、第2夫人のミラベルの母が、唯一の女主人となった。
元第一夫人の子となった私は、子どもながらに悟った。
自分は味方がいないのだから、余計な主張はせず、影を潜めて生きていかねばならないと。
だから私はミラベルを不快にさせないよう、目立たず生きてきたのに、今日までの努力はなんだったのだろう。
すでに十分な衝撃を受け、この場から立ち去りたい私の感情をよそに、妹の罵声は続いた。
「この学校の生徒に、お姉様が魔法を使えないと知られる前に、死んでくれないかしら?」
「そんな言い方……姉に対して酷すぎるわ……」
「ずっと、あんたのことを『お姉様』って呼ぶもの腹立たしく思っていたのよ。お母様があんたを殺し損ねて、嘆いていたわ」
「そんな……」
「まさかショックを受けてるの? 笑えるわね、その顔。なんで今まで気づかないの? 愚図だからでしょう。そんなあんたのことなんて、従者以下の存在にしか見てなかったわ」
「最低な人間ね。別邸に火をつけたのは、ミラベルの母だと知らせるわ」
「今さら何を言っても信じてもらえるわけがないでしょう。お母様のおかげで、伯爵家の事業が大きくなったのよ。元第一夫人は殺されたと言い出したら、あんたが、ただ言いがかりをつけてるだけに思われるわ。それにもう時効だし、残念ね」
そう言ったミラベルは、にやりと口角を上げた。
「人殺しのあなたたちは、伯爵家から出て行ってよ」
「だからわかんない女ね。消えるのはあんた。後継者登録を抹消する手続きをするか、早く死ぬかどっちかにしてよ」
これまで父親は、私を後継者にしたまま変更しようとしなかったのだ。
変更するとなると、第三者の前で、私と父が書類に署名をしなければならないし、どんなに私が落ちこぼれでも、私はそんな署名をさせられていないのだから。
まあ父親の思惑は、わかっている。
自我を主張しない私に優秀な婿養子をあてがい、社交的なミラベルに、好条件の縁談を結ばせることで、伯爵家を強固なものにする。そんなところだ。
家督の後継者は現在私だ。
それは、私が行方不明になったところで、5年は抹消されない法律がある。
明らかに死亡が確認されるか、後継者の変更手続きをしなければ、ミラベルに受け継がれることはない。
私がそのまま逃亡すると、ミラベルにとって不都合なのが、すごく厄介だ。
逃げれば地の果てまで私を探し、暗殺者を差し向けてくる。そんな恐怖を感じ、一歩後退りした。
だけど逃げたくない。
母を殺されたと知ったのに、伯爵家の家督を、この母娘に差し出し、負けるなんて絶対に嫌だ。
その湧き上がる感情が、不安で震える身体を静かに鎮めてくれる気がした。
静かに息を整える私とは裏腹に、ミラベルがまくし立てるように続けた。
「死にたくないなら退学してよ」
「そんなこと、できるわけないじゃない。退学なんて、お父様が許してくださるはずないことくらい、わかるでしょう」
「あっそう。それなら私からお父様に、あんたのことを、そっと耳打ちしておくだけね」
「ミラベル……あなた、お父様に何を言うつもりなの……」
「魔法を使えないあんたは学校に馴染めず、自暴自棄になっていることと、お父様に合わせる顔がないから屋敷にも帰れないと、寮の部屋に引きこもってるって、伝えてあげるわ」
「や、やめて……」
そんなことをされてしまえば、父は勘違いするだろう。
もしも私が死んでも、私も母親と同じ道を辿ったと。
仮にミラベルの犯行で私が殺されても、一切調べられることなく片付けられてしまう。自殺だと。
少し前までのミラベルは、私と学園に通えることを嬉しそうに父親に話していたのだ。
魔法を使えない自分のことを優しく受け入れる姿に、父親は感謝さえしていた。騙されるに決まっている。
あのときの満面の笑みは、私を追い詰める材料が揃うことを喜んでいたのか。この妹は、性格が歪んでる。
こんな家族の存在なんて、吐きそうになる。
「次の週末に伯爵家へ帰ったら、お父様に報告して差し上げますわ。学園を中退したがっている姉よりも、きちんと卒業する私の方が、伯爵家を継ぐ人間に相応しいことをね」
「余計なことはしないでよ。魔法が使えなくても、私は困っていないし、自暴自棄にもならないわ!」
「ふんっ! 馬鹿ね。貴族なら当然使える魔法が使えない人間が伯爵家に存在していることが、うざいの。あんたのせいで、血が汚れていると思われるでしょう。存在そのものが、お荷物以下の、ゴミでしかないのよ!」
「ゴミなんて言い方は、やめてよね」
「事実を言われて怒ってるんだ。滑稽ね。ラビリンス学園でアルドワン伯爵家の名前を汚す前に、早く消えて。迷惑なのよ。くず!」
どこまでも強気で、流れるように罵倒してきた。
ミラベルの母親と共謀して、私をとことん追い詰める計画を立ててきたのだろう。そうでなければ、ここまですらすらと言葉は出てこない気がする。
次の週末、ミラベル1人で伯爵家に帰れば、何を言いふらすか、わかったものじゃない。
それこそ、ミラベルの思う壺だ。
父に一方的に私の都合の悪い話をされた挙句、殺されるかもしれない……。
それも自殺扱いされて、犯人に一切のお咎めなしという計画。そんなのは、絶対に邪魔してやる。
どうすべきか?
何か打つ手はないかしら?
解決策を考えようと顔を伏せた次の瞬間──。
いきなり胸部に強い衝撃を受け、後方によろめくようにバランスを崩してしまった。
急に感じた痛みに、動揺しつつも咄嗟に顔を上げた。
そうすれば、両腕を前にピンと突き伸ばしているミラベルが、不敵な笑みを浮かべていたのだ。
手のひらを私に向けた姿は、紛れもなく私を突き飛ばした。瞬時に察した。
ふいに受けた衝撃は、ミラベルの狙いどおりに進んでしまう。悔しいけど。
体勢を持ち堪えられず、あっ、これ転ぶやつ、という言葉がよぎった。
案の定というべきか、その感覚は無情にも正しくて、私の身体は、バランスを崩したまま、後ろに倒れていく。
貴族のくせに魔法を使えないと、こんな荒っぽい扱いばかりで、苦しいことばかり。
いい加減解放されたいな。
これまで堪えていた感情が、目頭に熱いものに変わってきた。悔しい。ここで泣きたくないのに。負けたくないのに。
憎しみと情けなさで感情が大混乱するなか、身体はどんどんと床に向かって傾いていく。
実際は数秒しかなかったはずだけど、何分もあったように感じるた。不思議にも。
スローモーションのような動きのせいで、ミラベルの勝ち誇った笑みが、強烈なまでに視界に入ってきて、むかついて仕方ない。
あああ〜もう! 魔法が使えたら、顔面狙ってファイヤーボールでも飛ばしていたのに。
それができない自分も嫌になる。
こんな世界は大嫌いだ。
心の中でそう叫んだ瞬間、私の頭が床にぶつかった衝撃音が、ゴンッという大きな音を立てた。
感じる強い痛みと共に私の意識が徐々に薄れていく。
「あら~? お話し中に失神なさるなんて、体調が悪いんじゃないかしら? 明日からしばらく休養なさった方がいいわよ」
「っ……」
「ふふふ、あんたが何を主張したって、私が言えば、クラスメイトは誰の言葉を信じるのか? その目で見ればいいわ」
私を突き飛ばしておきながら、笑っている。ミラベルは異常すぎる。多少なりとも妹と思っていた自分が馬鹿だったな……。
この妹の言いなりになる人生は嫌だ。生まれ変わりたい。
ミラベルの高笑いを耳にしながら、この世界から解放して欲しいと心の底から神に願った。
このときは、まさか本当に私の願いを聞き入れてもらえるとは、微塵も思っていなかったのだが……。
◇◇◇
長く続けていきたいので、皆様の応援を、よろしくお願いします。




