第四章 塩田参法その壱「跳毬」
仕事を終え帰宅。夕食、入浴を済ませ部屋へ行き、パソコンを開く。
まず、塩田三法その壱・跳毬を成功させようと下落する株を探した。
指南書によると、経済の影響で上場企業のほとんどの株が下がってしまう場合がある。
この場合は大抵、朝から下がって1日中そのまま下がったままである。
狙うは決算発表での大幅な赤字や、食品を扱う会社なら食品偽装、製造業なら大量のリコール発表など。
しかし、初日からそう簡単には見つからない。
そのまま2日3日と日時は経過した。
今日は週末金曜日。浩と研史は、練馬区の中根工業から工作機械のバランスを見てほしいとの依頼を受け、朝から車で向かった。
「とうとう金河さんも証券会社の口座を作ったんですか。どの株を買おうかとか、もう決めているんですか?」
「いや、これからじっくり選ぶよ」
「やっぱ肉ですよ肉!吉松家の牛丼、ミートフードのステーキ」
そんな会話をしながら車は中根工業に到着。
中に入ると、すぐに事務所があり製造主任、中谷が対応。
「どうも、どうもご苦労様です。機械のバランスがおかしくて、250ミリの長さを研削すると左右で100分の2ミリの誤差が出るんです」
現場に案内してくれる。
「分かりました。すぐに見てみます」
「よし研史、俺たちの腕の見せどころだ!」
「はい。やってやりましょう!」
「ところで金河さんと岡谷さん、昼食はどうされますか?」
「そうですねぇ」
浩は研史を見て。
「近くの食堂でも行くか?」
「そうしますか」
すると製造主任、中谷は、
「もし良かったら昼食、うちの社員食堂でどうですか?お二人のお弁当、頼んでおきますよ」
「それはありがたいです」
「12時からは、うちの社員で混んでしまいますが12時20分くらいから空いていますよ」
「それではお言葉に甘えて。ありがとうございます」
浩は礼を言った。
そして浩と研史は工作機械の修理に取りかかる。
中根工業は従業員15人くらいの会社である。年配の方が多い感じであるが若い人も2~3人いる。
工作機械の分解清掃。摩耗具合などをチェックする。
一段落付いたところで時間は午後12時25分。
「それじゃあ昼休憩は12時30分から1時30分という事にするか」
と浩は言う。
「OKです」と研史は答える。
浩と研史は社員食堂入口横にある手洗い場で手を洗い食堂へ入る。
カウンターのところに(マルコーさんお弁当)と書いた紙が載せてあるお弁当が2つ。そしてその横に湯飲み茶わんがある。
お弁当と湯飲み茶わんを取り、空いているテーブルに行き、お互い向かい合って座る。
テーブルにはやかんがあり、お茶が入っている。湯飲み茶わんにお茶を注ぎ食事を始めた。
食堂にはテレビがあり、お昼のニュースが流れている。
「次のニュースです。東京都荒川区のマンションで耐震偽装が発覚しました。施工主は六ノ城建設で、鉄骨の数を少なくして建設した模様。警察は、設計者と施工会社に事情を聞く方針です」
スマホでチェックする研史。
「六ノ城建設って、東証スタンダード。上場企業ですね」
「ふ~ん・・・」
浩は東証スタンダードという区分けがいまいち分かっていない。
しかしあの本に書かれてあったあの法則が頭に浮かんだ。塩田参法その壱、跳毬。
「あーー!」
食堂にいた中根工業社員が浩の大きな声に注目」
「すいません、すいません」
浩はすぐにスマホで、六ノ城建設の株価をチェック。
六ノ城建設の株価は本日始値が1,165円。
耐震偽装の報道が出てから株価は下がる一方で現在は985円。
現在の時刻は12時40分。休憩時間終了まであと50分ある。
「跳毬、くるか」
株価が980円になったところで981円に上がった。
「くるか、くるか」
(もし買ってから10円上がったら、100株なら1,000円の利益だ。俺的には1,000円でも十分嬉しいけど200株なら2,000円だ。証券口座には100万円入っている。1,000株買えるぞ。いや、必ず上昇するとは限らない。100万円全部使うなんギャンブラーだ。どうする?)
そして株価は982円に上がる。
浩は考えてスマホを操作。
「よし。六ノ城建設の株買った!」
浩の一言を聞いた研史はびっくり。
「え、六ノ城建設の株買ったんですか?耐震偽装で暴落しますよ。どうしちゃったんですか?」
浩は険しい顔をしながらさらに一言。
「塩田参法その壱・跳毬だ!」
そして六ノ城建設の株は、まるで毬を投げて地面から跳ね上がったように弧を描いて上昇。
その株の動きを研史もみてびっくり。
「なんで上昇するんだ?」
株価は985円、986円。そして990円まで上昇。
向かい合って座っていた研史は、浩の隣に座る。
浩のスマホを弁当箱の上蓋に寄り掛けるように置き、2人はスマホを凝視しながら昼食を取った。
そして休憩時間が終わる10分前に再び下がり始めた。
「今だ!」
浩は買った株をすべて売却した。
「982円で買った株を994円で売却だ」
「え、えっと12円。100株ですか?1,200円儲かったんですか?」
「いや、儲かるとしたら100株より、それ以上買ったほうがいいと思ったんだ。でも儲かる保証はないわけであって全額は使っちゃダメ。それで」
浩は研史にスマホ画面を見せた。
売り注文全量約定500株。
「500株ですか。12円×500株で6,000円。昼休みの短時間に株買って売って6,000円て、羨ましいですよ。
でも、よく耐震偽装で下がるだろう株を買いましたね」
「うん。塩田参法を信じたんだ」
「えっ、シオダサンポー?」
「株で初めての利益6,000円。あ、幸栄に報告だ!」
浩はスマホでメッセージを送信する。
「よし、仕事だ。今日中に機械、直しちゃうぞ」
「あ、はい」
スーパーマーケット「マルトク赤羽店」でパート勤務の幸栄のスマホに浩からのメッセージが届く。幸栄はメッセージを見る。
スマホメッセージ(100万円が100万6,000円になった)
「なに?」
浩と研史は工作機械の修理を終え会社に戻る。報告書を書き帰宅。
今日、株で6,000円儲かったことを幸栄、祐衣、祐真に自慢するのであった。今日のビールは格別に美味い。
今回の経験で、塩田参法で株をやれば大丈夫だと思いがちだが、浩は違う。元々、真面目な性格。明らかに今までの自分のやり方とは違う行動でお金を稼いでしまったわけである。何でも基本が大切。もうちょっと塩田参法以外の株の事を勉強するべきであろうと浩は思うのであった。
とりあえずはこの本「極み相場」以外の本も1冊くらい買って読んでみようと思うのであった。
次の日、浩は仕事帰りに例の古本屋に寄った。
この古本屋が好きというわけではなく単に新品で買うよりは古本で買ったほうが安いだろうし、他の古本屋は知らないからこの古本屋に来た。それが理由である。
浩は経済の棚を探す。300円とか400円。けっこう手頃な値段で株・投資の本が売られている。
浩はレジ近くに居る店主を見ながら思う。
(あの店主にしては良心的な値段だな)
浩は株式投資入門というタイトルの本を購入。
自宅に帰ってから読んでみる。
それから、東京証券取引所で行われている初心者用無料セミナーや証券会社が主催した経済評論家の講演会に出席した。
経済評論家曰く「投資に使えるお金が50万円あるとします。株1銘柄を50万円分買ってしまうのはダメです。例えば15万円で買える株を2銘柄。10万円で買える株を2銘柄。このように分散させて買う。このほうがリスクを抑える事が出来ます」
「信用取引は証券会社からお金を借りて投資が出来るので自分の証券口座に入っている金額より多くのお金で取引が出来ます。しかし多くのお金で取引する事になるのでかなり大きなリスクとなります。初心者のうちは手を出さないほうが無難だと言えます」
浩は、配当・株主優待・譲渡損益非課税枠・分散投資の必要性・信用取引のリスクなどを学ぶのであった。
とりあえず良さそうな株を2~3株買う事にする。
買ってずっと持っているのであれば、配当金と株主優待を合わせて年間買った金額の4%以上の配当があるものを選ぼう。調べるとけっこうある。
「う~ん。どれがいいだろう?」
そして浩は以前、研史が言っていた言葉を思い出した。
「やっぱ肉ですよ肉!吉松家の牛丼、ミートフードのステーキ」
「俺は魚が好きだけど、幸栄・祐衣・祐真は、お肉好きだし。
俺だって、たまに牛丼が食べたくなる時があるし、お持ち帰りで牛丼4つ買って家でみんなで食べてもいいし。100株保有で半年に1回3,000円分の食事券が届く。1株1,250円。よし!吉松家100株買いだ。125,000円。
それとミートフードは・・・1株840円。300株所有で半年に1回3,000円分の食事券。1,000株所有で6,000円分だ。
家族4人でステーキ食べに行くんだったら6,000円分の食事券が欲しいところだけど1,000株だと84万円必要だ。ちょっと高過ぎる。300株でいいや。252,000円。2つの銘柄合わせて377,000円也」
次の日、会社の食堂で昼食をとった後、浩は株を購入した。前日終値から変動あり。吉松家ホールディングス100株124,600円。ミートフードサービス300株251,400円。計376,000円。
「なぁ研史、吉松家とミートフード、配当と株主優待貰えるのはいつなんだ?」
「吉松家とミートフードは4カ月先ですね」
「売買だと即効性があるのにな。まぁ、焦ることはないか」と浩は思う。
また来週、アップします。




