うさぎさんとわたし
※本話には、倫理的忌避感を伴う描写が含まれます。直接的な描写はありませんが、状況的にそれを強く示唆・連想させる展開となります。苦手な方はご注意ください。
寝台に寝かされた“うさぎさん”を見つめていた。
胸のあたりがへこんで、
綿がすこしはみ出していて、
かわいそうなくらい、しぼんでいた。
「……ごめんなさい、パパ。また、こわしちゃった」
しょんぼりとうつむくわたしに、
パパはやさしくわらった。
「いいんだよ。パパが魔法で、もっと可愛くしてあげるから」
その声を聞いて、わたしは胸がぽっと温かくなった。
だってパパはすごいんだ。
いつだって、壊れものをなおしてくれる。
パパのお膝。
そこがわたしの特等席。
わたしはそこにちょこんと座って、
パパのきれいな指が動くのを、じっと見ている。
「ねえパパ。うさぎさん、いたくない?」
「大丈夫だよ、クラリカ。これは“魔法のおなおし”だからね」
そう言うと、パパの指がうさぎさんの胸元をひらいた。
ちく、ちく……
銀の針が静かに光る。
……針?
わたしの腕がふと、ひやりとした。
でも、それは痛みじゃない。
うさぎさんのほうが“痛いはず”なのに、
どうしてかわたしの胸がきゅっとした。
「パパ、がんばって……」
「うん、いい子だね。見ていてくれると、上手に出来るんだよ」
針がうさぎさんの中に入る。
ちく、ちく……
でも、不思議。
胸の奥があたたかくなって、息がすこし震える。
ああ、これ……。
なんでかな。
なんだか、くせになりそう。
あ。
そこ、綿がすくないところ。
へこんでて、かわいくないところ。
「ここだね。もっとふわふわにしようか」
「うん。いっぱいつめて!」
パパの指が白い綿をつまんで、
うさぎさんの胸の奥に押し込む。
ぐっ、ぐっ……おくのほうまで、しずかに、ていねいに。
そのたび、わたしの息がふるえる。
なんでだろう。
わたしは見ているだけなのに。
うさぎさんの形がふくらんでいく。
まるくて、かわいい形に変わっていく。
うれしい。
うれしい。
……うれしい?
あれ、なんで“わたし”がうれしいの?
「……パパ」
「どうしたの?」
「うさぎさん……よろこんでる?」
「もちろんだよ。クラリカと同じように、パパが大好きだって」
胸が、どくんと跳ねた。
ちく、ちく、ちく。
針の音が続いているはずなのに、耳の奥では“ひとつだけの心臓”が鳴っていた。
頭がふらふらする。
視界がにじんで、
寝台に寝かされている“白いもの”の形が歪む。
あれ……わたし……?
うさぎさん……?
境界がやわらかく溶けて、
あたたかい綿みたいに混ざっていく。
パパが、なでてくれた。
うさぎさんのあたまを。
「もう、どこもいたくないね」
「……うん」
「もう、こわくないね」
「……うん……」
えへ。
へへ……えへ、えへへ。
「――おやすみ、クラリカ」
やさしい声。
わたしはあんしんして目をとじる。
パパの腕のなかで。
寝台のうえに横たわるのは、
うさぎさん?
わたし?
もうわからない。
でも、どちらでもいい。
どちらもパパのものだから。
まぶたのうらで綿の実がはじける。
しずかで、
やさしくて……取り返しがつかない。




