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転生悪魔、現世に降臨する。~ただしチートは時代遅れでした  作者: 妙原奇天


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第5話 最弱パーティとの出会い

 朝靄の立つエルデ領。

 暴走を鎮めた魔導炉は静かに青光を放ち、村には久々の安息が訪れていた。

 だが私の仕事は終わっていない。

 この地の魔法体系――それを知ることが、私の“再定義”の第一歩だ。


「アザゼルさん、今日から領内の訓練場を見てほしいって、ミレーユ様が」

 リナが麦のパンを齧りながら言う。

 彼女はすでに村人たちと打ち解けており、子どもたちから“巫女のお姉さん”と呼ばれていた。

 神官の素質は、どうやら生来のものらしい。


「訓練場、か。

 この時代の魔術師たちが、どれほど“理解している”か見せてもらおう」


 領の広場に設けられた訓練場には、五人の若者が集まっていた。

 彼らが“辺境魔導隊”――ミレーユの直属の護衛であり、同時に領を守る唯一の戦力だという。


 だが、一目見て分かった。

 彼らは“弱い”。


 鎧は擦り切れ、杖は安物。

 背負う魔導符は複製札ばかり。

 訓練を見守る兵士たちも、どこか諦めた顔をしている。


「こいつらが……魔導隊?」

 リナが小声で呟く。


「失礼ながら、うちの戦力は慢性的に不足してまして」

 ミレーユが申し訳なさそうに微笑む。

「彼らは“チート式”に適合できなかった者たちなんです。

 符を重ねると術が暴発したり、うまく発動しなかったり……。

 でも、心だけは折れていません」


 私は一人ひとりに視線を走らせた。


 ひょろ長い青年――風属性を扱うが、魔力が細すぎる。

 黒髪の少女――火術の適性があるのに、符が過反応を起こしている。

 短剣使いの少年――魔導符ではなく素手で符を操ろうとしている。

 そして最後に、銀髪の少女がいた。

 その瞳は氷のように澄んでいたが、杖を持つ手は震えている。


「名は?」


「……リアナ・ヴェール。元・魔導学院生です」


「学院を?」


「“旧式詠唱”を捨てられず、退学処分に」


 彼女の声は静かだったが、芯があった。

 周囲の空気が少しだけ変わる。

 私は小さく頷いた。


「なるほど。良いではないか。詠唱を捨てぬ者、私は好きだ」


「では、訓練を見せてもらおう」


 私は広場の端に立ち、杖を突く。

 彼らはそれぞれ陣を描き、詠唱を始めた。

 光、風、炎、氷。

 だが、術はどれも中途半端で、形を保てない。

 符を使わずに詠唱を行うが、魔力の流れが噛み合っていない。


「止めろ」

 私は短く言った。


 五人は動きを止め、息を荒げてこちらを見た。

 私は地面に指で簡単な円を描く。


「見ろ。力とは“流れ”だ。

 だが、お前たちは符や言葉を“切り離して”扱っている。

 流れを分断すれば、術は死ぬ」


 私は指先に魔力を流し、円を一周なぞった。

 淡い青光が走り、砂粒がふわりと舞う。

 風が輪を描き、円の中心に花のような渦が生まれた。


「これは詠唱も符もない。

 だが、理があれば、形は自ずと整う」


 青年たちが息を呑む。

 リアナが一歩前に出た。


「……理、ですか?」


「そうだ。

 火はなぜ燃える? 風はなぜ流れる? 

 その“なぜ”を知らぬ者に、炎も風も従わぬ」


 リアナの瞳が揺れた。

 その奥に、何かが灯るのを私は見た。


 訓練は午後まで続いた。

 最初は形にもならなかった術が、夕刻にはほんの僅かに形を持ちはじめていた。

 風の青年は、突風ではなく“そよ風”を操れるようになり、

 炎の少女は、火球ではなく“灯り”を保てるようになった。


「すごい……符を使ってないのに安定してる……!」

 リナが歓声を上げる。


「理を掴めば、道具はいらぬ。

 だが、理を掴むまでが遠い。だからこそ、価値がある」


 私は杖を肩に担ぎ、広場を離れようとした。

 その背中にリアナの声が飛ぶ。


「師匠――!」


 私は振り返る。

 少女は顔を真っ赤にしていたが、目だけはまっすぐだった。


「弟子にしてください! 古式を、もう一度学びたいんです!」


 沈黙。

 やがて私は笑った。


「悪魔に師事する覚悟はあるか?」


「はい。たとえ堕ちても、知りたいです」


「よかろう。ならば、私のもとに来い。

 堕ちても構わぬ者だけが、真に“理”へ至る」


 その言葉に、他の四人も立ち上がった。


「俺も! もう符術なんて信じません!」

「私も! あんな札で誤魔化すくらいなら、燃えて散った方がマシです!」

「俺も行きます!」


 リナが笑いながら肩をすくめる。

「最弱パーティ、まさかの再結成ですね」


「最弱ゆえに、強くなれる。

 時代に見捨てられた者たちで、新しい時代を築こう」


 私は夕陽に杖を掲げた。

 光が杖の先で赤く燃え、五人の影を照らす。

 彼らの影は、それぞれ異なる形をしていたが――

 地面では、一つに繋がっていた。


 夜、屋敷の塔の上。

 リナが持ってきた灯りの下で、私は日誌をつけていた。

 筆記具は滑らかで、墨は薄い。

 時代は変わっても、書くという行為は同じだ。


「“再定義者、初の弟子五名”って書きました?」

「記すべきは“名”ではない。心だ」


「でも、名前残してあげないと、彼らがかわいそうですよ」


 リナが笑って去っていく。

 私は窓を開け、冷たい風を吸い込んだ。

 遠くの森で、再び微かな光が瞬く。

 封印の地とは別の方角――まるで、誰かが応答するかのように。


 この時代、古式魔術は“滅びた”ことになっている。

 だが、滅びたものは、必ず何かを残している。

 それを拾うのが、再定義者の仕事だ。


「さて、弟子どもよ――。

 次は、“力”よりも厄介なものを教えてやる。

 “選択”という魔法をな」


(つづく)

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