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転生悪魔、現世に降臨する。~ただしチートは時代遅れでした  作者: 妙原奇天


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第五章 第2話 言葉の果て ――終理の彼方に

 ――音が形を持っていた。


 そこは“終理”の空間。

 世界と理とがすべて混ざり合い、

 意味と存在の境界が消えた場所だった。


 言葉が浮かび、

 言葉が光となり、

 光が空を満たしている。


 アリュスはその光の中を歩いていた。

 足元には、地面も影もない。

 ただ、無数の声が流れていた。


 《……これは理だ……》

 《……これは夢だ……》

 《……これは嘘だ……》

 《……これは私だ……》


 すべての声が重なり、

 世界の底で、ゆっくりと溶けていく。


 「ここが、“言葉の果て”か。」


 アリュスの声が響いた瞬間、

 空がわずかに震えた。


 《……発話、確認。名ヲ問ウ。》


 それは“終理”そのものの声。

 全ての理を観測し、すべての言葉を記録する存在。


 アリュスは静かに答えた。

 「僕は――“描く者”。

 理を作らず、理を壊さず、

 ただ“あわい”に線を引く者だ。」


 《描ク者ヨ。オマエハ何ヲ求ム?》


 「“壊れない言葉”を探している。」


 空がざわめいた。

 数え切れぬほどの言葉が光の粒となって降り注ぐ。

 その一つ一つが、かつての理の断片だった。


 「愛」「正義」「恐れ」「救済」「永遠」「自由」――。

 アリュスがその粒に触れるたび、

 光が弾け、音が生まれる。


 《壊レナイ言葉ハ存在シナイ。

 言葉ハ常ニ、解釈ニヨッテ壊レル。》


 アリュスは微笑んだ。

 「……それでも探すよ。

 壊れるたびに、また誰かが拾ってくれる。

 その繰り返しが、世界をつないできたから。」


 しばらく歩くと、

 前方に“光の大河”が見えてきた。


 それは無数の言葉が溶け合い、

 ひとつの流れとなったもの。

 愛と憎しみ、恐怖と希望、祈りと呪い――

 あらゆる意味が混ざり合っていた。


 リアナの声が風の中で響いた。

 〈アリュス、聞こえる?〉

 「……リアナ?」

 〈私たち、あなたの声をまだ感じてる。

 あなたが“何を描くか”で、

 私たちの世界の形が変わるの。〉


 「……そうか。

 なら、僕は“声のない言葉”を描こう。」


 アリュスは筆を構えた。

 光の大河の前で、静かに息を整える。


 「――終理への一筆。」


 筆先から、灰の光が流れ出す。

 それは音にならず、形にもならず、

 ただ、やさしく世界をなぞる線だった。


 すると、大河の流れが止まり、

 無数の声が静まった。


 《……描カレタ言葉、音ヲ持タズ。

 意味ヲ拒ミ、理ニ触レズ。

 然シ、確カニ存在ス。》


 「それがいい。

 “誰にも壊せない言葉”なんてない。

 でも、“誰にも支配されない言葉”なら――描ける。」


 空が割れ、光が満ちる。

 その中から、アザゼルの声が再び響いた。


 《……見事だ、アリュス。

 お前が描いたのは、理でも言葉でもない。

 それは“記憶”。》


 アリュスは微笑んだ。

 「……世界の記録じゃない。

 “世界が生きた証”だよ。」


 《それを人は、“終理”と呼ぶだろう。

 だが本当は――“始理しり”だ。

 終わりと始まりは、ただ名を変えるだけの同じ瞬間だ。》


 光が静かに閉じる。


 アリュスは筆を手に、ゆっくりと空を仰いだ。

 終理の空が灰から青へと変わっていく。

 溶けかけた輪郭が再び形を取り、

 世界が“声”を取り戻す。


 「……これでいい。

 壊れない言葉なんて、要らない。

 でも、“壊れても生まれ直す言葉”なら、

 きっと世界を救える。」


 筆が光を失う。

 灰の粒が舞い、彼の身体を包んだ。


 アリュスの声が、風の中に溶けていく。


 「――言葉よ、壊れてもいい。

 そのたびに、人がまた描けばいい。」


 そして、世界が息をした。

 山が、海が、街が――音を放つ。

 それは祈りではなく、

 “生きている”というただの実感。


 空の彼方で、灰の筆が光り、消えた。

 その筆跡だけが残り、

 新しい世界の地図となった。


 ――終理は、終わらなかった。

 なぜなら、それは“生の継続”だったから。


(第五章 第2話 完)


次回・第五章 第3話「灰の筆 ――描く者の帰還」


終理の空を渡り、アリュスは再び現世へ。

彼の不在の間に、人々はそれぞれの理を紡ぎ、

世界は“多様な真実”で満ちていた。

だがその多様さが、再び新たな問いを生む――

「理がなくても、私たちは同じ世界を見られるのか?」

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