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転生悪魔、現世に降臨する。~ただしチートは時代遅れでした  作者: 妙原奇天


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第四章 第7話(最終話) 最後の選択 ――理の外で描く者

 ――世界の輪郭が、完全に消えかけていた。


 灰の風が吹くたび、山と空の境が溶け、

 海は雲に、街は夢に、そして人は光に変わっていく。


 それは美しかった。

 まるで絵筆が世界全体を洗い流し、

 新しいキャンバスを準備しているかのようだった。


 だが、その美の中で、

 確かに“存在”は消えていた。


 アリュスは丘の上に立っていた。

 背後では、灰の樹がゆっくりと崩れていく。

 リアナとユミが駆け寄った。


 「アリュス! 世界が――!」

 「見えてる。」


 彼の掌は淡く光り、

 中から“灰の理”の花が再び形を取り戻していた。


 「第五の理――“存在の許し”。

 あれが、世界を溶かしている。」


 リアナが叫ぶ。

 「止められないの?」

 「止めることはできる。

 でも、その代わりに――“理”が戻る。」


 風が吹いた。

 かつてアザゼルが立っていた世界の中心点、

 そこに灰と光が渦を巻く。


 《――問ウ者ヨ。再ビ理ヲ呼ブカ。》


 アリュスは瞳を閉じた。

 胸の中で、アザゼルとムボ、

 そして無数の声が交錯していた。


 “理を取り戻せば、世界は形を得る。

 だがまた恐れと争いが生まれる。”


 “理を戻さなければ、

 人は安らぎの中で自我を失う。”


 どちらも正しい。

 どちらも、痛いほどに優しい。


 リアナがそっと彼の腕を掴んだ。

 「……あなたは、どうしたいの?」


 アリュスは静かに微笑んだ。

 「世界は、もう“決められた理”に縛られるべきじゃない。

 誰かが“選ぶ”から、誰かが“従う”んだ。

 でも、理がなければ――人はまた迷う。」


 「じゃあ……?」


 アリュスは掌の中の光を見つめた。

 「“灰の理”は、完成させない。

 誰にも所有させない。

 世界そのものに――問いの種を返す。」


 彼は地に膝をつき、

 灰の花をそっと地面へ押し当てた。

 光が広がり、風が逆巻く。


 《――理ナキ創造者ヨ。名ヲ告ゲヨ。》


 アリュスは目を閉じた。

 「僕は、“描くスクリプト”。

 理でも神でもない。

 ただ、世界の“余白”に線を引く者だ。」


 光が爆ぜた。

 灰の花が空へと散り、

 そのひとひらひとひらが、

 世界中の大地と空に吸い込まれていった。


 世界が震えた。


 山が息をし、

 海が光り、

 街が再び音を取り戻した。


 人々が互いに言葉を交わす。

 「なぜ?」

 「どうして?」

 「これでいいの?」

 ――問いが戻ってきた。


 だが、それはもう“誰かの理”に従う問いではない。

 自分の中から生まれる、小さな声。


 リアナが泣き笑いで言った。

 「……これが、あなたの“理のない理”なのね。」

 アリュスは頷いた。

 「理をなくすんじゃない。

 “理を手放せる世界”にするんだ。」


 灰の風が止んだ。

 空がゆっくりと青を取り戻す。

 遠くで子どもの笑い声が響く。

 それは、かつてこの世界が失った“音”だった。


 アリュスは立ち上がり、

 静かに呟いた。


 「理は、もう要らない。

 でも――“問い”は、生きてる。」


 リアナが隣で微笑む。

 「じゃあ、これからどうするの?」

 「描き続ける。

 誰のものでもない“世界の輪郭”を。」


 風が再び吹いた。

 灰が光をまとい、空高く舞い上がる。

 それはもう、滅びの灰ではなく――

 新しい創造の光だった。


 “理の外”で、

 アリュスは筆のように指を動かした。

 空に線を描く。

 それは小さなひとすじの灰色の軌跡。


 けれど、その一本の線が、

 確かに――“世界の新しい朝”を描き始めていた。


(第四章 完)


次章予告:第五章「終理篇 ――理のない世界で」


世界は再び形を得たが、問いは増えすぎた。

人々の心は、自らの理を持て余し、

“言葉が世界を壊す”時代が始まる。

そして、アリュスは最後の旅に出る――

「理のない世界で、人はどこまで生きられるのか」。

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