表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生悪魔、現世に降臨する。~ただしチートは時代遅れでした  作者: 妙原奇天


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/39

第四章 第5話 第五の理 ――世界の余白に芽吹くもの

 ――風が止まった。


 虚声たちが消えたあとの世界は、不思議な静けさに包まれていた。

 音がないのではない。

 ただ、世界そのものが「息をひそめている」ようだった。


 アリュスは広場の中央に立ち、掌を見つめた。

 そこには淡い灰色の光が宿っている。

 それはこれまでの理とは異なる脈動――

 恐れでも、祈りでも、沈黙でもない。


 「……これは、何だ?」


 リアナが傍らで答える。

 「“灰の理”が、次の形を求めている。

 あなたの中で、新しい理が――生まれようとしてるの。」


 アリュスの胸が熱くなる。

 かすかに、あのときのアザゼルの声が聞こえた気がした。


 『理は問いの果てではない。

 問いが尽きるとき、理は姿を変える。』


 「……第五の理。」

 彼は静かに呟いた。


 世界が変わるたびに、人は恐れを抱く。

 理はその恐れを形にしてきた。

 だが――“灰の理”はすでに恐れを受け入れ、

 「終わり」を肯定してしまっている。


 ならば次に訪れる理は、

 “存在そのもの”を許す理。

 罪も、滅びも、意味も――すべてを「肯定する」理。


 「……“存在の許し”」

 リアナの声がわずかに震える。

 「でも、それは危険よ。

 すべてを許せば、境がなくなる。

 善も悪も、理も無も、同じになる。」


 「わかってる。」

 アリュスは頷く。

 「それでも、僕たちは許さなきゃいけない。

 理を壊した僕自身も、問いを失った人々も――

 “存在してしまったこと”を。」


 リアナは何も言わず、ただ彼の横顔を見つめた。

 その瞳に、微かな不安と、確かな希望が宿っていた。


 夜が訪れた。

 月は灰色の光を帯び、地上を淡く照らす。

 アリュスは村外れの丘に座り、風に身を任せた。


 すると、空から光の粒が降りてくる。

 無母ムボの声にも似た、静かな囁き。


 《――許スコトハ、終ワリヲ呼ブ。》


 アリュスは目を閉じる。

 「……そうかもしれない。

 けど、“終わり”があるからこそ、人は選べるんだ。」


 掌に光が集まる。

 それは花の形をしていた。

 白でも黒でもなく、灰の花弁。

 その中心で、淡い金色の種が輝いている。


 リアナがそっとその花を見つめる。

 「それが……第五の理?」

 「“存在の許し”。

 善悪を超えて、“ただあること”を認める理。」


 「でも、それじゃ――理がすべて溶けてしまう。」

 「そう。

 だから、これは“最終の理”でもある。

 形を持たない理。

 言葉にできない理。」


 彼は花を地面に置き、両手で包み込んだ。

 「――すべての理は、この灰に還る。」


 土が柔らかく脈動し、光が静かに滲んでいく。

 やがて、花は土に沈み、世界に溶けた。


 その瞬間、空が静かに震えた。

 風が止まり、月の光が広がる。

 世界全体が“息を吸った”ような気配。


 そして、空に声が響く。

 《――存在ヲ許ス者ヨ。理ノ外ニ立ツ覚悟ハアルカ。》


 アリュスは目を開け、空を見上げた。

 「ある。

 理の内に安らぎはない。

 でも、理の外にも、孤独がある。

 だから僕は――その間で、生きる。」


 灰の風が吹き抜ける。

 空に描かれた月の輪郭が、ゆっくりと変わっていく。

 光の中に、微かにアザゼルとムボの姿が浮かんだ。


 《――お前は、“理の外”を歩む者。

 恐れと沈黙の境に、世界をつなぐ道を刻め。》


 リアナが駆け寄る。

 「アリュス!」

 「大丈夫。」

 彼は微笑んだ。

 「ようやく――“理の外”に立てた気がする。」


 その掌には、灰の花の残滓が光っていた。

 その光は、夜明け前の星のように儚く、

 それでいて、確かに未来を照らしていた。


 リアナはそっとその光に手を添える。

 「ねえ……これが最後の理なの?」

 「違う。」

 アリュスは首を振った。

 「これは“始まりの理”だ。

 存在を許すってことは――

 どんな世界も、まだ生まれうるってことだから。」


 朝の光が地平から差し込む。

 灰の花が埋められた丘に、ひとつの芽が出ていた。

 それは、理でも魔でもない、

 ただの「命」の芽。


 リアナがその小さな芽を見つめて微笑む。

 「……この世界、もう一度やり直せるかもしれないわね。」

 アリュスは頷く。

 「うん。

 “理がなくても、生きられる”って、ようやく信じられそうだ。」


 空には、灰と金が混じる朝の色。

 それは新しい世界の幕開けを告げる光だった。


(つづく)


次回・第四章 第6話「世界の輪郭 ――理なき創造のはじまり」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ