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転生悪魔、現世に降臨する。~ただしチートは時代遅れでした  作者: 妙原奇天


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第三章 第4話 空白の神殿 ――沈黙の再生

 ――光が失われていた。


 鏡の都を後にして三日。

 アリュスとリアナは北の峡谷を抜け、霧に包まれた荒野へと辿り着いた。

 そこに、風化した石の柱が並ぶ“空白の神殿”があるという。


 言葉が生まれる前の地――理の沈黙を宿す場所。

 アザゼルが最初に“問い”を発した場所だと伝えられていた。


 リアナが小さく息をつく。

 「ここに来るのは……正直、怖いわね」

 「どうして?」

 「沈黙の理に触れれば、言葉を失う。

 つまり、“理を生む力”を一時的に奪われる」

 アリュスは頷いた。

 「でも、それでも確かめたい。沈黙が救いになるのか――」


 神殿は、まるで音を吸い込むように静まり返っていた。

 崩れた柱の間を抜けると、光ではなく“影の霧”が立ちこめている。

 そこに、ひとりの少女が膝をついていた。


 歳は十に満たぬほど。

 灰色の髪、瞳は透明に近い白。

 その小さな手に、砕けた“言葉の欠片”を抱えている。


 「……拾ってるの?」

 アリュスが問うと、少女はゆっくり顔を上げた。

 「うん。落ちてるの。みんなの言葉」


 手の中には、淡く光る文字のかけら。

 “愛”“痛み”“約束”――そんな断片が次々と光っていた。


 「私は、“ことの葉拾い”。

 ここに落ちた言葉を集めて、沈黙に返すの」


 リアナが息を呑む。

 「……沈黙に、返す?」

 「うん。

 人の言葉はいつか壊れる。

 壊れたら、沈黙に戻さなきゃ、世界が悲鳴をあげるの」


 アリュスは膝をついた。

 「それが、この神殿の理……?」

 少女は小さく頷いた。

 「“沈黙の再生”。

 言葉は生まれて、死んで、また沈黙から芽吹く。

 それが、この世界の呼吸」


 「……でも、沈黙だけが残ったら?」

 「世界は眠るよ。

 眠って、また夢を見るの。

 次の理が、生まれるまで」


 そのとき、神殿の奥から低い声が響いた。

 《――沈黙を乱す者、ここで息を止めよ。》


 影の霧の中から現れたのは、黒い法衣をまとった男だった。

 顔の半分が石の仮面で覆われ、片手には“封印の印章”。

 「我は“静寂の主”ノルベイン。

 沈黙の理を護る者なり」


 リアナが身構える。

 「沈黙を護る……? つまり、言葉を消す気ね」

 「その通りだ。言葉は病。理は災。

 沈黙こそが、唯一の再生だ」


 男が印章をかざす。

 空気が凍りつき、音が消えた。

 リアナの声も、風の音も、世界そのものが“停止”する。


 動けたのは、アリュスだけだった。

 胸の杖が淡く脈を打つ。

 〈問え。沈黙に、言葉の意味を。〉


 アリュスは歯を食いしばった。

 「……再定義。“沈黙は終わりではない――聴くためのだ”!」


 光が迸る。

 凍りついていた世界に、ひとつの“音”が生まれる。

 ――それは少女の声だった。


 「沈黙は、言葉を殺すためじゃない。

 “次の言葉を育てるため”の土なんだよ!」


 ノルベインの仮面が割れる。

 目の奥に、一瞬だけ悲しみが揺れた。

 「……我も、かつては問う者であった。

 だが、言葉に裏切られたのだ」


 「裏切られるのが怖くても、問いは止められない!」

 アリュスの叫びが響き、印章が砕け散る。

 沈黙が溶け、風が戻った。


 男は崩れ落ちながら、微笑んだ。

 「……ならば、託そう。

 沈黙の奥に眠る“最初の問い”を……お前に。」


 彼の身体が光の塵となり、神殿の奥へ吸い込まれていく。

 少女がその光を手に受け取った。

 「これが、“最初の問い”……?」

 「きっと、“理が生まれる前の言葉”だ」

 リアナが静かに言う。


 アリュスは杖を見つめた。

 胸の奥で、何かが共鳴している。

 理の種が、再び芽吹こうとしていた。


 夜。

 神殿の前で、三人は焚き火を囲んだ。

 少女――ことの葉拾いは、火にかざした手を見つめていた。

 「沈黙って、怖くないんだね」

 アリュスが微笑んだ。

「沈黙は、言葉を聴くための約束だ。

 言葉を殺すものじゃない」


 リアナが頷いた。

 「そう。沈黙の中にこそ、次の理が芽吹く。

 それが、アザゼルが望んだ“再生”なのかもしれないわ」


 火が小さく爆ぜた。

 闇の中で、沈黙と声がひとつに溶け合う。


(つづく)


次回・第三章 第5話「最初の問い ――理を生む種」

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