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転生悪魔、現世に降臨する。~ただしチートは時代遅れでした  作者: 妙原奇天


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第二章 第1話 旅のはじまり、風の音

 ――朝焼けの風は、どこか懐かしい匂いがした。

 血と煙ではなく、草と土の匂い。

 あれほど燃えていた封印都市の空が、いまは柔らかい陽を抱いている。


 私は崩れかけた塔の階段に腰を下ろし、ゆっくりと息を吐いた。

 杖の先で地面をなぞると、淡い光が走る。

 封印の紋は、もはや鎖ではなかった。

 それは“環”――人と理を結ぶ、穏やかな輪の形に変わっていた。


 「師匠……本当に、終わったんですね」

 リアナが隣に座る。

 疲れ切った顔に、それでも微かな笑みがあった。

 「終わりではない。ようやく“始まり”になっただけだ」

 「始まり、ですか?」

 「理が整えば、人は再び問い始める。

 その問いがある限り、世界は滅びん」


 リナが風を追うように近づいてきた。

 「王都からの伝令が届きました。

 セドリックさん、魔導院を離れて“理学院”って組織を作るそうです」

 「理学院?」

 「学問と魔導を一緒に教える場所ですって。

 『恐怖ではなく、理解による秩序を』が合言葉だとか」


 私は少しだけ笑った。

 「あの男にしては、上出来だ。

 私が悪魔である限り、王都に残るのは難しかった。

 だが、彼は人として橋を架けられる」


 ナナが焚き火の前で大きく伸びをした。

 「師匠! これからどこ行くんです? もう封印は終わったんだし!」

 「“終わった”と思うのは人の癖だ。

 理を立て直した今、世界のどこかで“恐怖が抜け落ちた場所”が生まれる」

 「恐怖が……抜ける?」

 「恐怖は生きるための根だ。理解だけが広がれば、命は薄くなる。

 次は、それを探す旅だ」


 エリオが風を操り、火に薪をくべた。

 「まるで世界を授業にするみたいですね」

 「そうだ。弟子ども、これからは旅の授業だ。

 教科書は風、問題は星、答えは道の先にある」


 リュカが笑いながら肩をすくめた。

 「毎回“宿題”が命懸けなのが師匠らしいっす」


 翌朝、封印都市を後にする。

 崩れた石畳の上に立ち、私は最後に塔を振り返った。

 あの塔の上には、もう“上位アザゼル”の影はない。

 だが、風の流れが教えてくる。

 ――理解と恐怖は、今も世界のどこかでせめぎ合っている。


 リアナが私の隣に立ち、そっと呟いた。

 「……この街、残したいです」

 「残す?」

 「はい。“理を教えた場所”として。

 人がまた怖くなったとき、戻れるように」

 「ふむ……ならばここは、“再定義の都”と呼ぶといい」


 弟子たちが一斉に頷いた。

 ナナが笑う。

 「いい名前! なんか、かっこいい!」

 「かっこよさで名を決めるのか?」

 「もちろん!」


 私は肩をすくめて歩き出す。

 風が頬を撫で、太陽が眩しい。

 旅の始まりにしては、悪くない朝だ。


 昼過ぎ。

 山を越え、川辺に出たころ、リナが馬車の中から声を上げた。

 「師匠、見てください!」

 川向こうに、小さな集落が見える。

 家々は簡素だが、屋根の上には色とりどりの布がはためいていた。

 子どもたちが橋の上で魔法の光を操り、それを大人たちが笑いながら見ている。


 「……この国にも、理が根づき始めたか」

 私は呟いた。

 「恐怖ではなく、遊びの中に理を見る。それでいい」


 リアナが小さく笑う。

 「師匠、もう“悪魔”って感じじゃないですね」

 「悪魔とは、問う者の名だ。

 人が問わぬなら、私はただの教師になる」


 夕暮れ。

 焚き火の前、弟子たちが眠りに落ちたころ。

 私はひとり、夜空を見上げた。

 星々が淡く瞬く。

 その中のひとつが、妙に強く光った。


 ――理解か、恐怖か。

 どちらでもいい。

 私は、そのどちらにも“選べる世界”を作りたい。


 それが、再定義者アザゼルの旅の目的だ。


(つづく)


次回・第二章 第2話「無声の街、沈黙の神殿」

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