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転生悪魔、現世に降臨する。~ただしチートは時代遅れでした  作者: 妙原奇天


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第10話 再定義者の選択

 王都の朝が白む。

 だが光は、街を照らすよりも、裂いていた。


 封印の再安定から三日――王国は静かに割れ始めていた。

 「理解」を信じる者と、「恐怖」を崇める者。

 どちらも自らを正しいと信じ、相手を“異端”と呼んだ。


 広場では説教者たちが叫び、兵士たちは群衆を押しとどめ、

 子どもたちすら「どちらの神が正しいか」を問う。

 人々の声が渦となり、王都の空を濁らせていた。


 屋敷の執務室で、私は弟子たちを前に座っていた。

 机の上には地図と封書が散らばっている。

 封蝋には、それぞれ異なる印章――王国評議会、神殿、商人組合。

 皆が“自分の側につけ”と言外に求めている。


 ナナが火のような瞳で言った。

 「師匠、何で動かないんです? このままじゃ王都が――!」

 「焦るな」

 「でも、人が人を焼いてるんですよ!」

 「だからこそ、我々は火を使わねばならん。

 炎は焼くためだけにあるのではない。照らすためにもある」


 その言葉に、弟子たちは沈黙した。

 私は地図の上に指を滑らせた。

 王都を中心に、東西南北へ赤と青の印。

 “理解派”と“恐怖派”の勢力線。

 その交わる中央――王都の真下に、古代の封印層が重なっている。


 「この分布、まるで……」

 リアナがつぶやく。

 「……封印の形そのままですね」

 「そうだ。争いは、封印の模様をなぞるように広がっている。

 つまり――“意志”が残っている。人の心に」


 リナがそっと尋ねた。

 「じゃあ、師匠はどっちにつくんですか?」

 私は短く答えた。

 「どちらにもつかぬ」

 「……またそれですか」

 彼女が苦笑する。

 「理解派も恐怖派も、師匠の教えを使って争ってるんですよ。

 “再定義者の理”を盾にして」

 「知っている。だが、私が旗を掲げれば、理は再び信仰に変わる」


 私は窓の外を見た。

 朝靄の中、広場には人々の影。

 火を掲げる者、祈る者、そして泣く者。


 「理は剣にも祈りにもなる。

 だが本来は“問い”だ。答えを示すものではない。

 だから私は、ただ問う者でありたい」


 そのとき、扉が叩かれた。

 セドリックが現れた。

 以前の冷たい威厳は薄れ、肩に疲労が滲んでいる。

 「……争いは止まりません。陛下は、恐怖派に加担されました」

 「王が、か」

 「封印の再暴走を恐れ、神殿に全権を委ねられたのです。

 理解派は追放、拘束、そして……一部は処刑されました」


 リアナが顔をこわばらせた。

 「そんな……! 理を求めただけなのに!」

 セドリックは彼女の叫びを受け止めるように、目を伏せた。

 「私はかつて、符術を発展させて“誰もが魔法を使える時代”を夢見た。

 だが今、私はそれが“恐怖の均一化”だったと知った。

 あなたの理を、私も学びたい。だから――逃げろ、アザゼル」


 リナが息を呑む。

 「逃げろ……?」

 「王はあなたを“神を模す悪魔”と認定した。

 明日の暁、異端審問官がここへ来る」


 沈黙。

 私は杖を取った。

 「……ならば、行くところが一つある」

 弟子たちが顔を上げる。

 「まさか――」

 「封印都市だ。

 理が生まれ、恐怖が育ち、そして神が沈んだ場所。

 全ての始まりはそこだ。

 理解と恐怖、どちらが本物かを、再び問う」


 リアナが頷いた。

 「私も行きます」

 ナナも続く。

 「燃えるなら、一緒に燃えます」

 リュカが苦笑しながら剣を抜いた。

 「最弱パーティ、また出陣っすね」

 リナも杖を握りしめた。

 「もう逃げません。あの時の戦いを、私たちの“授業”に変えましょう」


 セドリックが目を伏せる。

 「……行け。王都の理はもう止まらん。

 だが、もし戻れるなら――その時こそ、真の理解を見せてくれ」


 私は頷いた。

 「その時は、共に“教師”となれ」


 夜明け前、私たちは屋敷を出た。

 王都の街路は静かだが、遠くの鐘が鳴り続けている。

 “異端審問”の始まりを告げる鐘。

 その音を背に受けながら、私は歩き出した。


 弟子たちが並び立つ。

 風が靡き、街の灯が背中を照らす。


 「師匠、もし勝てなかったら?」

 リナが問う。

 「勝ち負けではない。――定義するだけだ。

 恐怖も理解も、人が自らの意思で選べるように」


 東の地平から、朝日が昇った。

 その光が、王都の塔々を染め、

 私たちの影を長く伸ばした。


 “悪魔の行列”と呼ばれる旅立ちは、こうして始まった。


(つづく)

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