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作者: 漆原恭太郎

 零時を過ぎたので哲夫と明と三人で初詣に行くことになった。車で向かう途中雪が降り始め、神社に着く頃にはかなり激しく雪が降っていた。車を降り、拝殿に向かう。吐く息は白く、手は寒さでかじかんでいる。屋台がいくつか出ているが雪のせいかあまり人は多くない。


 拝殿までの長い石段を登る。雪で滑りやすくなっているので足元を見ながら注意深く、一歩づつ登って行く。哲夫は無言で石段を登っている、明はなぜかビートルズの『Let It Be』をハミングしている。何故いま『Let It Be』なのか……二人とも問いかけなかった。


 Let It Be……そのままにしておきなさい……か。


 拝殿で参拝してからおみくじを引いた、吉が出た。哲夫は大吉、明は末吉を引いた。たしか去年は凶が出たはずだ。神社では凶は置いていない、神社側が気を利かして凶を入れていないのではないかと思っていたので、巫女さんに思わず詰め寄ってしまった。

 「凶が出ましたけど……入ってるんですか?」

 巫女さんは申し訳なさそうに

 「はぁ、凶も入っています……」

 あの時の巫女さんは恐らくバイトの女の子だったのだろう、面倒な参拝客の対応に困っていた。それに比べて今年は吉だ幸先がいいような気がした。しかし……去年は悪い年だっただろうか? むしろいつもより良いことが多かった気がする。あまり当てにはならないかもしれない。


 何故凶は入っていないと思い込んでいたのだろう? 正月くらい参拝客を嫌な気分にさせない為に凶は置いていないと思ったのだが、凶があるからこそおみくじの意味がある気がした。凶が入ってなければ誰もおみくじなどやらないのではないだろうか。


 「おみくじを木に結わえておくのって悪いことが書いてあった場合? それとも良いことが書いてあった場合?」

 明が尋ねてきた。知らないと答えた、哲夫も知らないと言った。

 「ちょっと巫女さんに聞いてくるわ」

 明はもう一度おみくじ売り場の方へ戻って行った。


 しばらくして戻ってくると明は言った。

 「どっちでもいいって、俺は持って帰るよ」

 「どっちでもいいのか……俺も持って帰るかな」

 哲夫が呟く。

 三人とも持って帰ることにした。

  


 車に戻ると寒いと言いながら哲夫は暖房を全快にした。

 「大吉引いたんだけど、体調に気をつけろだとか、大吉引いたからといって浮かれんなみたいなことばっか書いてあるんだけど」

 哲夫が不満を漏らす。自分は去年、凶が出たが特に悪い年でもなかったことを哲夫に言った。

 「まぁ当てにならんかもな」

 言いながら哲夫は煙草に火を点けた。しばらくは発進せずに、駐車場の車の中で暖を取りながら参拝客を眺めていた。


 雪は降り続けている。

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― 新着の感想 ―
[一言] 淡々とした語り口が、心地よいです。 ラストの余韻は、「雪は降り続けていた。」と過去形にしたほうが、いいように思いました。 無理にオチを付けない点が、気に入っています。
2010/05/03 10:32 退会済み
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