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 先を見通せるとはいえ、洞穴の内部は暗い。

 アオイ先輩はここまで電源を切っていたスマホを起動し、ライトを点けて地面を照らす。

 そう時間もかからず、目的の場所に到達したようだった。

 だが。


「ひっ……!」


 俺の前方を歩いていたアオイ先輩が、いきなり後ずさった。

 これまでに見たことの無い反応で、俺は驚いた。明らかに"何か"を発見し、それを恐れている。


「アオイ先輩……何が……って、うわっ……」


 "何か"を確認するために彼女の横に立った俺が見たもの。

 それは、人骨だった。

 みすぼらしいを通り越して、風化したと思われるボロボロの衣服に身を包んだ人骨が、その形状をはっきりと保ったまま地面に倒れていたのだ。

 

 「……」


 アオイ先輩は、俺の左肘に手を添えていた。驚きすぎて思わず、といったところだろうか。

 俺も、結構な時間呆けていたかもしれない。

 祖父が亡くなった時に行われた火葬の現場で、人骨というものは見たことがある。だが、その時見たものは、骨というよりも大量の白い欠片と呼んだ方が適切なほどに原型を留めていなかったし、他に目にする機会と言えば学校にある模型、インターネット、漫画やアニメなどだが、それらは当然本物とは呼べない。

 眼の前にあるこれも、もしかしたら偽物かも? などという馬鹿な考えが一瞬頭をよぎる。現実逃避もほどほどに、と自分に言い聞かせはしたものの、混乱した頭は今するべき適切な行動を思いついてくれない。

 人骨がある、ということは、実際にこの場で人が死んだ、ということだ。それを想像してしまった結果が、今の俺たちの状態だ。

 

「……アオイ、先輩」

「……うん」

「……深呼吸、しましょう」

「……うん」


 すうぅ。はあぁ。すうぅ。はあぁ。


「……よしっ! ありがとうレンくん、落ち着いた」


 上手く心中を整えることができて何よりである。俺も落ち着くことができた……わけではないが、とりあえず話を先に進める心構えはできた。深呼吸は偉大だ。


「それで、アオイ先輩……」

「うん。ここが、目的地なんだけど……」


 アオイ先輩の新しい(?)能力により発見したのは、まさかの人骨だった。

 この状況に、どのような意味があるのだろうか。

 改めて、様子を確認してみる。

 衣服の風化の度合いが時間の経過を感じさせる。彼、あるいは彼女は死んでから、誰にも発見されることが無かったということか。

 それとはっきり分かる人間の頭蓋骨のインパクトに意識を取られていたが、腰の部分を確認してみると気になるものが装着されていた。

 右半身の背中側に柄のようなもの。そして左側には鞘のようなもの。

 俺は人骨に近づき、しゃがんだ。俺がこれからすることを察したアオイ先輩が、横からライトで照らし、サポートしてくれる。

 

「レンくん、大丈夫?」

「大丈夫です。……よし、取れた」


 ボロボロのベルトのホルダーに差されたそれらを抜き取る。

 まず、背中側にあった柄のようなものの正体は、ナイフであった。片刃がギザギザになっており、少し錆びている。うろ覚えだが、これはサバイバルナイフと呼ばれる種類のものだろう。

 そして、鞘のようなもの。鞘というからには当然、差し込まれているものがある。

 俺はそれを引き抜くと、やっぱりか、と、なんで? という感想がごちゃまぜになったような、複雑な気持ちになった。


 剣。

 それは、現代では実質的に使われるはずの無い武器であり、また武器といえばこれだ、というある種ステレオタイプな一品であった。

 ……いや、まさかな。

 俺は、再浮上してきたある可能性を再度心の底に押し込み、その剣を少し観察してみる。

 シンプルな剣だ。柄を握ってみた感じ、まあこんなもんだよなという感想を抱く。

 だが、刀身が半分以上から折れており、またこの剣については結構錆びてしまっている。既に、武器としては使い物にならない。

 俺は剣を鞘にしまって地面に置き、もう一度人骨を見る。

 とりあえず、目立つものはこれくらいか。他に何かあるだろうかと、ごそごそと衣服を漁っていく。

 冒涜的な行為をしてしまっているなと、半ば自嘲気味に笑った。後でしっかりと埋葬します、どうか許してください、生きるためには仕方ないんです、と、言い訳めいたことを心の中で呟いていく。

 しかし結局、これと言ったものは見つからなかった。


 一段落した俺たちは人骨に向かって合掌し、黙祷を捧げた。

 もう十分だろう。そう思い、俺は立ち上がろうとする。しかしその瞬間、あることに気づいた。

 

「……光ってる?」


 人骨の、両手両足それぞれの部分が、わずかに明滅していた。気づいたのが不思議なくらい、わずかな光量だ。


「……ほんとだ」


 アオイ先輩も、呆けたように呟いた。

 なんだ、これ。

 骨に何か、埋まってる?


「……割って、みますか?」


 提案してはみたものの、正直言って全くやりたくない。

 日本人らしく中途半端な宗教観しか持っていない俺でも、遺体(骨だが)を破壊する、なんて行為には強い忌避感を覚える。

 気になる。気になりはするが、そこまでして確認するべきものなのだろうか。役に立つものが手に入るとはとても思えない。光っているからといって、それがなんだというのか。


「……ううん、やめよう」

「……ですよね」


 アオイ先輩が却下してくれて、大分助かった。

 

「……埋葬しましょう。ここだと無理なんで、俺が入り口まで運びます」

「私もやるよ」

「いや、でも……」

「レンくんばかりに任せるわけにはいかないって。一蓮托生、でしょ?」

「……そうですね」


 俺たちは骨を運び、結構な時間をかけて地面に穴を掘って骨を埋めた。そして、改めてもう一度黙祷を捧げた。

 なかなか骨が折れましたね、骨だけに、などとつまらない不謹慎ジョークをかまして気持ちを切り替え、一旦放置していた剣とナイフを取りに洞穴内部へ戻ったところ、アオイ先輩がそれらとは別のアイテムを発見した。どうやら壁際に置いてあったようだ。


「革袋?」

「うん。キラキラしてるから、後で中身を見てみよう」

「分かりました。じゃあ――」

「待って。そっちは、ダメ」


 俺が、反対側の出口に向かおうとした時だった。


()()()()()()()()()()


 アオイ先輩は妙な言い回しで、強く、そう断言した。


「え……」

「なんかね――」


 アオイ先輩が理由を語った。

 簡単に言うと、彼女の持つ超能力によるものらしい。

 黒いモヤが、出口付近で濃く漂っている。それを見ていると、頭の中で声が響くそうだ。

 曰く、『そこに入ると死ぬ』。だから、入ってはいけない。


 俺には、普通に森が続いているようにしか見えない。だが、アオイ先輩には異常なものが見えている。

 だからと言って、このことで、俺から特に言うべきことは無かった。ただ信用し、従うのみだ。


 それにしても。

 アオイ先輩の能力は、日々成長している。

 最初は、食べられるものを見かけると、それがキラキラと光って見える能力。

 次に、洞穴に至るまでの道筋が、光って見えるようになる能力。これはアオイ先輩の言った『新しい力』のことだ。

 そして今回見えたのは、これまでとは打って変わり、入ると死んでしまう、黒いモヤ。

 何か、共通点があるような気がする。もう少しで、何かが見えてくる。そんな予感がある。

 それが確信に変わったのは、川辺に戻って革袋の中身を確認した時だった。


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