青先輩:ドキュメント
私はね、中学の頃『人間なんてどいつもこいつもクソだ』って思ってた時期がありまして。
まあ厨二病ってやつだよね。なかなか痛いでしょ?
で、そういう時期に起こったことなんだけど。
ちょっと矛盾してるんだけど、私には仲の良い友だちがいて、仮にAさんって呼ぶけど、そのAさんから急に無視されるようになったの。
いくら理由を訊いても答えてくれなくて、途方に暮れていたんだけど、別の人から『Aさんの好きな男子が、私のことが好きって話しているのを偶然聞いてしまったから』っていう理由を聞いたの。
まあ、よくある嫉妬だよね。自分で言うのもなんだけど。
だからって、Aさんとこんなことでケンカしたくなかったから、色々と頑張ってAさんと話し合おうとしたんだけど、結局ダメで。
転機だったのは、私のことを好きな男子――Bくんが、「放課後屋上に来て欲しい、話したいことがある」って言ってきて。
色々と察したから、私はAさんに「放課後Bくんと屋上で話すから、Aさんは隠れて聞いてて」って伝えておいた。
それで、実際屋上に行って、案の定Bくんに告白されたの。
当然、断ったんだけど。
私は、Bくんが私に二度と関わらないように、かなり酷い言い方をしたの。「あなたに全く興味が無い」とか「今後も絶対、友達にもなり得ないから話しかけてこないで欲しい」とか、色々と。
私とAさんの問題は、Bくんには全く関係の無いことだったのに、私はBくんを意図して傷つけるようなことを言った。
それでもBくんは、私に「ごめん、来てくれてありがとう」ってだけ言って、立ち去った。
残った私が、隠れていたAさんに「これでいい?」って訊いたら、Aさんは私に泣いて謝ってきて。
だけど私は、もうどうでも良くなってて、そのままAさんを残して帰ったの。
その後どうなったかって言うとね。
私とAさんは卒業まで……卒業後もだけど、一切話さなくなった。
Bくんも、私に関わることは無かった。
AさんとBくんが、付き合うことにもならなかった。
……まあ、よくある誰も幸せにならない話だよ。
本当ならきっと、もっと良いやり方があったはず。私がちゃんと考えておけば、私とAさんは仲直りできて、なんなら私がAさんとBくんの仲を取り持つ、なんてこともできたかもしれない。
だけどしなかった。よりにもよってというか、一番最悪な手段を選んだ。
多分ね。
私はAさんを、どこかのタイミングで、『仲の良い友達』から『クソな人間』に格下げしたんだと思う。
何の関係も無いBくんを傷つけた自分を差し置いてね。
これで分かったと思うけど、私は出来た人間じゃない。
レンくんと私は普通の人だー、って偉そうに言っちゃったけど、本当は、私は『クソな人間』なの。
誰かを平気で見下して、誰かを平気で傷付けて、そのまま何もせず放置するような、そんな『悪い人間』。
レンくんは勘違いしているけど、助けられているのは私。
私は一人じゃ何もできない。私がこうして生きていられるのは、レンくんが一緒にいてくれるからなんだよ。
レンくんは考えすぎる。優しすぎる。善い人すぎる。だから、打算的なことを考えると過剰に自分を責めてしまう。
私を見て欲しい。自分のクソさを棚に上げて、レンくんに縋ってのうのうと生きようとしている私を。
もちろん私は、そんな自分が大嫌い。
私はレンくんに、憧れているの。
レンくんのような人になりたい。レンくんのように、誰かのために頑張れる人になりたい。
だから私は、レンくんを助けるために頑張ってる。
でも、これってつまり、自分のために、ってことでしょ?
レンくんも、自分のために私を助けて良いんだよ。
『憧れの私』に気に入られるために、なんて当たり前じゃん。私だって、『憧れの君』に気に入られたいもの。こんな時に、だなんて考えることじゃない。形なんて、どうでもいい。
お互いに、こうなりたいって目標に向かって頑張ってるだけ。それで結果的に生きていられれば、それで良いじゃん。善い人である必要は無いって、私は思うよ。
色々語っちゃったけどさ。
私が言いたいのは、一つだけ。
レンくん。私をいつも助けてくれて、本当にありがとうね。