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サイバイガル・タイムズ 二〇三四年 第二十五号

『アンテロースの矢を巡る攻防! 激震の若人たち!』


 我が情報屋はついに、複雑怪奇な『カース』の一つを、手中に収めることに成功した!

 その名も『アンテロースの矢』。

 博覧強記の読者諸賢は当然ご存知のことだろう。

 そう。『アンテロースの矢』は、その者の片思いの相手に射ることで、なんと相手からの好意を得ることが出来るという代物。

 途方もない剣呑の一矢を前に、学生たちはその目の色を七色に輝かせた。

 いやむしろ、ただ純粋な桃色にだろうか。


 ややもすれば我々情報屋は、愛の獣と化した学生群を沈めるべく、一つの対策案を講じることになる。

 もちろん! 安全かつ平穏で、それでいて情熱を突き動かす……乾坤一擲の大勝負である!

 その名もずばり! 『クラッシュ・テイル争奪戦』ッッ!

 ではでは参加希望者をつらつらとお伝えしよう!


 ▽リリィ・スレイン氏

 ……あの絶世の美少女が名乗りを上げた。二年連続サイバイガル・ミスコンテスト優勝者であり、知らぬものなき超有名モデル。リリィ・スレイン氏が親衛隊を率いての参戦だ。この世全ての男性を魅了できる人物でありながら、それでもまだ己を磨くことに躊躇しない彼女は、恐らく『アンテロースの矢』などという努力をせずに他者を魅了するような代物を、唾棄すべき便利用品と認識しているに違いない。恐らくだが、彼女は優勝した暁には、矢をその場で叩き折るつもりなのだろう。そして恐らく、努力を怠る凡人を罵る手筈。恐らく、恐ろしい話だ。


 ▽君口兄斗氏

 ……『青春』の二字に愛された麒麟児が手を上げた。球技大会での彼の活躍は、最早この学園国家サイバイガル全土に轟いている。なんとあの高名な兄上であらせられる快太氏に協力を得て、今回の情報屋主催の催しを盛り上げに来てくれた。しかし果たして、彼の想い人とは一体誰なのか。折角先日の『カース』による化け物を収めた功績で、数多くの女性からの評判を得たばかりだというのに、彼はそんなことどこ吹く風という調子で我が道を行っている。他所の声など気にせず、彼の目指す『青春』を、我々も応援させて頂こう。


 ▽ツァリィ・メリック氏

 ……あのメリックコーポレーションの御令嬢が立ち上がる。彼女の目的は言わずとも知れている。君口兄斗氏の心を射止めること。ただそれだけだ。果たして二人の間にどのような出会いや関わりがあったのか。我々は……まあ、把握しているが、諸賢はご存じないかもしれないだろう。ひたむきな乙女心は何者にも邪魔されるべきではない。無論、我々は彼女の味方である。……いや、君口氏の味方でもあるので、中立だ。我々マスコミは中立な立場なのだ。


 ▽日南貞香氏

 ……『番犬』という集団を、諸賢らはご存じだろうか? 最近巷を騒がしている無法な作業着の集団は、どうやら日南貞香氏がかつて関与していた『番犬』とはまた別の集団らしい。全くもって遺憾な話だが、今回は別件なのでここでは割愛。青春の一部を灰色に染めてしまった彼女が、今度は薔薇色に変えようと奮闘し始めている。これを後押ししない我々ではない。いやむしろそう……我々情報屋は、彼女ら学生の青春を彩るために、今回の催しを立案したと言っても良い。いや、実はそのために立案したのだ。本当だ。



 他にも数多くの名もなき学生たちが参加を表明してくれたが、ここでは以上の紹介とさせてもらおう。

 さて。今更になるが、アンテロースとは、ギリシャ神話における返愛の神であり、アプロディーテーの子でエロースの弟とされている。

 彼……もしくは彼女の矢は、エロースの放った矢によって一方的に植え付けられた愛情を打ち消す……もしくは、その愛情の向かう人物を射ることで両想いへと昇華させるという言い伝えがある。

 ……ここまで聞くと、我々はどうも、人間の愛情が神々によって支配されているような気がしてならなくなってしまう。

 キューピッドとも同一視されるエロースの、一方的に愛情を植え付けてしまう矢はもちろんだが、アンテロースの矢も果たして、我々にとって素敵な代物などと言えるのだろうか?

 結局のところ、所詮は兄の尻拭いをしているだけではないのだろうか?

 いや、信心深い者もいることだろう。これ以上の発言は慎ませて頂く。

 ただ、これだけは言わせて頂きたい。

 我々人間の愛情というものは、我々人間だけのものであるはずだ、と。


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