サイバイガル・タイムズ 二〇三一年 第二十二号
『驚異! 本物の超能力者!』
しつこく居座る残暑が厳しい今日この頃、堂々とした遅刻を決める秋風はまだその姿を表すこと叶わず、代わって驚異なる存在が我らの眼前に正体を見せました。
いえ、それは少し違うかもしれません。
何故ならその存在は、前もって世界に対して正体を示していたのです。
そう、『彼』のその『力』は、既に我々にとって周知のものなのです!
彼の名は君口快太。
彼こそ本物の超能力者。
理解を封じる超常現象を引き起こす、悪魔の黙示録にすら記されていない奇々怪々な鳳雛!
本号では彼への取材のやり取りを掲載させて頂こうと思います。
温厚かつ懐の奥深い君口氏に多大なる感謝と敬意を称しましょう。
――本日は御協力感謝致します。君口さん。
君口氏「こんにちは、マックさん。こちらこそ、俺……いや私なんかに取材だなんて、ありがとうございます」
――いえいえ。それでは質問に移ります。
君口氏「はい」
――まず初めに聞きたいのは、君口さんのその力……『カース』とは異なるんですか?
君口氏「『カース』……この学園国家サイバイガルでのみ見られる、超常現象のことでしたっけ? それとは明確に別物ですよ。俺……私の『力』は」
――失礼ですが、カースのことをあまり詳しくご存知ではない?
君口氏「まあそうですね。実は俺……あ、私は短期入学体験でここに来たものでして。大変申し訳ないんですけど、このサイバイガル・タイムズがどういった物かもよく存じていないほど情報弱者で……」
――ああ、だから取材を受けて下さったのですね。
君口氏「え? どういうことです?」
――気にしないでください。それで、具体的にはどういったことが出来るんですか?
君口氏「物を触らずに動かすくらいですかね」
――『くらい』って……凄いじゃないですか。どのくらいの重さまで動かせるんでしょう?
君口氏「人間一人くらいなら、まあ余裕ですかね」
――人間も動かせるんですか?
君口氏「あ……。えっと、その……ま、まあ」
――試したんですか?
君口氏「いやいやまあまあ多少はですね? べ、別に悪用したわけじゃないですよ? 物心ついた頃にはもう使えるようになっていて、役に立つこともあれば邪魔だと思うこともありました。でもまあ、どちらかと言えば人助けに使う機会の方が多かったかもしれません。……ん? あ、いや、本当に悪用はしてませんよ? ただその、自分のために使うことはまあ、結構、その……ないことはないので……」
――なるほど。ありがとうございました。
どうやら君口氏は、その超能力を悪用したことは一切ないらしい。
まさしく驚嘆するほど素晴らしい人格者と言えるだろう。
短期でこの学園国家サイバイガルに訪れたとのことだが、枢機院は彼のその能力だけでなく、人格も見て招待したに違いない。
実際のところはどうだか分からないが、そもそも彼が何故この学園に訪れたのかを本人から聞き出すことは叶わなかった。
ともあれかくもあれ、君口氏もこの素晴らしき呪いの学び舎での青春を、彼自身の色で染め上げていってもらいたい。
青春の色は、我々学徒の数だけ存在するのだから――。




