サイバイガル・タイムズ 二〇三四年 十六号
『もうすぐ待望のサマー・フィールドワーク・シーズン! おすすめロケーション特集!』
諸君! 定期試験の結果はいかがであっただろうか!?
……などという無粋な話題は、一度部屋の隅に隠し置くことにしよう。
そう! 試験結果のことなど忘れて、次へ進むとしようじゃないか!
追試がまだある? レポート課題も?
忘れよう! ……いや、それは忘れずに対応してほしい。
さて、本号では来たるフィールドワークに向けて諸君におすすめのロケーションを紹介しようと思う。
調査テーマで難儀している者は是非とも参考にして頂けると幸いである。
禁止区域への立ち入りはもちろん禁止されているので、今回紹介するのは当然だがそれ以外の場所で『カース』とは無関係のロケーションとなるが、それについてはあらかじめご了承いただきたい。
では、例の如くランキング形式で五位から順に紹介していくとしよう。
〇五位 生徒会執行本部
いきなり何を挙げるのだと疑問に感じる者も多いことだろう。
だが、生徒会執行本部は恐ろしき堅城であり、我々情報屋ですらその内部に仕掛けられた数々のトラップに非常に悩まされている。
というか何故生徒会の私有地にトラップを仕掛けているのだろう?
連中の考えていることは全く持って理解不能だ。
まあ、要するに、彼らの人間性を調査するだけで十分心理学的にも社会学的にも学べることは多いはずだろう。
決して、私怨で連中の下に人を送って彼らの拘束時間を増やしてやりたいなどとは考えていない。
それだけ彼らの異端さ……もとい人間的な特殊性を良い意味で評価しているだけのことだ。
諸君もぜひ彼らから人間の奥深さを学ぶといい。
〇四位 開かずの間
こちらは知らぬ者も多いことだろう。
知る人ぞ知る、あの名高き社会学名誉教授・六条公彦氏の研究室のことである。
氏は講義以外の時間を常にその研究室・『開かずの間』で過ごしている。
一体中に何があるのか、氏はどのような研究をしているのか、知る者はいても流布する者はいない。
氏はフィールドワークのシーズンになると開かずの間に自身以外の学生を招き入れるらしいので、気になった者はぜひ氏に直接申し入れるといい。
名誉教授の研究に携わるにはそれなりの覚悟もいるので、こればかりは注意して頂こう。
氏は誰でも歓迎とのことだが、彼の講義はどれも難易度が高く、単位を取れる者も少ない。
決して軽い気持ちで近づかないよう、心に留めておくことだ。
〇三位 ダグディブ自然公園
ここは諸君もよく知るだろうサイバイガル唯一にして最大の自然公園だ。
動植物や昆虫といった調査可能な対象が星の数だけ存在している。
既にここに決めている者も多いことだろうから柵愛するが、ここがフィールドワークに最適な空間であることは間違いない。
だが、ここは三位に位置付けておくことにする。
何故なら本号で挙げるのは『おすすめ』であり、最適かどうかではないからだ。
ここを挙げたのは、あくまでわが情報屋で最も人気だったからという理由だけだ。
諸君に真の意味でお勧めするのは、また別の場所ということになる。
〇二位 ブラックボックス
『どこだ?』という諸君の声が聞こえる。
ここは一号館の地下に実際に存在する真っ暗な空間だ。
何の為に存在するか、何故電気が通っていないのか、そして何より、『どれくらい広いのか』。
何もわかっていない。
何故ならこの場所は、つい昨年まで『禁止区域』だったからだ。
何があるのかわからないが、賢明かつ勇猛果敢な諸君には是非とも内部調査をお勧めしたい。
もちろん、我々が怖がって近づけないから勧めるわけではない。
決して。
〇一位 学園国家サイバイガル
『は?』という声が聞こえる。
気持ちはわかる。
だが、この世界で最も謎な場所はどこかと聞かれれば、ほとんどの国のあらゆる人間がこう答えるだろう。
学園国家サイバイガルだ、と。
歴代の学生たちは、何人もが長いフィールドワークの期間を利用してこの学園のことを調査してきた。
しかし、誰もその謎の存在・『カース』の正体を明かすことが出来なかった。
ある者は言った。
この地は呪われている、と。
またある者は言った。
この地が人を呪っているのだ、と。
果たして真実は如何に……。
諸君にもぜひこの無理難題への挑戦をお勧めしたい。
無論、それによって何の結果が得られなくとも、我々は全く責任を取るつもりはないが、悪しからず。




