憲兵さんとかどうでもいい
数ある作品の中から拙作をお選びくださり、ありがとうございますo(*⌒―⌒*)o
主人公目線に話は戻ります。
「シルビアというのはお前か?」
「それじゃあ、おつり──」
「ルビーちゃん、あんたの事じゃないかい?」
「ほへ?」
「白銀の髪の魔女シルビアとは、貴様の事だな?」
「魔女、違う。どちら様?」
「憲兵さん、この娘が魔女だなんて、何かのお間違いでは?」
本日お店は書き入れ時、を過ぎてちょっと閑散としていた。まあ雑貨屋さんだからね。年末年始のお客さんはあんまり見込めないから、店内に入れる大きな出入口は閉めてあった。でもファストフードのドライブインみたいに小さな窓口だけは開けてあったの。勿論そこでの取り引きではないよ。私は店内に入れてもらっていた。でも女将さんに「憲兵さん」呼ばわりされた男が小さな受付窓から顔を突っ込んで来てるのだよ。後ろにも憲兵さんと同じ制服の誰かが居るのも見える。たぶん地球の警察官みたいに二人か三人で一組なんだろうな。
「私、若い。魔女は、ずっとお婆ちゃん」
「……お前、幾つだ?」
「秘密」
「ルビーちゃん、幾つになったんだい?」
「今度の誕生日で……」
私は上手く言葉が出て来ず、指で示した。ピース的な二とOKサインのゼロ。
「……女将、この娘は知能が足りんのか?」
「今は国を出てるみたいでね、それももう長いから、こっちの言葉は片言なんですよ。でもこっちが言ってる内容は分かるみたいですから不自由は無いですけどね」
私は女将さんの向かいでうんうん首肯してみせた。
私は生まれた国を子供の頃に出た。たまに買い物に行くのは別の国だ。今ではそっちの国の言葉の方が基準になっている。でも普段喋らないから、どっち道片言なんだけど。言葉ってのは使ってないと忘れていくものなのよ。一人暮らしで呟いている言葉は日本語だしね。
「女将。その娘は何を購入した?」
「買い物じゃなくて、売りに来てくれたんですよ。憲兵さん達に大人気のお手々用のクリーム。ほら、これ」
女将さんが大中小あるハンドクリームの中から大きな品を見せた。
「そのクリームの製造者か!?」
「そうですよ」
にっこり笑顔で返事をする女将さんの袖を、ツンツン引っ張った。
「どうしたんだい?」
「憲兵さん、これ、買う?」
「ああ、そうだよ。憲兵さん達に大人気さ」
「御婦人、娘さん、は?」
「んー……何て言うか、殆どが領館やお宿や商売関係者…とにかく団体様が買い占めちまうんだよ」
「むー」
「でもこの辺境じゃ殆どの女が働きに出ているからね。働いている先でこいつのお世話になれるのはありがたいんじゃないかね?」
「ん。それなら、ん」
私が納得したように頷くのを見て、女将さんが私の頭を優しくポンポンしてくれた。女将さんのポンポン、幸せを感じる。
おっといけない。女将さんにおつりを渡していない。私は小金貨を手渡した。
「ちょいと、これは何だい?」
「おつり」
「おつりで金貨って、あんた──」
「おつりの余り、お寸志」
「スンシって何だい?」
この世界? に寸志なる慣習は無い。たぶん。
「……お祝い」
「何の?」
「新しい年になる。また、宜しくなの」
「じゃあ、おつりはあたしからのスンシってのでいいよ」
「それは、お年玉」
「何だい、それ?」
「言葉、変わる」
「難しいんだね。まあいいから、おつりはいらないよ」
これは素直に受け取ってくれそうにない。私は卸したばかりのハンドクリームの奥に小金貨を置いた。女将さんからはすぐに取れない場所を選んだ。
「おつりとお寸志、ここ置く。またね、女将さん」
「え、こら、ちょいと待ちな!」
私は笑顔で手を振りながら店を出たのだった。
漸く主人公の名前が出て来ました。
本当に名付けが苦手です(>_<")