憲兵の詰所
数ある作品の中から拙作をお選びくださり、ありがとうございます。
今回は中堅憲兵さん視点です。
「をぅお~。きちんと、本当に、真面目な場所」
「あれ? 冬ちゃんじゃねーか。今年は少し遅かったなぁ」
「食堂のおじちゃん!」
「食堂じゃなくて、茶店のおっちゃんだ」
「美味しいおっちゃん、何でここ居る?」
「一言で言うと食い逃げの届け出だ。只でさえ忙しい書き入れ時に、クソ!」
「お店は、大丈夫?」
「娘夫婦と臨時雇いが居るからな。今日みたいにごった返してる日は、あんま女共に外歩かせたくねーから俺が来たんだよ。婿は主戦力だし」
「お前達、随分と親しい仲のようだな」
連行して来た女と町民らしき老人の気安い会話に割って入る。
私の質問に答えたのは、届け出を出しに来たとかいう老人だった。
「この子は元々ウチの常連さんで、今はクリームを安く卸しに来てくれてる救世主なんでさぁ」
「今日、女将さん所、クリーム卸して来た」
「うぉっ♡ 早速帰りに買ってくわ! じゃあな、冬ちゃん!」
老人が笑顔で手を振りながら元気に憲兵の詰所を出て行く。
「『冬ちゃん』とは何だ?」
「おっちゃんおばちゃん、私を、冬ちゃん呼ぶ」
それは分かってる。顔に出たのだろう。続く説明。
「私、今、街出てる。街出た私、冬に来る。クリーム届ける」
「基本、冬にしか来ないから『冬ちゃん』か」
頷く女を案内しようとする。目的地は──
「取調室はこっちだ」
「とりしらべ?」
「お前には聞きたい事がある」
「聞く? 何?」
「専用の個室がある──」
「閉じ込める、男女、駄目」
「お前は容疑者だ」
「『ヨウギシヤ』、言葉、意味、分からない」
ここまでの会話で微妙にズレが生じていたようだと気付く。
ここまでの会話を笑いを噛み殺して聞いていたチームのおやっさんが助け船を出してくれた。曰く、そっちの部屋の奥で話そうと。ここからも見える場所だし、人通りもあるから安心だろう、と。これに女は素直に頷いた。
自分の力不足を痛感させられた一幕だった。
「随分と羽振りがいいようだな」
「『ハブリ』、言葉、意味、分からない」
まだまだ疲れる会話は続きそうだ。
おやっさんも後輩も、苦笑いしてるのら手伝ってくれよ!
『ヨウギシヤ』はわざとですm(_ _)m