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ちゅいに聖女認定! 神殿の実態は……?3

審査の後そのまま神殿で暮らすことになって、早半年。


「エヴァリーナ、遅い! 包帯作り、もっと急いで頂戴」


「しゅ、しゅみません!」

 

先輩聖女からの叱責を受けて、私は包帯作りの手を早める。


こうした雑用は、私たち下級聖女の仕事だ。

 

現在、神殿には約百人の聖女が暮らしている。


聖女は五歳で選ばれてから、だいたい五十歳くらいまでこの神殿で暮らすんだって。

 

ちなみに神殿に入った後は、実家とは完全に切り離される。


つまり、侯爵令嬢という身分は捨てたも同然。完全に実力主義の世界となる。

 

聖女はその魔力でみっつの階級に分けられる。


断ち切られた腕などの重傷や命にかかわるような重病者も治す、エルフ族に匹敵するほどの高い魔力を持っているのが上級。


ある程度の傷や病を治したりその他の属性魔法もそつなく使えるのが中級。


そして軽い怪我や腰痛肩こり程度しか治せないのが下級。

 

たいした魔力はないだろうとの自分の見立て通り、私は下級聖女の判定を受けた。

 

聖女はその癒しの魔法で国の人々を救うのが仕事だから、怪我の治療に使うものの作成も行っているのだが、これがなかなかに忙しい。


包帯に癒しの魔法を付与して、使いやすい大きさ・長さに切りそろえたり、魔物討伐や戦場で使うポーションを作成したり、街の治療所に赴いたり。


最近は孤児院に慰問にも行っている。

 

まぁ私はまだ五歳ということで、こうして神殿でできる簡単なお仕事を任されることがほとんどなのだが。

 

「エヴァリーナ様、休憩の後はポーション作りですからね。その後は魔石作りも。まだまだやることはたくさんありますから、時間通りに戻ってきてくださいよ」

 

「はい。神官しゃまも、おつかれしゃまです」

 

仕事のキリが良いところで休憩時間となり、ひとり裏庭に出る。


この裏庭は小さな森のようになっており、小鳥たちやリスなどの小動物もよく遊びに来てくれるため、お気に入りの場所だ。

 

ビアードやメリィは元気にしているかしら。

 

木陰に腰かけて、青い空をぼおっと見上げる。


するとすぐに、ピチチとさえずりながら小鳥たちが飛んできた。


「こんにちは。ふふ、今日も素敵な歌声でしゅね」

 

肩や膝の上にとまる小鳥たちと話していると、疲れもすっと消えていく。


今まで一日のほとんどを読書や勉強して過ごしていたからあまり思わなかったが、幼いこの体は、思っていたよりも疲れやすい。

 

いや、今までが運動不足すぎたせいかもしれないけれど。


とにかく、こうして働いていると、夜も夕食を終えるとすぐに眠くなってしまう。

 

同じ下級聖女のお姉さんたちに比べたら全然労働時間は短いのだが、それでも毎日クタクタだ。

 

ふうっと息をつく。

 

ああ、本当にこの時間は心が落ち着く。

 

あの日、癒しの魔法が使えることを知ってから、もし聖女に選ばれたら、できる限りのことは頑張ろうと思っていた。

 

だって、ずっと誰にも干渉されずに自由に屋敷で過ごせるわけじゃない。


貴族令嬢なんて、政略結婚が当たり前の世界だ。


魔力審査の日にお父様が言っていたように、もし聖女でなかったら侯爵家に都合の良い男性と結婚させられて、私自身も都合の良いように扱われるのだろう。

 

それよりは、中身は大人なのだから、働く方が自分に合っていると思った。


まぁ五歳で労働なんて、前世の常識では考えられないことだけれど。

 

実際に聖女に選ばれてからもその気持ちは変わっていない。


ただ、このままでいいのかなという気持ちも、心のどこかにはある。

 

そう思うようになったのは、先日勉強のためにと、街の治療院に初めて同行させてもらった時だ。

 

治療院には、下級聖女しか派遣されない。なぜなら、治療院にやってくるのは平民だけだから。

 

ただの腰痛や肩こり、あと軽い怪我くらいならたしかに治せる。


でも、病気からくる痛みや、進行が進んだ病は治せない。街の人たちもそれを知っているはずなのだが、それでもすがってくる。

 

その言葉を聞くと、苦しくなった。

 

助けてあげたいのに、私には力がない。


それが、こんなにも辛いことだなんて、初めて知った。

 

上級聖女はもちろん、もしかしたら中級聖女にも治せるかもしれない。


でも、彼女たちが治療院に派遣されることはない。

 

彼女たちの癒しの力は、大金を積まないと施してもらえないのだと、一緒に治療院に赴いたラナさんという二十歳くらいの聖女が教えてくれた。

 

現在神殿に暮らしている約百人のうち、中級聖女は八人。


上級聖女なんて、たったのふたりしかいない。

 

つまり、彼女たちはかなり稀少な存在なのだ。

 

私たちとは違うのだと、ラナさんは自嘲気味に笑った。

 

その笑みが、悲しくて。

 

もっと鍛錬すれば、治療院で治せなかった人たちの怪我や病気の苦しみを、少しは和らげることができるだろうか。

 

成長すれば、もっと体力がついてたくさんの人を癒せるようになるだろうか。

 

そんなことばかり考えるようになった。

 

私はなんて無力なんだろう。


そう落ち込むことも、時々ある。

 

ふうっとため息をつく。


すると、肩に乗っていた小鳥がちょんと嘴で私の頬をつついた。


「大丈夫でしゅ。ちょっと疲れただけでしゅから」

 

心配してくれた小鳥の頭を指で優しく撫でると、膝の上にいた小鳥たちも僕も私もとせがんできた。


「なでなで。みんな、ありがとうございましゅ」

 

小鳥たちの気持ちが嬉しくて、少しだけ気持ちが浮上していく。

 

うん、これでこの後の仕事もがんばれそうだ。

 

もう少しこの子たちの毛並みを堪能したら仕事に戻ろうと思っていると、キキッ!と奥からリスが走っててやってきた。


そしてそのうしろから、ウサギたちがなにかを引っ張ってくるのが見えた。


「え? あれって……」

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