ちゅいに聖女認定! 神殿の実態は……?2
ビアードやメリィとの別れを済ませた私は、両親とともに神殿へとやってきた。
本で読んだのだが、魔力審査は特別な水晶に触れることで行われるらしい。
魔力があると、水晶が光る。
その魔力が高ければ高いほど、光が強くなる。
そして聖女特有の魔力を持っていれば、金色に光るのだという。
ちなみに、女児は聖女と認定されたら有無を言わせずそのまま神殿入りとなるのだが、男児は違う。
神官候補に選ばれるほどの高い魔力を持っていても、神殿入りするかどうか選ぶことができる。
まあ男児は家を継ぐ問題があるからね。
だからけっこう高位貴族は拒否することも多いんだって。
神官候補に選ばれた、という事実だけで、その子の評価は爆上がりするらしい。
現代日本なら性差別と言われそうだなぁと思いながら、馬車を降りて両親とともに神殿内へと歩き出す。
両親と並んで歩くのなんて、初めてじゃない?と思っていると、周囲からの視線に気がついた。
両親に向けられているのだろうと思っていたのだが、なにやら私が見られているような気がする。
「あなた、顔は整ってるものね。聖女に選ばれることはないでしょうけれど、これから立派な方と結婚できるように、今から愛想を振りまいておくことね」
なんと、本当に私が見られていたらしい。
もともと美少女だと思っていたけれど、今日は特別におめかししてもらったし、人目を惹くようだ。
すると、そんなお母様の言葉を聞いて、お父様がちっと舌打ちをした。
「下品な発言はするな。エヴァリーナの相手は、侯爵家の品位を損ねない、言うことをよく聞く、侯爵家に相応しい男を私が選ぶ」
「私が侯爵家に相応しくないとでも言いたげね? まったく、こんな失礼な男じゃないことを祈るわ」
……急に小声で口喧嘩が始まってしまった。
しかしふたりとも顔には表れていない。
すごい、あの癇癪持ちのお母様にもそんな芸当ができたのね。
素直に感心してしまったが、本当に仲が悪いなとため息をつきたくなる。
周りには私と同じ五歳になったばかりの子どもと、その両親がたくさんいる。
どこの家族も大抵仲良さそうに歩いているのに、うちときたら。
やれやれと呆れながら足を進めていくと、大きな扉の前に来た。
どうやらこの先が、魔力審査を行う水晶の間のようだ。
神官たちの手によって開かれた扉の向こうに足を踏み入れると、なんだか不思議な空気を感じた。
「上級聖女の結界だな。さすがの魔力だ」
お父様がぼそりと呟いた。
どうやら水晶の盗難や破壊が行われないよう、上級の聖女が結界を張っているらしい。
お父様は神官候補に選ばれた経験のあるほどの魔力を持っているため、結界に気づいたようだ。
ちなみにほとんど魔力のないお母様は、「そう? そんなの感じないけれど」と興味なさげだ。
そうして指定された座席に並んで座ると、しばらくして壮年の神官が現れ、挨拶を始めた。
どうやら始まるらしい。
名前を呼ばれた順に前の舞台上にある水晶のところへ歩いていき、審査を受けるのか。
うわ、だいたいの結果を知っているとはいえ、やっぱりちょっとドキドキする。
「エヴァリーナ、転んだりしないでよ。恥をかくのは私たちなのだから」
そこへお母様が小声でちくりと刺してきた。
それにはお父様も同じ考えなのか、黙って頷いている。
はいはい、わかってますよ。そんな時だけ意見を一致させないでよね。
「続いて、エヴァリーナ・オーガスティン侯爵令嬢」
再びため息をつきたくなっていると、ついに私の名前が呼ばれた。
「はい」
返事をして立ち上がる。
うしろから転ぶなよ!という痛い視線を受けながら、壇上へと登っていく。
これが水晶。
間近で見ても、とても綺麗だ。
転ぶことなく水晶の前に到着すると、まずその美しさに目を奪われた。
透明な球体の中に、きらきらした星のようなものが散りばめられているように見える。
「どうぞ、手を」
神官に促されて、私はそっと右手を上げた。
聖女に選ばれるのは、一年間でひとりかふたり。
まさかそのひとりが私だなんて、誰も思わないよね。
苦笑しながら水晶にそっと触れる。
――ああ、やっぱり。
目の前の水晶は、淡い光を帯びていた。
――そう、金色に。
「おめでとうございます。オーガスティン侯爵令嬢、聖女様として神殿で丁重にお預かりさせて頂きます」
側にいた神官の声に、周囲から驚きと羨望の声が上がる。
両親は――、信じられないという表情だ。
こうして私は、正式に聖女の認定を受け、神殿で暮らすことになったのだった。