ましゃか⁉ 私の本当の力って……6
本日2話目の投稿です。
「あれくしゃんです! 別の鳥型の騎士さんたちに担がれて、クリスと一緒にこちらに向かってきていましゅ!」
じわりと涙が目に滲む。
ああ、やっぱり。
「宰相殿、申し訳ありません! 隊長が……」
「ああ、状況はわかっている! ここに降ろせ! 治療するぞ!」
すぐに私たちのところまでアレクさんを運んできてくれた騎士ふたりが、その体を地面に降ろす。
ミリアとカイが地面に布を敷いてくれて、そこにアレクさんを横たわらせた。
顔色が悪い。
それに冷や汗をかいている。
間違いなく、毒の症状だろう。
先ほど傷を負った腕を出すと、傷口が変色してぐじゅぐじゅになっている。
『たぶん、途中までは本当に毒の症状に気付かなかったのだと思います。主殿はそんな考えなしではありませんから』
クリスが心配そうにしながら、私にそう教えてくれた。
そうだよね、陛下も他の騎士もいたし、あの魔物はアレクさんが無理をしないといけないほどの相手ではなかったはず。
それに、アレクさんの異変に長年一緒にいるクリスが気付かないわけがない。
「くっ、かなり進行していますね。応急処置でどうにかなりそうに思えません」
リクハルドさんが顔を顰める。
嘘、そんな、まさか。
「わ、私の、せいでしゅ。あれくしゃん、私を庇って……」
ずっと我慢していた涙が、堰を切ったように流れ落ちる。
あの時、上空から見るだけにしておけば。
無防備に地面に近付いてほしいなんて言わなければ。
そんな後悔が押し寄せてくる。
結局、私は役立たずのままだ。
前世でも、今世でも。
頑張りたいって張り切っても、結局はひとりよがり。
その上、大切な人を巻き込んでしまうなんて、最低だ。
ゴン!
「おい、誰がおまえのせいだなんて言ったよ」
その時、カイが私の頭をグーで叩いた。
予想外の衝撃に、驚いて目をぱちくりとさせると、ミリアもそうですよ!と声を上げる。
「リーナ様のせいだなんて、アレクシス様だって思っているはずがありません!」
「かい、みりあ……。で、でも、あれくしゃんが……」
そうしている間も、アレクさんの顔色がどんどん悪くなっていく。
先ほどまでは青かった顔が、今度は白くなっていっている。
そうこうしているうちに、陛下もこちらにやってきた。
陛下がリクハルドさんとなにか話しているけれど、声が遠くてよく聞きとれない。
バタバタと騎士たちも騒いでいるし、アレクさんを連れてきてくれた騎士がどこかへ飛んで行ったのも見えたけれど、なにをしているのかわからない。
どうしたらいいかわからない。
なにも考えられない。
――なにもできない自分が、情けない。
聖女なのに。
私のちっぽけな癒やしの力じゃあ、こんな酷い毒を解除することはできない。
私にもっと、上級聖女のような力があれば――。
そう、ぐっと唇を噛み締めた時。
『リーナ様。お願いです、主殿のために、聖女の力を使っては頂けませんか?』
私を落ち着かせるような静かな声で、クリスがそっと囁いてきた。
「くり、しゅ……。だめなんでしゅ。たしかに解毒魔法は使えましゅけど、こんな強い毒は、私の力じゃ治せなくて」
転生して身動きが取れるようになってから、本ばかり読んで勉強してきたため、魔法はある程度の種類使える。
でも、下級聖女の私の魔力じゃ、大きな怪我は治せないし、強いものは解毒できない。
「つ、使ったとちても、気休めにしか、たぶん、ならなくて……」
そう話しながら、ぼろぼろとまた涙が零れる。
自分にはできないんだって伝えることが、こんなに辛いことだなんて、知らなかった。
「私なんかじゃ、あれくしゃんを助けられな……『私なんか、じゃありませんよ、リーナ様』
弱音を吐く私の頭を、クリスが羽でそっと撫でた。
『あなたは、とても強くて、優しい心の持ち主だ。聖女という特別な存在でありながら、我々のような動物や獣人たちのことも、偏見の目で見ず、対等に、敬意を持って接してくれている』
強くなんてない。
優しくありたいとは思うけれど、ひとりよがりでこうして迷惑をかけてばかりだ。
ふるふると首を振ると、クリスはこつんと嘴で私の頬をつついた。
『あなたのその謙虚で優しい心は、きっと力になる。大丈夫、あなたのその力は、きっと主殿を癒やすことができる。お願いです、主殿に、魔法を』
その優しくて力強い言葉に、顔を上げる。
できる自信はないけれど、このままなにもやらないよりは、できる限りのことをやった方がいい。
そう思った。
「聖女殿、大丈夫か? なにやらクリスと話していたようだが……」
少しだけ落ち着きを取り戻すと、陛下の声もちゃんと聞こえるようになった。
陛下が私の前にしゃがんで、大丈夫かと覗き込んでいる。
陛下だけじゃない、カイもミリアもリクハルドさんも、私を心配そうに見つめている。
「わ、私、治せるかどうか、わかりましぇんけど、あれくしゃんに解毒魔法をかけてみたいと思いましゅ。くりしゅが、きっと大丈夫だからって、言ってくれて。私なんかの力じゃ、無理だとは思うんでしゅけど、でも」
でも、できることはやりたい。
アレクさんは、この国に来て不安だった私に、最初に優しく接してくれた。
いつも側にいて、私が安心できるような言葉をかけてくれて、笑いかけてくれた、大切な人。
「た、助けたい。あれくしゃんが苦しんでいるのに、なにもしないわけには、いかないでしゅ……!」
そう声を上げると、目を見開いた陛下は、その後にふっと笑った。
「――ああ、俺からも頼む。気休めでもなんでもいい。アレクに、できる限りのことをしてやってくれ」
そして、私の震える両手をぎゅっと包み込んでくれた。
冷たい両手に、陛下の温かさが伝わってくる。
「私からも、お願いいたします。アレクシスを想ってそう言ってくださるあなたを、誰も責めたりはしない。どうか」
陛下のうしろから、リクハルドさんもそう言ってくれた。
そのうしろに控えているカイやミリア、騎士たちも頷く。
みんなからの後押しを受けて、ぐっと涙を拭う。
泣いている場合じゃない。
横たわるアレクさんを見つめ、その頬に触れる。
冷たい。それに、息も浅い。
――どうか。
ちっぽけな私に、大切な人を助ける力を。
そう祈るように目を瞑り、傷のあるアレクさんの腕に掌をかざし、魔力を集中させる。
すると、掌に集まる魔力がいつもより多いことに気付く。
それに、熱い。
きらきらとした銀色の光の粒子も、いつもよりも密度が濃い。
――こんなことが、前にもあった。あの時は、たしか……。
『大丈夫です、リーナ様。私の予想が正しければ、あなたの力は――』
クリスの呟きが聞こえる。
ああ、そうだ。
神殿の裏庭に迷い込んできた、怪我をしたクリスを助けた時。
あの時も、こうやって。
「〝解毒〟」
目を開き、ありったけの魔力を放出させる。
お願い、どうか。そう、思いを込めて。
ぽろりと涙が零れると、光の粒子の輝きが増していく。
まるで星屑がアレクさんの傷を癒やすように。
そうして変色が広がっていた腕の色が少しずつ戻り、傷が綺麗に塞がると、光の粒子が消えていった。
辺りが鎮まりかえる。
私にできることはやった。
「あ、あれくしゃん……」
おそるおそる声をかけて頬に触れる。先ほどまでとは違う、顔に赤みが差している。
――それに、温かい。
「……泣いているのです、か?」
いつもの穏やかな優しい声が、ずっと閉じたままだった唇から発せられる。
ぼろぼろと涙が零れる。
でもこれは、悲しい涙じゃない。
ゆっくりと腕が上がり、その大きな手が、私の涙を拭った。
もう泣かないでというかのように。
「――ありがとうございます、聖女、エヴァリーナ様」
「あ、あれくしゃん、よ、よかった、でしゅ……!」
うわーん!と、人目もはばからずにまるで子どものように泣きじゃくる私を、びっくりして飛び起きたアレクさんが、焦りながらも抱き締めてくれたのだった。
明日、最終話となります。
どうぞ最後までエヴァリーナたちにお付き合い下さいませ(*^^*)




