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ましゃか⁉ 私の本当の力って……4

本日2話目の投稿です。

そして宿屋で温かいお茶を一杯いただいたのち、私たちは村を出発した。


小一時間ほど馬車で揺られていると、そろそろですねとのアレクさんの言葉通り、馬車がゆっくりと止まった。

 

そして馬車から降りると、別の馬車から降りてきた陛下が、私とアレクさんのところにやってきた。


「聖女殿、この先になる。事前に伝えていた通り、水が湧いて雪が解けているはずだから、すぐにわかるだろう。報告によると、地面のひび割れもあるとのことだから、念のために降り立つことはしないように気を付けてくれ。ではアレク、頼んだぞ」


「はい」

 

アレクさんは陛下の言葉に返事をすると、指笛を吹き、クリスを呼び出した。


「クリス、付近に危険はなかったか?」


『ああ、主殿。たしかに地割れや水が湧いているのは確認できたが、特に危険な様子はなかった。それと、周囲の空や地上に魔物の姿はなかった』

 

どうやらクリスは一足先に偵察をしてきてくれたようだ。


一応聖女の私を危険な目に遭わせるわけにはいけないということらしい。


「そうか、ご苦労だったな」

 

そう言ってクリスを労うと、アレクさんは獣化し、その大きな翼を広げた。

 

うん、やっぱりすごくかっこいい。


それにクリスもその肩に乗ると、相乗効果でかっこよさが倍になる気がする。


絵になるってこういうことなのね。

 

ほえーっと見惚れていると、アレクさんに手を差し出されて我に返る。

 

おっといけない。


さあ、いよいよ今から一緒に飛ぶのね。


うう、どきどきするけど、楽しみ!

 

わくわくしながらその手を取る。


……ん? そういえば、一緒に飛ぶって、私はどんな格好をすればいいのだろう。


掴まる? 


……どこに? 


おんぶしてもらう? 


……羽があるのに私をおぶったら邪魔よね?

 

今さらながらそんなことに悩んでいると、頭上でアレクさんがくすくすと笑っていた。


「失礼します、リーナ様」


「え、あ、きゃぁっ!」

 

背中に腕を回されたかと思うと、一瞬で私の体がひょいと抱きかかえられた。

 

こ、これは……! 


まさかもしやのお姫様抱っこ⁉


「できるだけ負担の少ないように飛びますが、怖かったり不快に思うことがあれば、すぐにおっしゃってください。それではしっかり掴まっていてくださいね」


「ひゃ、ひゃぃっ」

 

掴まるってどこに⁉ 


胸元⁉ 


あっ、洋服を掴んでればいっか!

 

ぐっとアレクさんの胸元の服を握りしめる。

 

よ、よし。


すごいアレクさんの顔が近いし温かいしなんかいい匂いするけど、そこは無で! 


なにも感じるな考えるな私!


「お、お願いしましゅ」

 

平静を装ってそうお願いする。


できるだけ外側を向いて、アレクさんの近すぎる顔を見ないように。


「……いえ、掴むのはそこではなく…….。失礼します」


「ひゃぁっ⁉」

 

なんとアレクさんは、胸元を掴んでいた私の手を移動させ、自分の首に絡みつけた。


つまり、私がアレクさんの首に手を回すような形にしたのだ。


「あ、あれくしゃん、これはさすがに……!」


「すみません、こうしないと危ないですから。もっとしっかり掴まっていてください」

 

当の本人に真顔でそう言われてしまえば、まるで恥ずかしがっている私がおかしいみたいではないか。

 

離れたところでそれを見ていた陛下が、どうでもいいからさっさとしろー!と叫んでいる。

 

くっ、し、仕方ない……。


「はい。ちゃんと掴まりまちたので、お願いしましゅ」

 

同行している他の騎士たちからも見られているのに、これ以上騒ぐわけにもいかない。

 

私の中身が大人だと知らないみんなからしたら、アレクさんがちびっこを抱きかかえて飛ぼうとしているだけだ。


なにをぐずぐずしているのかと不思議に思われてしまう。


「では、参りましょう」

 

羞恥心を封印した私がしっかりと掴まったのを確認して、アレクさんがぐっと足に力を込め、ゆっくりと飛び上がった。


「わぁ! しゅごいでしゅ!」

 

大きく開かれた翼を羽ばたかせ、浮上していく。


すぐに陛下たちが小さくなってしまった。


「怖くはないですか?」


「はい、だいじょぶでしゅ! ちょっと寒いでしゅけど、気持ちいいでしゅ!」

 

でもたしかに風もあるし、ちゃんと掴まっていないと危ない。


ここは大人しく、言われた通りに首に手を回した体勢のままでいよう。

 

ぐっと腕に力を込めると、ふっとアレクさんが笑った気配がした。


「では、地割れて水が噴き出ている現場まで進みます。そうしてちゃんと掴まっていてくださいね」

 

アレクさんはそう言うと、そのままの高度で緩やかに進んでいく。

 

先日、この荒野の付近で地震が発生した。


といってもそれほど震度は高くなかったようで、先ほどの村でも、ちょっと揺れたね~くらいだったそうだ。


おそらく王都も揺れたのだろうが、震度一とか二とか、揺れに気付かないくらいだったのだと思う。

 

それにしても獣人国ではその程度の地震はよくあるとのことで、本当に日本に近い環境なのだなと思う。

 

話は少し逸れたが、とにかくその地震の後、荒野の雪が解けてしゃばしゃばの状態になっているのが、先ほどの村の獣人によって発見された。


なぜその付近だけと不審に思い確認に行くと、軽い地割れとそこから水が湧いているのが見つかった。

 

特にそれ以外に不審な点は見つからなかったが、やはり地震の後に発生したということで、不安に思う村人も多く、王都に報告がいったのだという。


「あ、あそこでしゅね。雪がじんわりと溶けてましゅ」

 

その付近の真上までくると、雪が完全に溶けている中央部に、それほど大きくはないがたしかに地面が割れているのが見えた。


「あれくしゃん、少し高度を落としてくれましゅか? 近くで見たいので」


「わかりました」

 

急降下しないように、アレクさんはゆっくりと下へと降りてくれた。


前世でジェットコースターが苦手だった私だが、アレクさんの気遣いのおかげで全然怖くない。

 

そうして地面の近くまで降りてもらうと、たしかに水が湧き出ていた。


そこをじっと見つめると、湯気っぽいものが出ているのがわかる。


「ちょっと魔法を使ってみてもいいでしゅか? 小さいでしゅけど、火が出ましゅので、驚かないでくだしゃいね」


「わかりました」

 

魔力を集中させて〝(フレイム)〟と唱えれば、掌の上に小さな火が出た。


アレクさんにお願いして、湯気が触れるくらいまで少し降下してもらい、その火を湯気にかざす。

 

揺らぎはないし、変な反応もない。


なにかおかしなガスが発生しているわけではなさそうだ。

 

ふっと息を吹きかけて火を消す。


そしてそのまま手を湧き水へと伸ばす。


「リーナ様⁉」


「だいじょぶでしゅ」

 

湯気の感じからして火傷するほどの高温ではないはずだと踏んだ私は、そっと湧き水に触れた。


うん、丁度いい加減。


「あれくしゃん」

 

その温かさに、私はアレクさんににっこりと微笑みかける。

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