仲良し幼馴染って素敵でしゅよね2
「こほん。大変失礼いたちまちた……」
「いえ、それだけ気に入っていただけたとは驚きでしたが、あなたの触り方は悪くありませんでしたからね。案外心地良かったですよ?」
リクハルドさんがストップを言わなかったので、十分、いや十二分に堪能させてもらってしまった。
陛下とアレクさんの視線に気付いた時には、けっこうな時間が経っていて、慌てて自分の席に戻ってきたのだが、我を忘れてしまったことを反省している。
「ははっ、まあそう落ち込まなくてもいい。それにしても、聖女殿は、本当に動物が好きなのだな」
「はいっ、もふもふに触れていると癒されましゅ! ちなみに陛下のようなツヤツヤで毛並みの良い耳やしっぽも、かっこよくて綺麗で、素敵だと思いましゅ!」
私の失態を笑って許してくれた寛大な陛下に、まだ興奮の冷めきっていなかった私は、つい陛下の耳としっぽにまで言及してしまった。
「ほぉ、俺がかっこいいと思うか?」
「もちろんでしゅ! しなやかで強くてかっこいいと思いましゅ!」
若干前のめりでそう応える。
陛下は剣の腕前もかなりのもので、自ら戦地に赴くこともあるのだそう。
〝俊足〟のスキルの持ち主でもあり、そのスピードについてこれる人間はいないし、獣人の中にも一握りほどしかいないという話だ。
「そうかそうか、聖女殿は素直でいいな! ほら、新しく茶を淹れてもらうから、菓子ももっと食え!」
陛下ほどの方も褒められると嬉しいのか、上機嫌でお菓子の皿を私の前へと置いてくれた。
ちょっと子ども扱いされているような気はするが、まぁこれくらいならいいかとお礼を言ってお菓子を受け取る。
「おや、ひとり面白くなさそうな顔をしていますね? アレクシス」
リクハルドさんの声にぱっとアレクさんを見ると、たしかに面白くないというか、寂しそうというか……。
とにかくなにか言いたそうな顔をしていた。
「……そんなことはありません」
いや、そんなことないって顔してませんけど?
おそらく陛下とリクハルドさんも同じことを思ったのだろう、呆れた顔をしている。
「あーまぁな。おまえには耳もしっぽもねぇからな」
え、そこ?
そんなしょうもない理由のわけが……
「黙っていてください、陛下。羨ましいなどと、これっぽっちも思っておりませんから!」
思ってたんだ。
恐ろしくわかりやすいアレクさんに、陛下は笑いをかみ殺し、リクハルドさんもからかってやろうという顔をしている。
「おやおや、陛下と私に嫉妬ですか? たしかに獣化していないあなたには、エヴァリーナ様に愛でてもらえるものがありませんからね」
「ぶふっ! おい、リク! おまえそれは言い過ぎだろ。ぶぶっ!」
あーあー、ふたりにいじめっこのスイッチが入っちゃった。
こうしてお茶会を開くようになって、私はだんだんこの三人の関係が読めてきていた。
私の考え通りなら、このふたりが悪ふざけをすると、アレクさんがかわいそうなことになる気がする。
「で、ですから! 私はそんなこと気にしていないと言っています!」
いやいや、気にしてるって顔に書いてありますよアレクさん。
もうしゃべると段々分が悪くなるだけの気がする。
「そうでしたか。ではエヴァリーナ様、私のしっぽに触りたくなったらいつでもお声がけください。アレクと毎日過ごしていても、もふもふのない彼では癒しにはならないでしょうからね」
「リ、リーナ様は私と一緒に過ごす時間を、楽しいと言ってくださっています!」
……どうしよう、これ、どうやって収拾つけるの?
リクハルドさんはもう完全にからかいモードだし、陛下は爆笑してるだけ。
アレクさんが不憫でならない。
……男子って、楽しそうだなぁ……。
傍観者になりたい気持ちもあるが、さすがにアレクさんがかわいそうすぎる。
空気を変えるのは私しかいないだろう。
「あ、え、えーっと! そういえばあれくしゃんって、空が飛べるんでちたよね⁉」
急に声を上げた私に、三人がぴたりと動きを止めた。
よしよし、このまま話を変えよう。
「……はい。これでも赤鳶の獣人なので。〝飛行〟のスキルも持っておりますし」
かわいそうに、半ば涙目のアレクさんが子犬のような目で私に答えた。
猛禽類はどこへ行ってしまったのか。
「私、あれくしゃんの羽、見たことないでしゅ! 見てみたいでしゅ! ぜひ!」
無邪気におねだりする幼女を演じてみる。
いや、実際見てみたいなとずっと思っていたし、噓は言っていない。
そのタイミングが今だってだけで。
「お、聖女殿はアレクの獣化を見たことがないのか? せっかくだから、見せてやってはどうだ?」
さすがにこのあたりで止めておこうと思ったのか、陛下も私に賛同してくれた。
リクハルドさんも仕方ないなという顔をしている。
「あれくしゃん、お願いしましゅ。綺麗な羽、見たいでしゅ」
「そ、そうですか?」
きらきらとした視線を送れば、アレクさんの顔に笑みが戻る。よし、あと少し!