仲良し幼馴染って素敵でしゅよね1
それから雪も深まり、獣人国は冬真っただ中、どこもかしこも雪景色となった。
コンソメスープはすっかり王城の人気メニューとなり、ミルクスープやトマトスープなど、アレンジスープも作ってもらっているが、そのどれも大変好評だ。
もちろんそれらには、越冬野菜が使われることもあり、野菜の甘みが十分感じられて美味しいと、リクハルドさんからもお褒めの言葉をいただいている。
「魔物討伐に出る騎士たちからも、野営で美味しいスープが飲めるのは最高ですと評判です。騎士たちの士気も上がって、討伐の時間も短縮されたように感じますね」
アレクさんの言葉に、陛下も満足げに頷いた。
そう、今日もまた、例によって王城でお茶会という名の報告会が開かれている。
……もうだんだん緊張しなくなってきた。
だって陛下もリクハルドさんもアレクさんも、毎回まったりモードなんだもの。
私ひとりが緊張しているのもなんだか馬鹿らしいではないか。
……まあ、私の前で気を抜いているのは、私のことをもう警戒していないし、ある程度信用してくれているということだから、嬉しくもあるのだが。
もぐもぐと今日のお菓子、フィナンシェを頬張る。
うん、美味しい。
王城の料理人たちの腕は確実に上がっている。
「今日の菓子も美味いな。最近は、聖女殿考案の料理のレシピを求めて、城下町からも王城に投書が来ているらしいぞ? ぜひ教えていただきたいとな」
「え、あ、そうなんでしゅね。陛下たちがよろちければ、私は別に構いましぇんけど……」
美味しいものはみんなで共有するのがいいもんね。
さすがに私に城下町で教えて回ってくれとは、言わないだろうし。
「はは、聖女殿は欲がないな。まあそこが良いところでもあるのだが」
陛下がそう言って笑う意味が、私にはちょっとわからない。
レシピと引き換えになにか望んだりしないのかってこと?
実際に私が考えたわけでもないのに、そんなことできるはずもない。
「陛下、あまりそういうことはおっしゃらないでください。リーナ様は心の綺麗な方なのです。そういった悪だくみやずる賢い思考とは、無縁なのですよ」
またこのアレクさんは、いちいち発言が大袈裟である。
それに悪だくみとかずる賢いって、陛下に対して失礼なのでは……。
「悪かったですね。ずる賢い思考で悪だくみばかりする私の前で、それは嫌味ですか?」
「別にリクハルドのこととは言っておりません。それに、あなたはそういう役目で、皆がそれで納得しているのですから、別に悪いことではないでしょう」
おお、珍しい喧嘩が勃発かと冷や冷やしたが、アレクさんの思考が良い人すぎて、喧嘩にもならなかった。
リクハルドさんも気まずいのか、はたまた良い人オーラに調子を崩されたのか、頬が引きつっている。
アレクさんは私のことを心が綺麗だとか言うけれど、アレクさんの方がよっぽど誠実で真っ直ぐな人だと思うのだけれど。
「リク、いちいちアレクに嫌味を言ってもこちらが馬鹿を見るだけだぞ。長い付き合いの中でよくわかっているだろうに」
「……そうでしたね、この実直くそ真面目を相手に、私が馬鹿でした」
笑い飛ばす陛下に、リクハルドさんも同意しため息をついた。
どうやらふたりの中でもアレクさんはそういう印象らしい。
長い付き合いって言っているし、幼馴染なのかな?
仲が良くて、楽しそう。
思わずくすくすと笑いが零れると、陛下がそれに気付いた。
「なんだ、聖女殿。楽しそうだな」
「いえ、しゅみましぇん。皆さん仲良しだなぁと思って」
そんな私の言葉に、陛下はははは!と笑い、リクハルドさんは照れたようにこほんと咳払いをした。
あ、リクハルドさんのしっぽがそわそわ揺れてる。
綺麗な銀色のふわふわしっぽ、さ、触りたい……。
「? リーナ様、リクハルドのしっぽがどうかしましたか?」
アレクさんが私がまじまじと見ていたのに気付いた。
ま、まずい。
いや別にまずくはないかもだけど、こんなこと正直に話せるわけが……。
「聖女殿、嘘を言っても無駄だぞ。リクに見透かされてしまうからな」
陛下が言った通り、リクハルドさんがじっと私を見ていた。
そうだった、リクハルドさんは嘘を見破る特殊能力……いやスキルを持っているんだった。
そ、そんな人を相手に私のこの邪な願望を誤魔化せるわけが……。
気付けば、じーっと三対の目に見られている。
し、仕方がない……。
「いえ、その、りくはるどしゃんのふわふわしっぽが、触ったら気持ちよさそうだなぁって、思って……」
そう白状しながら、変な汗が流れてきた。
こうして言葉にすると、すごくおかしなことを言っているような気になる。
そうだよね、動物ならともかく、そしてミリアのように同性の友達のような存在ならともかく、動物の血が濃いとはいえ、リクハルドさんはれっきとした成人男性の獣人。
こんなちびっこによしよしと撫でられたいと言われて、喜ぶわけが……「いいですよ」
「「「え」」」
思わず声が出てしまったのは私だけでなかったようで、陛下とアレクさんの声も重なった。
「ですから、別に触るくらいなら構いませんよ。減るものでもありませんし」
呆気にとられる私たちに対して、当のリクハルドさんは涼しい顔をしている。
そして、ほらほらどうぞとしっぽをふりふりし出した。
「~~~っっ、しっ、失礼しましゅ!」
その誘惑に勝てなかった私は、リクハルドさんの席に近付き、しっぽに手を伸ばした。
触る前からわかる。
間違いなく極上の毛並みだ。
恐る恐るそのしっぽに触れる。こ、これは……!
「さっ、最高級のしるくみたいな手触りでしゅぅ~‼」
思わず顔が蕩ける。
いやいや、本当にツヤっとしていてさらさらで、それでもってふわふわもふもふで、もう、言葉に言い表せないくらいに最高の手触りなのだ。
「ふっ、エヴァリーナ様、お顔が崩れていますよ。そんなに私のしっぽがお気に召しましたか?」
「はっ、はいぃぃ! こんなの初めてでしゅぅ」
よほどみっともない顔をしていたのだろう、リクハルドさんにそんなことを言われてしまったが、そんなのどうでもよくなってしまうくらい、最高だった。
そんな私を陛下とアレクさんが微妙な顔をして見ているのに気付かないくらい、私はリクハルドさんのしっぽに夢中になっていたのだ。




