ちゅいに聖女認定! 神殿の実態は……?1
昨夜、一話投稿しておりますので、まだお読みになっていない方はひとつお戻り下さい。
そうして月日は流れ、ついに私は五歳の誕生日を迎えた。
……といっても、特にお祝いなどはなく、誕生日の日の夕食時、お父様に『魔力審査の日が決まった』とまるで業務連絡のように言われた。
まあ毎年なにかあったことなどないし、淡々と『わかりまちた』と答えたら、眉を顰められた。
お父様は、私のこの幼い話し方が嫌いなようで、いつも私が口を開くとこんな顔をする。
ちなみにお母様は終始無言。
聖女になんて選ばれるわけないと思っているだろうし、なんの興味もないのだろう。
最近はお互いに愛人に夢中になっていると、噂好きの侍女がおしゃべりしているのを聞いた。
だからって私が傷つくことはないが、侯爵家の未来は大丈夫かしらと、わが家のことながら心配になる。
私が聖女に選ばれたら、家を継ぐ婿を取ることもできなくなるし、この先後継者が生まれる期待もできない。
離縁して新しい妻を迎える?
それともお父様が愛人に子どもを産ませてその子を迎え入れる?
……どちらにしても修羅場間違いなしだ。
支度を整えながらそんなことを考えていると、自室の扉が開かれた。
「そろそろエヴァリーナの支度は終わったかしら? そんなわけはないと思うけれど、万が一にも聖女に認定される可能性もなくはないからね。侯爵令嬢として恥ずかしくないように、ちゃんと着飾らせてくれたでしょうね?」
「は、はい奥様! お嬢様のお支度、終わりました! それはもう、かわいらしく整いました!」
気だるそうに現れたのは、きらびやかに着飾ったお母様だ。
あいかわらずの美貌だが、あいかわらず私への愛情はとんと感じられない。
気性の激しいお母様のお叱りを受けないようにと、メリィがぺこぺこ頭を下げている。
かえって不自然な気もするが、メリィの必死さを感じるためなにも言えない。
「ふぅん……。まあ、いいんじゃない? どうせ選ばれないと思うけれど、一応ね」
私を一瞥して、お母様が頷いた。
いつもは簡素なドレスを着ている私だが、今日は白を基調とした、レースたっぷりで宝石まであしらわれたドレスに身を包んでいる。
別に「あら、かわいくしてもらったわね~」なんて言葉を期待していたわけではないけれど、母親にそんな風にそっけなくされたら、普通の五歳児だったら結構傷つくと思うんだけどな。
そう、今日はいよいよ魔力審査の日だ。
そして、おそらくもうこの家に帰ってくることはない。
「じゃ、あと三十分後に出発するから。遅れたり、ドレスを汚させたりしないでよ」
「もちろんです奥様!」
メリィの返事に、お母様はふんと鼻を鳴らして退室していった。
あと三十分。
メリィとビアードに最後のお別れの挨拶をするなら、今だ。
「まったく……あんなに着飾って、今日の主役は奥様じゃないってのに……」
「めりぃ」
お母様がいなくなって、そうぶつぶつと呟くメリィの名前を呼ぶ。
はい?と首を傾げ、私の身長に合わせて屈んでくれるメリィに、私は笑顔を向けた。
特別かわいがってくれたわけではないが、この屋敷の中で唯一普通に接してくれた人。
メリィがいなかったら、きっともっと落ち込むことがあったと思う。
「今まで、ありがとうございまちた。お母しゃまのお相手は大変でしゅけど、これからもがんばってくだしゃいね」
感謝の気持ちを込めて、ぺこりとお辞儀をする。
そんな私の言動に、メリィは呆気にとられた。
「あ、えと、お嬢様、これで絶対にお別れなわけではなく、もしも聖女様に選ばれたらのお話で……」
「知ってましゅ! でも、いつもおちぇわになってるお礼は言いたくて」
戸惑いながらも、メリィはとんでもありませんと微笑んでくれた。
きっとこれでお別れだと勘違いしているんだな、帰ってきたらまた一緒に過ごせるのに、などと思っているのだろう。
でも、おそらくこれで最後だから。
「びあーど、こっちおいで」
隣の部屋で待っていたビアードを呼ぶと、のっそりとその大きな姿を現した。
「あ、お嬢様、ビアードと遊ぶと、ドレスが汚れて……」
「だいじょぶです。気をつけましゅから」
とててとビアードに駆け寄る。
ふわふわの大きな体。
いつもこの温かい体温が、私を安心させてくれた。
「びあーど、大好き。これからも元気でいてくだしゃいね。ずっと、あなたのこと、忘れましぇん」
自然と涙が目に溜まる。
ビアードは賢いし、けっこう使用人たちにかわいがられているから、私がいなくなっても大丈夫。
番犬として活躍してくれるだろう。
『リーナも、元気でね。僕も、君のことが大好きだよ』
きゅっとビアードを抱き締める私のうしろで、微笑ましく思ったのだろう、メリィがくすりと笑みを零す声が聞こえた。