みんなでお料理も楽しいでしゅよ?3
「ではまず、こんそめすーぷを作ってもらいましゅ」
「「「「こ、こんそめ?」」」」
この世界にはコンソメスープというものが存在していないため、みんなが口を揃えてオウム返しをしてきた。
「はい。ではまず、お願いちておいた材料をお願いしましゅ」
「あ、はい!」
材料は玉ねぎ、ニンジン、セロリ、パセリ、ボナコンという牛型の魔物の骨付き肉と、ロック鳥という鳥型の魔物の鳥ガラだ。
大きい魔物の骨付き肉を指さして、騎士たちに笑顔を向ける。
「皆しゃんはまず、これをお願いしましゅね!」
「「「はい……?」」」
呆然とする騎士たちに、料理人たちが大きな出刃包丁を渡した。
「皆しゃんの剛腕で、こう、バキッ! ボキッ!とやっちゃってくだしゃい、その後は綺麗に水で洗ってくだしゃいね」
「「「お、おぅ……」」」
戸惑う騎士たちにほらほら早くと促す。
骨付き肉はある程度ほぐしたり骨を割った方が味がよく染み出るのだ。
そして料理人たちには大鍋にたっぷりのお湯を沸かしてもらう。
「そうしたら、野菜はまるごと中に入れちゃってくだしゃい。骨付きのお肉は、一度湯通しして簡単にアクを抜きましゅ」
このまま……?と戸惑いながら、料理人たちはぼちゃぼちゃと野菜たちを鍋に入れていく。
騎士たちの手によっていい感じに割れた骨付き肉も、ザルに入れて湯通しした後に鍋の中へ。
「で、二・三時間煮込んだらできあがりでしゅ」
「「「「「に、二・三時間⁉」」」」」
みんなが驚いて叫ぶ。
でも本当は半日とか煮込むともっと美味しくなるんだけどね。
「あ、おひとりお鍋の前に立って、時々あく取りはしてくだしゃいね? 弱火でことこと、じっくりとでしゅ!」
呆然とする料理人のひとりに、そう告げると、乾いた返事が返ってきた。
「……おい、俺が作ったアレはどこで使うんだよ?」
鍋の前の料理人を不憫そうに見つめながら、カイが私に囁いてきた。
「あ、それは次のやつに使うんでしゅ」
次……?とみんなが胡乱な顔をした。
「はい! 次は、顆粒こんそめを作りましゅ」
「「「「「カリューこんそめ……?」」」」」
次はいったいなにを言い出すんだこのちびっこは……という顔をしているのが面白い。
「簡単に言うと、お湯を注ぐだけですーぷができる、簡易すーぷの素でしゅ。ほら、騎士さんたちの遠征にも持って行けるでちょぉ?」
あ……と騎士たちが目を見開く。
そう、獣人国の騎士たちは、自国を守るために時には森や荒れ地での野営をすることがある。
「私をここまで連れてきてくだしゃった時に、こんな食事ですみましぇんって謝ってまちたよね。これから寒い中の遠征もあるでしょうし、せめて温かいすーぷでもあれば、少しは元気が出るのかなと思って」
「「「せ、聖女……いや、女神様……!」」」
なんと、騎士たちが滂沱の涙を流し出した。
「え!? ちょ、ちょっと皆しゃん⁉」
「ま、まさか俺たちのための料理だったとは……!」
「俺、一生リーナ様についていきます!」
騎士たちが感激のあまりにとんでもないことを言い出した。
いや、ちびっこ聖女についていくってなんだよ?という顔のカイが、呆れた顔をしている。
「で? 俺の作ったやつをどう使うんだ?」
カイにとってはそちらの方が気になるらしい。
うおぉ!と未だに涙が止まらない騎士たちはとりあえずそっとしておいて、材料を料理人たちに切ってもらうことにする。
「今度は燻製肉とじゃがいもも使うのか?」
「はい。今度のは骨が邪魔になるので。それと、顆粒を作るには、このじゃがいもが大切なんでしゅ」
顆粒作りには、先ほどと同じ玉ねぎ、ニンジン、セロリ、パセリの外に、ベーコン的な魔物の燻製肉と、じゃがいもを使う。
これらを簡単にひと口サイズにカットしてもらい、それらの材料の十五~二十%の量の塩と、水、コショウを一緒に、カイに作ってもらった容器の中に入れる。
「これはなんですか?」
「えーっと、前世では、みきさーと呼ばれていたものでしゅ」
興味深そうに覗き込んできたアレクさんに、小声でそう伝える。
そう、私はカイに〝なんちゃってミキサー〟を作ってもらったのだ。
私の注文通り、丈夫な筒状の容器の中に、羽状の刃が回転するように作られている。
だが、ミキサーとはいうものの、この世界に電気という概念はもちろんない。
なので、最終手段、魔石を使うことにする。
「この容器にこれをはめ込んで……あ、動きまちた!」
蓋をきっちり閉めてぱちりと魔石をはめ込むと、中の刃が動き出した。
うん、なかなかいい感じ。
カイってば本当に天才!
ちなみにこの魔石は私が風の魔力を付与して作ったもの。
神殿でも大量に作っていたので、これくらいは朝飯前というやつだ。
そうしてしばらくミキサーにかけると、中に入れた材料が細かくなり、どろっとした液体状になってきた。
「あとはこれを、フライパンで弱火にかけて乾燥させたら一応終わりでしゅ。焦がさないように、時々ヘラでかき混ぜたり潰したりしながら、弱火でじっくり、ぱらぱらの小さい粒になるまででしゅよ」
乾燥……?と料理人たちの目が再び胡乱なものになる。
「えっと、一時間半くらい、でしゅかね」
「「「は、はーい……」」」
がくりと項垂れる料理人たちに、騎士たちが立ち上がった。
「いや、この作業は俺たちがやろう」
「料理人は誰かひとりついてくれれば大丈夫だ」
「なんていったって、騎士団の女神・リーナ様が、俺たちのために考えてくださったものだからな!」
いつの間にか涙は止まっていたらしい。
まぁ技術のいる作業なわけでもないし、指示役に料理人がひとりつけば、大丈夫だろう。
ものすごくやる気に満ち溢れていたため、こちらは騎士たちに任せることにした。
「じゃ、じゃあ他の方は、今のうちにスープの具を切っておきまちょうか。スープには燻製肉を入れても美味しいでしゅよ」
今度は普通に返事があり、ふうっとひと息つく。