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寒さに負けない野菜を作りまちょう!3

さすにが人前で羽目を外しすぎたと恥ずかしくなる。


「いえいえ、そう遠慮なさらないでください。ああ、もうすぐ昼休憩が終わってしまいますね。作業場までお送りします」


「あ、アレクシス様がリーナ様を送ってくださるなら、私はちょっと図書館に行って来てもいいですか? ほら、なんでしたっけ、エットーヤサイ? とりあえずこの国で育てられている作物の蔵書を探してきます!」

 

なんと、ミリアがそう提案してくれた。


そうだよね、野菜は前世も今世もほとんど変わりないけど、ひょっとしたら寒さに強いものや私が知らない新しい野菜があるかもしれない。


「ありがとうございましゅ、みりあ! みりあが賢すぎてびっくりでしゅ!」


「ええ~? リーナ様にそう言われると照れちゃいますぅ!」

 

きらきらとした目でミリアを見送る。


ミリアみたいに、自分にできることがないかなと考えられるのって、すごいことだと思う。

 

前世のペットショップでひとりでがんばっていた時とは、違う。


陛下も、リクハルドさんも、アレクさんやミリア、カイも、みんなで意見を出し合って、考えていくのって、こんなにわくわくすることなんだ。


「どうしました? 嬉しそうな顔をしていますね」

 

どうやら表情に出ていたらしく、アレクさんに指摘されてしまった。


「はい、とっても嬉くして、つい顔が緩んでしまいまちた。この国の人たちが、とってもいい人……いえ、獣人さんで、幸せだなぁって。ここに来てよかったなぁって思ってましゅ!」

 

心からの笑みで応えると、アレクさんは一瞬驚いたように目を見開くと、すぐにくすりと笑った。


「それを言うなら、私たちの方こそ、あなたがこの国に来てくださってよかったと、いつも思っていますよ?」


「いやぁ、そう言っていただけるのは嬉しいでしゅけど……。上級や中級の聖女様の方が、もっとすごいでしゅよ? 私なんて、聖女の力はちっぽけで。かいたちが上手に使ってくれているから、役に立てている風でしゅけど」

 

これは卑下しているわけでも、嫉妬しているわけでもなく、ただの本心だ。


上級や中級の聖女たちと同じくらい魔力が強ければ、川や湖の水をまるごと浄化することも可能だっただろう。


濾過装置なんてまわりくどい方法を取らなくても、各地を回って定期的に浄化すればいいだけの話だから。


「こんな私でも、ここにいていいんだって言ってもらえているみたいで、嬉しいんでしゅ。いつも優しい言葉をもらうばかりで、少しは私からも返さなくちゃって思うので、これからもがんばりましゅね!」

 

むん!と気合を入れて腕まくりをすると、なぜかアレクさんはうーんと困ったように笑った。

 

あれ? 


どうしてそんな顔をしているのだろう。


「謙虚で努力家なのは、リーナ様のいいところなのですが……。ここまで心が綺麗だと、逆に心配になってしまいますね」

 

心配? 


どういうことだろう。 


はっ、まさかこんなちびで非力な分際で張り切りすぎると、痛い目に遭うぞって注意してくれている?


「そういう意味ではなくて……。なんて言うか、もう十分、私たちはあなたから救いの言葉をもらえているということです」

 

きょとんとしながらアレクさんを見上げる。


歩きながら話しましょうかと言われ、作業場までの道のりを並んで歩く。

 

足の長い長身のアレクさんは、こうして歩く時にいつも私に合わせてゆっくり歩いてくれる。


そのさり気ない優しさが、いつも私の心を温かくしてくれる。


「例えばカイですが、最近とても生き生きとしていると思いませんか?」

 

たしかにアレクさんの言う通り、カイは毎日とてもがんばっている。


大人たちの中でも臆することなく意見を出して、採用してもらえるととても嬉しそうだ。

 

そういえば最初に濾過装置の仕組みをチームのみんなに説明している時は、口では仕方ないなと言っていたが、どことなく嬉しそうな、誇らしげな表情をしていた。


「カイが狼の獣人であることは、ご存じですよね?」

 

アレクさんの問いに、こくんと頷く。


強そうだし、かっこいいなぁって思ったことを思い出す。


「ですが彼は、家族の仲ではつま弾き者だったのです。狼の獣人のくせに、力が弱いと」

 

初めて聞く話に、言葉を失う。


でも、そう、たしかカイはアレクさんに憧れて騎士を目指していたはず。


「きっと、家族を見返したかったのでしょう。たまたま助けられた私が騎士だったから、それを目指した。ですが、私は彼が別のなにかに興味を持っているのではないかと、ずっと思っていました。そう、例えば〝鍛冶師〟とか」

 

はっとしてアレクさんを見上げる。


開発チームの中の鍛冶師さんたちの話を興味深そうに聞き入るカイの姿が思い浮かぶ。


私は選択肢が広がっていいなと思っていたのだが、もしかしてカイは……。


「元々手先が器用で、屋敷内のちょっとした修理などもお願いしていたのですが、それはもう、真剣ないい顔をするのですよ。ちょっとくらい曲がっていても気にしないと言っても頑固にやり直すと言ったり。……自分のスキルを気に入っていない風ではありましたが、あれは完全に職人気質だと思います」

 

きっちりしたいタイプなんだなぁと思っていたのだが、たしかにそう言われてみればそうかもしれない。


そうか、カイはものづくりが好きだったのね。


「あなたに、その道を教えてもらえたのです。騎士になるだけ、強くなるだけがカイの人生ではないのだと」


「私が、でしゅか?」

 

アレクさんがにっこりと笑って頷く。

 

いや、それはたまたまで……。


「たまたまでも、そういう道もあるのだと思えるきっかけをくれたのは、あなたです。もちろん、この先のことを決めるのはカイ自身ですが、騎士に〝ならなくてはいけない〟という考えはもうないでしょうね」

 

ーー優しい表情。


アレクさんは、本当にカイのことを心配していたんだ。


「……もし、かいが少しでも生きやすくなったなら、よかったでしゅ。正直、巻き込んでしまった感があるなぁって思っていたので」


「はは、たしかに。なんだかんだと巻き込まれて、いつの間にか開発チームになくてはならない存在になりましたよね」

 

声を上げて笑うアレクさんは、普段の紳士的な姿とは少し違って、少年っぽい表情をしていた。


「本当に、あなたは不思議な方です」


「えっと……それって褒めてましゅ?」

 

どういう意味が含まれているのだろうと微妙な顔をすると、アレクさんは先ほどよりも大きな声で笑ったのだった。

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