寒さに負けない野菜を作りまちょう!2
「なるほど、雪の中で作物が育つはずがないというのは、我々の先入観だったのですね」
「一度収穫ちてからもう一度土で覆い、その上に雪が積もって再度収穫しゅるものや、収穫せずそのまま雪の下で越冬さしぇるものがありましゅ。野菜によって方法は違いましゅが、越冬野菜はどれも甘みが増して、栄養価も高くなるんでしゅよ」
リクハルドさんにキャベツやニンジン、大根などが一般的だったことを伝えると、それならまだ収穫前のものもあるはず……と思考を巡らせていた。
「よし、リク。一度試験的にやってみないかと急ぎ会議にかけてみるぞ」
「ええ。まだ雪が降るには少し時間がありますから、今のうちですね」
そして陛下とリクハルドさんは私にひとつふたつ質問すると、慌ただしく席を立った。
「聖女殿をねぎらおうと思っての会だったのだが、結局力を借りることになってしまったな。すまない」
「冬を越すための難題を解決する、足掛かりになりました。エヴァリーナ様の知識と知恵には本当に感服いたします」
最後にそう言って、ふたりは私の頭をさらりと撫でていった……撫でていった⁉
「な、なっ、今、撫でられっ!?」
あまりにナチュラルな動作で反応が遅れてしまったが、少しずつ恥ずかしさが湧き上がってきて、撫でられた頭を両手で押さえる。
「あらら。リーナ様、落ち着いて下さい、ね?」
よしよしとミリアが宥めてくれるが、顔の熱はなかなか下がらない。
ううう、恥ずかしい……!
「大丈夫ですか? すみません、陛下もリクハルドも、リーナ様に失礼を」
恥ずかしさのあまり丸くなっていると、アレクさんが顔を覗き込んできた。
そういえばアレクさんにもよく撫でられたりしてたよね。
最初は今みたいに恥ずかしかったけれど、子どもだと思っているんだろうしって我慢してて、そうしているうちに慣れてきちゃってたけど……あれ?
「……しょうぉいえば、最近、あれくしゃんは私のこと撫でたりしましぇんね?」
「え、あ、はい⁉」
つい思っていたことが口に出てしまった。
するとアレクさんはびくりと肩を跳ねさせ、ちょっと焦ったような表情になる。
「ええと、それは、やはりその、大人の女性を相手に失礼だなと思いまして……」
しどろもどろと説明する、こんなアレクさんは初めて見る。
でも、そうだよね。
その気遣いは、大人の私が中にいるってことを、ちゃんと尊重してくれているということだ。
「ありがとうございましゅ。あれくしゃんに撫でてもらうの、嫌じゃなかったので、ちょっと寂しい気もしましゅけど」
大きな温かい手でぽんぽんされるのも、すごく安心するなぁって思ってた。
まるで小さい頃に、お父さんに頭を撫でてもらった時みたいだなぁって。
今だって、陛下とリクハルドさんに撫でられて、ちょっとびっくりして恥ずかしかったけれど、嫌ではなかった。
あのふたりも中身は大人ってわかっているはずだけど、たぶん、妹をかわいがるような、そんな感じでやったんだろうなぁ。
そう思ったら、なんだか気持ちが落ち着いてきた。
うん、不意打ちでびっくりはしたけど、もう大丈夫。
「……では、触れてもいい、ということですか?」
「え?」
思いもよらぬ言葉が帰ってきて、ぽかんと口を開ける。
定位置のように私の隣に座っていたアレクさんを見上げると、その眼差しは真剣で――。
「すみません、中身は大人だとわかっていても、どうしても手が伸びてしまいそうになる時が……。その、私、実は小動物が大好きでして」
「え? しょ、小動物、でしゅか?」
衝撃?の告白に、ずるりとずっこけそうになるのをなんとか堪えた。
「はい。赤鳶は猛禽類なので、小動物から恐れられることが多いのですが、私は昔から小さいものが好きで……」
「あぁ~たしかにリーナ様、うさぎとかハムスターみたいな小動物っぽいですもんね~」
もじもじしながらアレクさんが話してくれるのに、ミリアがぼそっと返した。
すると、そうなんですよ! わかってくれますか⁉ とアレクさんが勢いづく。
「あまりにリーナ様が健気なことをおっしゃると、いけないと思いつつ、ついそんな気持ちに……。おそらく先ほどの陛下とリクハルドも、そんな感じでつい撫でてしまったのだと思います」
「そうですよね〜。ちっさい子がこまごまと頑張ってる姿見ると、なぁんか撫でたくなっちゃう気持ち、たしかにわかります」
うんうんとミリアが頷くのに、アレクさんも同意する。
しょ、小動物ね、なるほど……。
「え〜っと、話はわかりまちた。子ども扱いされるのは不本意でしゅけど、つい手が伸びてしまう時は、仕方ないんじゃないでしゅかね?」
「えっ!? それって私も撫でてもいいってことですか!?」
すると、なぜかミリアからそんな声が上がった。
「いや〜私も実は我慢してたんですよね! ほら、リーナ様がかわいすぎてぎゅー!ってしたいなと思う時ってけっこうあって」
え、ミリアまでそんなこと思ってたの?
でもそれを言うなら私だって……。
「えっと、私も実は、ミリアのふわふわの耳とかしっぽに触りたいって、思ってまちた」
もじもじと告白すると、ミリアがぱあっと表情を明るくさせた。
「どうぞどうぞ! リーナ様になら触ってもらって大丈夫です! あ、でも、しっぽは優しく触ってくださいね?」
「い、いいんでしゅか? えと、じゃあみりあも、私のことぎゅーってしてくだしゃい!」
いいんですかと聞きながらも、私の両手はすでにわきわきと開閉しており、触る気マンマンである。
そして私たちふたりは、ぎゅうっと抱擁しながら互いの感触を堪能することにした。
「はわわわ! しっ、しっぽの毛並み、最高でしゅ!」
「リーナ様、柔らかくてあったかくていい匂いしますぅ」
そうしてミリアとじゃれ合っていると、微妙な顔のアレクさんに見つめられていることに気付いた。
「あつ、しゅ、しゅみませんつい!」
「あーんもう終わりですかぁ?」
残念そうなミリアをぺりっと引き剥がす。
いけない、今まで我慢してきた、もふもふをもふりたいという欲望がつい……!
「いえ……大変仲がよろしくて、いいと思います」
「ああっ、あれくしゃん、明後日の方向を見ないでくだしゃい!」