寒さに負けない野菜を作りまちょう!1
王城の厨房にお邪魔するようになって、半月ほどが経った頃。
「いや~聖女殿のおかげで、仕事が捗ってしかたない! うまいもんが食べられると思えば、メシの時間を作ろうとみんな必死に仕事するもんなんだな! 各方面から感謝の声が届いているぞ! ちゃんと食事をとると頭もよく動くし、なによりリクの機嫌がめちゃくちゃいい!」
「はは……。それは、よかったでしゅ……」
私はなぜか陛下に呼び出されていた。
しかもまたお茶会、テーブルにはお茶とお菓子が並んでいる。
もちろんアレクさんとリクハルドさんも一緒だし、いつものようにミリアも扉の前に控えている。
最近はなりゆきでお菓子まで教えるようになったため、今回のお茶菓子は私が教えた生チョコやひとくちカップケーキも並んでいる。
意外にも……いや、もう意外じゃないか、リクハルドさんは甘いものが好きだった。
アレクさんも陛下もそこそこ。
さすがにお菓子は本当に簡単なものしか教えられなかったけれど、こちらもとても喜ばれている。
「さて、まず報告だが、ろかそーちのおかげで各地から体調不良者が激減しているとの報告もあがっている。これまであまり長い時間飲み水を貯めておけずにいたが、二、三日なら余裕で保つのも嬉しいとのことだ」
「エヴァリーナ様や開発チームの仕事が早いおかげで、本格的に雪が降る前に地方に配布することができましたしね」
今回はなんの話だろうと少しビクビクしていたのだが、なんと陛下とリクハルドさんから嬉しいお言葉をいただけた。
「そうなんでしゅね! よかったでしゅ!」
なんだそういう話かとすっかり肩の力が抜け、自然と笑顔になる。
「だが、まあ俺たちも聖女殿に頼りっぱなしの自覚はあるのでな。見た感じは健康そうだが、どうだ? 無理などはしていないか? なにか気がかりなことがあれば遠慮なく言ってくれ」
どうやら今回のお呼び出しの目的は、濾過装置についての報告と、私の健康チェックのようだ。
ちょっと過保護気味なアレクさんはもちろん、陛下やリクハルドさんも意外とよく私を気遣ってくれるんだよね。
こういうところ、すごくホワイト企業っぽい。
そう考えると、前世のペットショップでの私の待遇は異常だったよなと、今更ながら思ってしまう。
動物たちのためだったとはいえ、どうして自分のことをもっと大切にしなかったのだろう。
獣人国に来て、こうして周りの人たちに気遣ってもらえるようになって、ものすごくそう思うようになった。
「リーナ様、どうされました?」
心配そうなアレクさんの声がして、はっと我に返る。
「あ、いえ、しょんな風に言ってもらえるのがしゅごく久しぶりだったので、驚いてしまって……」
前世の両親が生きていた時以来だろうか?
その後は、転生してからもずっと、ひとりでがんばるのが当たり前だったから……。
大丈夫?とか、無理してない?って、私のことをちゃんと見て、気にかけてくれているから出てくる言葉なんだよね。
「……私、無理はしてましぇん。そりゃ、料理人の方たちに料理を教えてやってくれと言われた時はしゅごく戸惑いまちたけど。でも、厨房のみなしゃんもとてもいい方ばかりでしゅし、開発ちーむのみんなとも仲良くできて、毎日楽しいでしゅ」
にっこりと、心からの笑みで応える。
忙しいのに、私のためにこうして時間を作ってくれた陛下たちの心遣いが、とても嬉しかったから。
「リーナ様……」
「え、み、皆しゃん⁉」
アレクさんが私の名前を呼んだかと思うと、陛下とリクハルドさん、そしてミリアまでもがなぜか目頭を押さえて俯き、ぷるぷると震え出した。
「そうだったな、俺たちが普通だと思っていたことが、聖女殿にとっては違うのだったな」
「中身が大人とはいえ、幼い子どもの姿でそんなことを言われると、胸に刺さりますね……」
「リーナ様……ずびっ! これからも私たちと楽しく暮らしましょうねっ!」
……陛下とリクハルドさんがものすごく優しい顔をしているのはともかく、ミリアが大号泣しているのはなんなのだろう。
リクハルドさんが「たくさんお食べ……」と私の前にお菓子を並べてくれたのを、微妙な気持ちで手に取る。
うん、すごく美味しいけれども。
生温かい目で見られている意味がちょっとわからなかったけれど、まあいいかと考えることを止めた。
そうしてもしゃもしゃとお茶とお菓子を食べながら、そういえばと思いついたことを口にする。
「先ほどの話に戻りましゅけど……。最近、ちょっとお野菜が少ない気がしてるんでしゅけど」
すると、それまで生温かかった空気が、一瞬にして変わった。
「ほう、よく気付いたな」
「さすがの慧眼ですね」
陛下とリクハルドさんの目が光った。
ふたりとも狩りを行う動物の獣人だからか、鋭い目をした時の迫力がすごい。
それにしても、慧眼という言い方はかなり大袈裟だなと思う。
ただ単に最近アレクさんのお屋敷でご飯を食べている時に、野菜が少なくなったなぁと思っただけだから。
「冬はどうしても作物を育てられなくてなぁ。どこの地域も雪まみれになるからよ」
「秋のうちにある程度収穫したものを貯蔵しておきますが、量にも保管期間にも限界がありますからね。考えなしのところが多い獣人族ですが、食べ物に関しては慎重なので、本格的な冬に向けて野菜を節約しながら生活しています」
やっぱりそうだよねと、陛下とリクハルドさんの説明を聞いて納得する。
前世ではハウス栽培などがあったから、一年を通してある程度安定した出荷量を保持することができたけれど、この世界でそんなことができるはずがない。
いや、魔法を使えばこちらでもハウス栽培的なものを作るのは可能かもしれないが、あいにく私にはそんな強い魔力はないし……。
でも野菜って健康のためには必要なものだし、できれば安定量を確保したいって思うよね。
豊作だった年はいいけど、不作だった場合は冬のための分を確保できるかも難しいところだろうし。
それとリクハルドさんの言う通り、保管期間もあるもんね。
冬だからってずっと腐らずに置いておけるわけじゃないし。
それにしても食べ物に関しては慎重って、そういうところは動物の習性が色濃いのかな?
狐なんかも冬ごもりをするために、雪の下に食べ物を蓄えたりするって……あ。
「あ」
「「「あ?」」」
思わず声に出してしまった私に、陛下たちが反応する。
「越冬野菜……」
「「「エットウヤサイ?」」」
面白いほどにオウム返ししてくれたお三方に苦笑する。
「えと、獣人国はどこの地域も雪が降るって先ほどおっしゃってまちたよね? けっこう積もるんでしゅか?」
「お、おお。年にもよるが、だいたい毎年膝下くらいまで積もるな。……ってか聖女殿、雪のこと知ってんのか? 人間国には降る地域はないはずだが」
「はい。実は、前世で住んでいたところと獣人国の気候が、しゅごく似てるんでしゅ」
陛下にそう応えながら、もう朧げな前世の幼い頃の記憶が蘇る。
私、いや里奈が住んでいた地域は、雪が多く、越冬野菜の生産が盛んなところだった。
両親と住んでいた家の近くには大きな畑があって、近所のおばあちゃんによくおすそ分けをいただいていた。
懐かしい思い出に、自然と頬が綻ぶ。
「それで、前世で冬に収穫できる野菜があったのでしゅが、ちょっと聞いていただけましゅか?」
この国の土地と野菜でできるかどうかはわからない。
でも、勝手に無理だろうと判断するには早い。
こんな私の話をいつだって真剣に聞いてくれるこの人たちになら、話をして一緒に考えてくれるはずだ。
まだこの国に来てわずかな期間だけれど、そう信じられるだけの信頼関係を結べていたのだなということに気付き、少しでも参考になればいいなと思いながら越冬野菜についての説明をするのだった。




