ご飯を食べないと、元気でましぇんよ?1
昨日の夜も一話投稿しておりますので、まだお読みでない方はひとつ戻って下さい(*^^*)
陛下たちとの四者面談から一カ月、アレクさんたちにすべてを打ち明けた私は、晴れ晴れとした気持ちで毎日を過ごしていた。
「おい、そろそろ付与し終わったか?」
「あ、かい。はい、ちょうど終わったところでしゅ」
濾過装置の作成も順調である。
作成チームにはカイも加わっており、こうして一緒に作業をしている。
カイはチームの中でも色々と意見を述べて、大人たちを驚かせている。
前から思っていたんだけれど、カイってば賢いし、けっこう鋭いことを言うんだよね。
子どもながらの柔軟な発想も持っていて、それでいてクラフトのスキルを生かした技術力も高く、すっかりチーム内ではなくてはならない存在になっている。
この濾過装置を国中に広めるために大量生産をしているのだが、実はその最中にカイがぽつりと零した意見により、新しい発明品が生まれた。
まあ、発明品というか、実は私にはなじみ深いものだったんだけれど……。
作業中、カイが指を切ってしまったことがあり、私が『バイキンが入ったら大変でしゅ!』と言って魔法で治した。
初めて見る魔法に周りの大人たちが驚く中、カイはじっと傷があった場所を凝視していた。
そして、『なあ、傷にもバイキンが入るのか?』と聞かれたため、バイキンは空気中にいて、どこにでも存在しているし、体内に入ることもままあり、それが原因で色々な病気になるし、傷口に入れば傷が悪化するのだと説明した。
『……なら、ろかそーちの布を傷口に貼れば、悪化を防げるってことか?』
つまり、前世でいう〝絆創膏〟のことである。
もちろんこの世界にそんなものは存在していない。
それなのにそのことを思いついたカイは素晴らしい発想の持ち主だと思う。
作成チームの大人たちも同じことを思ったようで、素晴らしい!やってみよう!と大盛り上がりになった。
そして早速試作品を作り、怪我人がよく出る騎士団の訓練場へと持ち込んだ。
するとこれが大当たり。
傷の治りが早くなったとか、ぐじゅぐじゅした汁が出なくなったとか、騎士たちから大評判になった。
……まあ、ぐじゅぐじゅした汁が出ないように、まずはちゃんと傷口を流水で洗おうよとは思ったけれど。
そんなこんなで訓練場に出入りするようになって、騎士たちとも少し親しくなれた。
国境から私をここまで連れてきてくれた騎士たちとも再会して、結構楽しんでいる。
そうして濾過装置作成チームは、新製品開発チームと名前を変えた。
日常のちょっとした困りごとなどを取り上げて、私の知識や力を使って解決できる道具を作れないだろうかとみんなで考えている。
私が付与できる魔法は弱いものだと伝えていたのだが、その微弱なものでも十分ありがたい!こんなこともできるのでは⁉とチームのみんなは私の魔力の弱さをちっとも気にしていないようだ。
クロヴァ―ラ国にいた頃は、上級・中級の聖女たちがすごすぎて自分なんてと思っていたけれど、こんなちっぽけな力でもみんなの力になれているのかなと、温かい気持ちになっている。
アレクさんには、私の力に頼りすぎではないか、無理してはいないかと心配されたが、今のところそんなに負担を感じていない。
元々魔法を付与するには限界があるし、陛下とリクハルドさんからも無理させないようにと開発チームのみんなに伝えてもらっているため、ちゃんと休みを取りながらやっているもの。
まあおかげさまで夜はぐっすりだけれど、達成感のある疲労というか、とにかく体に負担がかかっている感じはしない。
それに、日がな一日読書をしたりぼーっと日向ぼっこをして過ごすよりも、よほど精神的には気が楽だ。
前世の勤勉な日本人としての記憶が残っているせいか、やはりなにもしないで養われているだけの身というのは心苦しい。
それに、開発チームの獣人たちとも親しくなれたし、その従獣たちと休憩時間に戯れるのも楽しい。
ちなみに動物と話ができることは、一カ月前に陛下達に伝えており、転生のことはともかく、それくらいなら皆に知られてもいいのではないかとのことで、カイをはじめとして開発チームのみんなも知っている。
私が従獣とおしゃべりしていると、生温かい目で見られるのが、なんとなく気恥ずかしい。
しかし、ほどよく働き、動物たちに囲まれて癒しの時間も持てる今の生活は、正直言って最高だ。
「おい、なにぼへっとした顔してんだよ。ほら、付与し終わったやつ、こっちにくれ」
「あ、ごめんなしゃい。よろちくお願いしましゅね、かい」
なんとなくだけど、カイも生き生きしている気がする。
騎士を目指してるって言ってたけど、こういう仕事も向いてそうだよね。
まあなんにせよ、カイはまだ十二歳。
すぐに将来を決めなくてもいいだろう。
選択肢は多い方がいいし、色々なことを経験するのもいいことだと思う。
「……なんだよ、にやにや顔でこっち見んなよ!」
「あ、ごめんなしゃい。そんなに変な顔、してまちた⁉」
知らねーよ!と言い捨ててカイは魔法を付与した布を抱えて自分の作業机に戻ってしまった。
成長を微笑ましく思う姉のような気持ちになっていたのが、表情に表れてしまっていたらしい。
「カイってば、素直じゃないんですから。リーナ様、変な顔なんてしてませんでしたから、大丈夫ですよ」
あの日一緒に話を聞いていたミリアだが、こうして以前と変わらない態度で接してくれている。
時にはお姉さんのように頼もしく、時には妹のようにかわいらしく、とても信頼できる存在だ。
「まあお年頃ですからね。リーナ様は気にしなくていいと思いますよ?」
ミリアの言う通り、カイくらいの年頃の子はなにかと気難しいものだ。
男の子だし、いくらかわいらしいと思っても、自分より幼いちびっこにそんな風に思われても嬉しくないだろう。
あまりダダ洩れしないように気を付けよう……と思った時、扉がノックされた。