包み隠さず、全部話しましゅ5
短くなったので、今日はもう一話更新します。
前のお話をまだ読んでいない方は、ひとつ戻って下さい(_ _)
(今夜は月が綺麗ですね)
仕事を終え、王城の廊下を歩いていたリクハルドは、ふと窓から見える月を見上げた。
(あのふたりと出会ったのも、こんな月の夜でした)
そして自身の生い立ちを振り返り、目を閉じる。
リクハルドは銀狐の獣人だ。
狐の獣人は珍しくないが、変異種である銀狐はかなり珍しい存在で、その能力の高さも獣人族の中では有名である。
それゆえ、リクハルドは大切に守られ育てられてきた。
……両親が亡くなる、その日までは。
事件性のあるものではない。ただの事故だった。
そう、仕方のないことだったのだが、弱冠五歳だったリクハルドにとって、大好きだった両親の死は、そう簡単に納得のできることではなかった。
しかし天は、リクハルドに両親の死を悼む時間など与えてはくれなかった。
稀少な銀狐の獣人であるリクハルドを狙う輩が現れたのだ。
リクハルドは逃げた。
獣人には珍しい銀髪と目立つ容姿。
こんな姿形でなければと、自身を恨むこともあった。
そうして逃げて逃げて、ある月の夜、運命の出会いを果たしたのだ。
当時王太子だった、エルネスティ。
幼い頃からやんちゃだった黒豹の獣人である彼は、その日の王太子としての勉強を終えた後、幼馴染みのアレクシスとともに城を抜け出していた。
赤鳶の獣人であるアレクシスに、自分を連れて飛んで抜け出せ!と無茶振りをしたのだ。
はじめこそ首を横に振っていたアレクシスだったが、強引なエルネスティに断りきれず、結局獣化して近くの町まで飛んで出かけることになった。
そうして夜まで町を楽しみ、月が出るような時間になってしまったことに、真面目なアレクシスは慌てた。
早く帰らないと皆が心配すると。
その時、エルネスティはなにかの臭いを感じた。
今までに感じたことのない、不思議な感覚に、臭いのする方へとたぐり寄せられていった。
臭いのするその先、町外れの草むらに、〝彼〟はいた。
ボロボロだったけれど、珍しい銀髪と美しい容姿は、隠しようがなかった。
一方でリクハルドはもう全てを諦めていた。
見つかったのは、身なりの良い同年代の少年たち。
食べ物や飲み物くらい持って来てくれるといいな、くらいに思っていた。
黒髪と赤髪の少年たちは、なにやら揉め始めた。
もう意識が朦朧としていて、話している内容もよく聞き取れない。
騒がしいなと思いながら、それまで薄く開いていた目を閉じかけた時。
『絶対戻ってくるから、待ってろ。死ぬなよ!』
偉そうな声が、耳にこだまする。
そうして赤髪の少年は翼を生やし、黒髪の少年を連れてどこかへ飛び立った。
『待ってろ、死ぬな』その力強い言葉が、リクハルドの胸にじんと響いた。
もうどうでもいいと思いかけた自分にかけられた、〝生きろ〟。
両親の死の後、〝絶対〟なんてあるわけがないと思っていたのに、彼らは絶対に戻って来ると、なぜか信じられた。
リクハルドは、最後にもう一度だけ、彼らを信じて、生きてみようと思った。
そう思ったら、つうと頬に涙が流れた。
そして一刻ほど後、翼を持った少年がリクハルドを迎えに来た。
ああ、自分は助かるんだ。そう安心して月を仰ぎ、リクハルドは意識を手放した。
(懐かしいことを思い出してしまいましたね)
ふうと息をつき、リクハルドは再び廊下を歩き始めた。
なぜこんなことを思い出したのか。
その理由に、リクハルドは見当がついていた。
「自身の境遇に似ていると同情してしまうのは、人間も獣人も同じなのでしょうかね」
リクハルドはそうぽつりと零し、初めて王城に連れて来られたあの日から自分の部屋となった、エルネスティの自室の向かいの部屋へと歩いていくのだった。