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包み隠さず、全部話しましゅ3

「――と、こんなところでちょぉか。これで皆しゃんの疑問が解消しゃれるといいのでしゅけど……」

 

しーんと、部屋が静寂に包まれる。


誰もなにも言わない。

 

そりゃそうだよね、転生だの前世だの、ここじゃないまったく別の世界だの。


馬鹿にしないっては言ってくれたけれど、信じられないと思われてしまうのは仕方のないことだ。

 

その長い沈黙を最初に破ったのは、アレクさんだった。


「ずいぶんと、辛い思いをたくさんされてきたのですね」

 

ふわりとした優しい微笑みからは、疑いも嘲りも感じられなかった。


「ずっと、不思議でした。あなたは見た目はもちろん、口調も年相応に幼いのに、時折とても大人びた表情をする。それに、会話の内容も子どもとは思えなかった。聡明だからなのだろうかと思っていましたが、これで納得がいきました」

 

まるで私の心の不安を溶かすような、優しい声。


「ろかそーちも、こことはまったく別の世界の知識だということを聞いて、なるほどなと。あと、我々にあまり恐怖心を感じていない様子なのもそうですし、普通の人間族なら敬遠しそうな生き物にも躊躇いなく触れる姿に驚いていましたが、前世からの動物好きで、そういうご職業だったというなら納得です」


「あれくしゃん……」

 

私の話を信じてくれたのだと分かり、じんわりと胸が温かくなる。

 

獣人国に来てから、アレクさんはいつも優しかった。


もしかしてこんな話をしたら、変な目で見られるんじゃないかって不安もあったけれど、そうじゃないって思えるような優しい表情に、泣きそうになる。


「……おい、そこでふたりの世界を作るのは止めてくれるか? あーなんだ、その、先ほどは笑って悪かったな」


 声が上がった方を向くと、陛下がぽりぽりと頬を掻いていた。


「なるほど、たしかにおまえに前世の記憶があるなら、〝昔〟などという言葉を使ってもおかしくはないな。……というか、もしかしたら前世と今世を合わせたら、俺たちよりも年上かもしれないということか……?」

 

気付いてしまった……!という驚愕の表情をする陛下に、私はぽかんとする。

 

気になるところはそこなの……?

 

そう思ったら、なんだかおかしくなってきた。


駄目だ、笑っちゃいそう。


「おい、笑うなよ。アレク、リク、ひょっとしたら俺たちは、このちっこい聖女殿よりも未熟者かもしれんのだぞ? 今日から、それ相当に敬い奉ったほうがいいのか?」

 

くすくすと笑いが零れてしまった私を見て、陛下もにやりと笑った。


そして陛下は、リクハルドさんにおまえはどう思うと促した。


「……脈拍も呼吸も異常は見られませんし、噓を言っているようにも誤魔化しているようにも思えませんね。まあ、あえていうなら不安はあったようですが。……しかし今は、それもあまりない」

 

え。


今、脈拍と呼吸って言ったよね。


狐は視力と聴力に優れているとはいったが、まさかそこまでわかるなんて……ちょっと怖い。


「怯えなくても大丈夫ですよ。ここぞという時くらいにしか〝視て〟いませんから」

 

どうやら私は頬を引きつらせていたらしい。


私のちっぽけな聖女の魔力なんかよりも、リクハルドさんの方がすごい能力なのではないだろうか。


「話はずれましたが、私も特に疑問点などありません。むしろすべて合点がいってスッキリしました。あなたが正直に話してくださったので私も正直に言いますが、私はずっとあなたを怪しいと思っていました。幼い姿で油断させる、人間国のスパイなのではと思ったこともあります。……ですが、今の話を聞く限り、特別人間国に未練があるわけでもなさそうですね?」


「未練がなにもないというわけではありまちぇんが……。くろばーら国に特別な思い入れがあるかというと、そうでもないといいましゅか……」

 

あの国に残してきた気にかかることは、私だって少ないなりにある。


ビアードやメリィもそうだし、わずかな期間だけれどお世話になったお姉さん聖女たち。


この国に来るまで付き添ってくれた、侍女と護衛の騎士。

 

この世界の両親のことがぱっと思い浮かばなかった私は薄情かもねと、苦笑する。


「たしかに客観的に見れば、私は不遇だったかもちれないでしゅね。でも。仕返しちたいとか、そんな気持ちはありましぇん。だからといって絶対に戻りたい場所かといえば、そうでもないでしゅけど」

 

だから、別に気にしてはいない。


私の両親は前世のふたりだと思っているし、こちらに生まれ変わって五年間、寂しいと思ったこともない。

 

それなりに心の支えはあったし、動物たちと話せることで楽しい時間もたくさんあった。


「なので、スパイだなんてことはありましぇん。いえ、ありえましぇん。もう私は、あの国との関わりを一切絶たれていましゅから」

 

両親が私を心配するようなことはないし、手紙のやり取りなんて神殿に入ってからも一度もない。


向こうの国王陛下から私を気にかけるような書状が届いたという話もないし。まぁ魔力もたいしたことないし、使い捨ての下級聖女がひとりいなくなったくらい、どうということのない話だろうしね。

 

にっこりと笑う。


自嘲的な笑みだったのかもしれない。


私を見る三人の目が、痛ましいものを見るようだったから。


「ですから私、嬉しいんでしゅ。あちこちにいる動物たちと関わるのももちろん楽しいでしゅし、お屋敷のみんなもとても優しい。それに、この前視察に行かせてもらって、こんな私にもやれることがありそうなんだってわかったんでしゅもの。もっとやれることがあるといいなと思いますし、今私、毎日がとっても楽しいんでしゅ!」

 

だからそんな風に眉を下げて、悲しい顔をしないでほしい。


「……おまえの気持ちはわかった」

 

ひとりでべらべらしゃべってしまったかなと思っていると、陛下がはあっと深いため息をついた。


「そんなことを言ってくれるなら、俺たちはおまえをとことん自国の獣人と同じ扱いをするぞ?」


「! はいっ! お願いしましゅ!」

 

陛下の苦い顔とは裏腹な嬉しい言葉に、思わず勢いよく返事をしてしまった。

 

だって今のって、自国の国民として私を扱ってくれる、ってことだよね? 


そんなの、嬉しすぎる!


「それでいいか、リクハルド?」


「ええ、私は構いません」

 

陛下の問いに、リクハルドさんも頷いてくれた。


もう私を見る目に、疑いの眼差しは感じられない。


「エヴァリーナ様、よかったですね」

 

温かい眼差しのアレクさんに、笑顔で応える。


うん、本当に嬉しい。


「皆さん、改めまちて、これからもよろしくお願いしましゅ!」

 

この国の、この優しい人たちの力になりたい。

 

そんな気持ちを込めて、私は深々と頭を下げたのだった。

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