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包み隠さず、全部話しましゅ1

初めての視察を終え、私たちは王都へと帰還した。


それから三日経ち、私は陛下とリクハルドさんに視察の報告をするため、登城することになってしまった。

 

私の話なんかを聞かなくても、すでにアレクさんが報告をしていたのでそれで十分なのではと思ったのだが、どうやら私本人に色々と聞いてみたいとのことらしい。


「そんなに緊張しなくても、大丈夫ですよ。陛下もリクハルドも、今回のことをとても喜んでいましたから」


「そ、そうでしゅか? 私、色々聞かれてもちゃんと答えられましゅかね?」

 

たしかに初めて挨拶した時も視察の前も、陛下は気さくな感じだったが、それでも一国の王様だ。


何度目だろうと身構えてしまうし、緊張しなくていいと言われても無理な話である。


「リーナ様、手足が左右一緒に出ていますよ?」


「え? あ、本当でしゅね。こ、困りまちた、直りましぇん……」

 

ミリアに指摘されて自分の手足を意識して歩こうとしたが、上手くいかない。

 

前回も前々回もなかなかの緊張具合だったが、今回は余裕を持って時間を取ってくれているらしく、茶でも飲みながらと言われたのだ。

 

お茶の席!?とわたしが慌てふためいたのは、言うまでもない。

 

オーガスティン家にいた頃にひと通り習っていたため、お茶の席でのマナーは知識として知っているものの、実際にお茶会に参加した経験がないため、失礼なことをしないかと不安でいっぱいだ。


「報告会などと堅苦しく思わず、陛下の休憩に同席するような気持ちでいいかと。あの方はこちらが無理矢理休ませないと、際限なくお仕事されていますから、付き合って差し上げてください」

 

アレクさんがそう言って苦笑する。

 

王様って忙しいんだろうなとは思っていたけれど、本当に大変なんだな。


そんなことを考えていると、ついに約束の貴賓室の前まで来てしまった。

 

アレクさんが衛兵に軽く礼をし、扉をノックする。


すると中から「入れ」とくぐもった声が聞こえてきた。


「失礼します」


「ああ、わざわざ悪かったな。座ってくれ」


中に入ると、陛下はリクハルドさんとともにソファで寛いでいて、私とアレクさんに座るよう促してくれた。

 

陛下の向かいのソファに、アレクさんとふたり、並んで腰をかける。


そして、ミリアは扉の側で控えてくれている。

 

このふたりが一緒でよかった。


ひとりじゃないだけマシよね!

 

どきどきしつつ、私は簡単にではあるが陛下とリクハルドさんに挨拶をした。


陛下は固くならないでいいと言ってくれ、王城の侍女たちはお茶の用意をしてくれた。

 

お茶。マナー。粗相しないように。


その三つが頭の中をぐるぐると回る。


うう、お茶の味がしない……。

 

そんな私とは裏腹に、陛下はかなりリラックスして様子でカップを手に取り、お茶を飲んでいる。


「別に、マナーがどうとか、幼いあなたに指摘するつもりはありませんから、肩の力を抜いてください。外交の場ならともかく、このメンバーで堅苦しくお茶を飲む趣味はありませんから」

 

なんとリクハルドさんもそう言って私を気遣ってくれた。

 

たしかに三人ともマナーを気にする様子もなく、ただ純粋にお茶とお菓子を楽しんでいる感じだ。


それなら、ちょっとだけ、気を緩めてもいいのかな?

 

少しだけほっとして、お茶をひと口飲む。


先ほどと違って、お茶が美味しく感じる。


少しだけ甘いのは、幼い私に合わせて砂糖を入れてくれたのかもしれない。

 

その様子に陛下はくすりと笑うと、私を見て口を開いた。


「聖女殿、どうだ? 少しはこの国での暮らしに慣れてきたか?」


「えと、はい。アレクしゃんが色々と気遣って下さるので、穏やかに過ごせておりましゅ」

 

ミリアのお世話も完璧だし、食事だって魔物食ばかりにならないよう配慮してくれているのがわかる。

 

あまり外には出られないが、最近は読書以外にも、屋敷に住んでいる使用人の従獣たちともふもふタイムを楽しんでいたりしている。


猫とか犬とか、あと馬のお世話も今度させてもらう約束をしている。


「ははっ、そうらしいな。アレクから、わが国の聖女殿は、ずいぶんと生き物好きらしいと聞いているぞ」


「そうなんでしゅね。ええと、昔から、動物とか生き物が好きだったので……」

 

どうやらアレクさんは、陛下に私のことを色々と話しているらしい。


まぁそれはそうか、保護してくれているのだから、定期的な報告は必要よね。

 

いまいち自分が聖女様だという自覚がないため、そういうことは忘れがちになる。


アレクさんのお屋敷でもかなり自由に過ごさせてもらっているけど、もう少し自覚を持って慎んだ方がいいのかもしれない。

 

改めてそんなことを考えていると、目の前の陛下と隣のアレクさんが、口元を押さえてぷるぷる震えているのに気付いた。

 

ん? 笑ってる? 


なにか私、おかしなことを言ったかしら?

 

軽く首を傾げると、私の斜めにあるソファに座っていたリクハルドさんが、ため息をついた。


「陛下、アレクシス」


「す、すみません……」


「ぶっ! ははははは!」

 

リクハルドさんに名前を呼ばれ、アレクさんはすぐに謝ってくれたのだが、陛下は吹き出すように声を上げて笑った。


「ふ、ふふっ、聖女殿、〝昔〟って、あなたの昔とはいつのことを言っているんだ? あれか? ちょっぴり背伸びをして大人びたことを言ってみたいオトシゴロってやつか?」


「あ」

 

そうだった、つい。

 

なんとなく前世の子どもの頃から動物が好きだったんです的なニュアンスで話していたが、今の私は五歳のちびっこだった。


「へ、陛下、そのようなことは……。こほん。それに、たしかにエヴァリーナ様は、同年代の子どもよりも聡明で思慮深い方です」

 

アレクさん、咳払いをして気持ちを落ち着けた風を装っていますけど、さっきまで笑いを堪えてたの、ちゃんと知ってますからね?


「ま、まぁたしかにな。だが、ふっ、ふふっ、くくくくっ」

 

陛下、もう笑いを堪えるの諦めましたね?

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