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そのお困りごと、解決しまちょぉ!5

カイに促されて、タライの間に布をあてていく。


ちなみにこのタライ同士は元々同じ大きさなのだが、下部のタライの側面を削って、上部のタライが蓋を閉めるように、全てではなく少しだけ被さるようにしてくれている。


これならタライ同士が滑ってズレたりしないし、布も外れにくくなる。


「これでよし、と。では一度水を上から流ちてみまちょぉ」

 

私の合図で、ミリアが川で汲んでおいてくれた水を濾過装置の上から流し入れてくれた。


勢いが良いと零れてしまうので、ゆっくりと。


「……こうして改めて見ると、けっこう砂とか小石が混ざってるんですよね。私も地方にいた時は、できるだけ飲み込まないようにしてたけど、途中でガリっ!とか、あったんですよね~」


「だよな。網の上にも少し残ってるし、布の隙間にも砂がちらほら見えるな」

 

川や雨水を飲んだことがあるのだろう、ミリアとカイが真剣な表情で見つめている。


いや、小石とか砂はザルで濾すだけである程度取れるでしょ。


「獣人はけっこう面倒くさがりが多いですからね。口に入ったら吐き出せばいいと思っている者が、ほとんどです」

 

私の考えを読んだかのように、アレクさんが苦笑いをしてそう説明してくれた。

 

なるほど、獣人国のお国柄ってやつね。


「バイキンとやらが取れたかはわからねぇけどな。見えないくらい小さいんだから、そりゃそうだけどさ」


「あ、そう、でしゅね……」

 

カイに言われてはたと気付いた。


目に見えて綺麗になったとか、即効性があるとか、そんな感じじゃないと、人は新しいものを続けようと思いにくいものだ。

 

……いや、厳密にいえば人じゃなくて獣人だけど。


でも、面倒くさがりが多いって言ってたし、この作業すらも面倒がってやってもらえない可能性が……!


「ど、どうちまちょう。そこまで考えていまちぇんでした!」


「大丈夫です、エヴァリーナ様」

 

おろおろする私に、アレクさんが優しく微笑んでくれた。


「そこはほら、あなたの発案だからしばらくの間続けてみようと伝えれば、八割がたの村人はやってくれると思いますよ。先ほどぐるりと村を回って歩いた際に、ずいぶん村人たちの心を掴んだみたいですから」

 

え?と首を傾げる。


アレクさんはいったいなにを言っているのだろう。


「たしかに。最初こそ恐れ多いって感じの人もいましたけど、エヴァリーナ様が獣人どころか村の動物たちを躊躇いなく撫でている姿を見て、態度が軟化してましたし。トカゲに話しかけている時は、私でもびっくりしましたもの!」


「だ、だって、みんなとっても人なちゅっこくて、かわいかったんでしゅ!」

 

そう、私は村を見て回っている時に、色々な生き物ともちゃっかり触れ合いタイムをとっていた。

 

だってみんなとってもかわいくて、おしゃべりで、楽しかったんだもの! 


思わずあの子もこの子もと、なでなでしてしまった。

 

そして獣人の子どもたちも、まるで友だちのように接してくれるようになって、そこでひとりの子が、今お母さんがお腹が痛くて寝てるんだと話してくれたのだ。


「ま、そうだな。あの母親が腹痛で寝込んでるって子どもなんかは、率先してやってくれるかもな」


「それに、元々各家にはある程度水を貯めておく水瓶や桶があるものです。それに入れるのも、この〝ろかそーち〟に入れるのも、さほど変わりはないでしょうから、この〝ろかそーち〟を配ればやってくれると思いますよ」

 

カイとアレクさんの言葉に、少しずつ気持ちが浮上する。


「で、では、私は布に魔力を付与しまくりましゅから、カイはたくさん装置を作ってくだしゃい!」


「じゃあ私は村を回って、家で使っている水瓶や桶をここに持って来るように伝えてきますね!」


「では私はここに来た村人たちに、水と腹痛に関係があり、エヴァリーナ様が綺麗な水を作るための〝ろかそーち〟を作ってくれるという話をしましょう」

 

ミリアとアレクさんがそう申し出てくれた。

 

……なんか、みんなで力を合わせてるって感じがして、嬉しい。


「ありがとうございましゅ。皆さん、よろしくお願いしましゅ!」

 

みんなの気持ちが嬉しくて、私は満面の笑みでそれに応えたのだった。





「ふあああぁ。さすがに、疲れまちたね……」


「お疲れ様でした、リーナ様」

 

その日の夜、村中の濾過装置を作って配り終えた私は、食事とお風呂もそこそこに、宿泊する部屋のベッドに倒れ込んだ。


出先なので、ミリアも同室で色々とお世話してくれている。


「でも、村人たちみんな嬉しそうでしたね。王城から来た偉い人たちが私たちのために……!って涙目のご老人もいらっしゃいましたよ」


「ああ、私もびっくりしちゃいまちた。慌ててハンカチを渡ちたら、もっと泣いちゃって」

 

厳密にいえば、この中で本当に偉いのはアレクさんだけなんだけどなと思いながら、求められるがままに握手したりもした。


「あのお母さんが腹痛だっていう子も、お父さんと来てくれていましたね。早く治るといいですね」


「ほんと……、みんな、喜んでくれ、て、嬉し……」

 

まずい、もうそろそろ限界。


瞼が重くて、もう、目を開けていられな、い……。


「おやすみなさいませ、リーナ様」

 

ミリアがくすっと笑みを零した気配がした。


そして私に毛布をかけてくれた。


「あり、がと、みりあ……」


「―――――――よ? リーナ様」

 

ミリアがなにを言ったのか聞き取れないまま、眠気が限界を超えた私の意識は、そのまま深いところに沈んでいったのだった。





 

そして翌日。


身支度を終えた私が、ミリアとともに部屋を出ると、そこにはもうすでにアレクさんとカイが立っていた。


「あ、おはようございます。すみましぇん、お待たせちまちた」

 

もしかして寝坊しちゃった!?と焦った私だったが、なぜかふたりは困ったような苦笑いを浮かべていた。

 

もしかして昨日の水のことでなにか……!?

 

苦情が来たりしたのかしらと思い口を開こうとすると、実は……とアレクさんが先に話し始めた。


「ええと、実は、村人たちがエヴァリーナ様にお会いしたいと朝から何人も訪ねて来ておりまして……」

 

やっぱり苦情!?


「あ、謝らないといけないなら、私ひとりで行きましゅから、皆さんはここで待って……」


「なんで謝るんだよ。意味わかんねぇ」

 

涙目になった私のところに、カイが近付いてきた。


「逆だよ逆! みんな、お礼が言いたいんだってよ! ほら、あの母親が腹痛の子どもも来てたぞ」

 

呆れた様子のカイの言葉に、私はどういう意味なのかと首を傾げた。


「おまえ、本当に鈍感だな……。わかった、丁寧に説明してやる。あの〝ろかそーち〟とやらで作った水、あれがめちゃくちゃ好評で、美味い上にあの母親の腹痛も治ったみたいだぞ」


え?


「そのまま飲むだけでも美味しい上に、料理に使ってみたら、その料理も普段と比べようがないくらいに美味しくなったそうですよ。ああ、腹痛だった母親も、子どもと父親とともにぜひ直接お礼が言いたいとおっしゃっていました」

 

ぽかんと口を開け、間抜けな顔をしていたであろう私を見て、アレクさんがカイに続いてそう説明してくれた。


「え、えと、私はどうちたらいいんでちょう……?」

 

予想外すぎてなにも考えられない私に、三人はぷっと吹き出した。


「素直にお礼の言葉を受け取ればいいんですよ! なにも難しいことじゃありません。ね? 昨晩言ったでしょう? きっと今日は忙しくなりますよ?って!」

 

そう言って破顔するミリアに、私は戸惑いながらもこくんと頷いたのだった。

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