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そのお困りごと、解決しまちょぉ!4

「ふぁぁぁ! かいってば、すごく器用だったんでしゅね」


「ええ、実は屋敷の細々とした修復も、実はカイが率先してやってくれているのですよ」


「スキル持ちは違いますねぇ」

 

〝濾過装置・異世界バージョン〟の実現のために、私は意外にも工作が得意だというカイにお願いして、試作品を作ってもらうことにした。

 

作業をするカイのうしろから覗き込んでいた私とアレクさん、ミリアの会話に、カイは顔を真っ赤にしてぷるぷる震えた。


「うるせぇな! 黙って見てられねぇのかよ!」

 

怒られてしまった。


しかしそれが照れているだけだということはわかっている。

 

だって、耳がぴこぴこ動いてしっぽも落ち着かなさそうにそわそわしている。


かわいいなぁ。

 

うるさいと言われたので生温かい目で静かに見守っていると、今度は「顔がうるせぇんだよ! もうどっか行ってろ!」と言われてしまった。


「仕方がありまちぇんね。では、私たちはあちらで別のものを作りまちょぉ」

 

すごすごとカイから離れて部屋の隅へと移動する。

 

それにしても、顔がうるさいって面白いこと言うなぁ。


「ぷぷ、面白かったのに残念です。でも、本当にカイってば器用でしたね」


「彼は〝工作(クラフト)〟のスキル持ちですからね。本人はあまり人に教えていないようですが」

 

アレクさんが言うように、カイは〝工作〟というものづくり系のスキルを持っているらしい。

 

スキルとは、獣人だけが持つ能力で、その種類は多岐にわたる。


剣技、槍術などといった戦闘系の能力もあれば、カイのようなものづくり系のものもあるし、チャーム・覇気など精神に影響を及ぼすようなものまであるらしい。

 

アレクさんは剣技や飛行のスキルを持っているんだって。


そんなことを教えてくれながら、スキルについて説明してくれた。


「気に入ってないんでしゅか? すごく素敵なすきるだと思うんでしゅけど……」

 

そう尋ねると、アレクさんは苦笑いを零した。


「本人は、戦闘系のスキルがほしかったみたいです。ほら、屋敷でもよく剣の練習をしているでしょう?」

 

そういえば騎士を目指してるって言ってたもんね。


そっか、カイは強くなりたいんだ。


前から思っていたけれど、それって……。


「きっと、あれくしゃんに憧れて、でしゅよね?」

 

にっこりと笑うと、アレクさんが眉を下げてそうでしょうかと言った。

 

アレクさんは謙遜しているんだろうけど、きっとそうだろうな。


幼い頃にアレクさんに助けられたって話だし、憧れのヒーローなんだろう。


「ふふ、素敵でしゅね」


「本当に。今度、練習中に差し入れでも持って行ってあげましょう」

 

ミリアとふたりでこそこそと話していると、「おい、なにか言ったか⁉」とカイが声を上げた。

 

なんでもないと答えると、カイは変な顔をしていたが、すぐに作業を再開させていた。


「さて、かいだけにがんばってもらうわけにはいきまちぇんからね! ここからは私もがんばりましゅよ!」

 

むん!と腕まくりをして気合を入れる。


聖女の力を使うのは、久しぶりだ。

 

濾過には様々な方法があるが、日本人なら一度は理科の実験で使ったことがあるだろう〝濾紙〟が一番簡単だと思ったので、この方法を参考に、私は〝濾布〟を作ることにした。


「はい、リーナ様。言われた通りの布を用意しました」


「ありがとうございましゅ、みりあ」

 

ミリアにお願いしておいたのは、できるだけ目の細かい布。


これに聖女の力を付与して、殺菌の効果もつける。


そしてその布に水を通せば、殺菌された清浄な水ができるというわけだ。

 

なぜ布なのかというと、紙よりも布の方が手に入りやすいから。


上質な紙は、獣人国では高価なのだ。

 

それに、紙は使い捨てになってしまうが、布なら何回も使える。


布自体に殺菌効果がついているため、カビたりもしない。


まぁ、詰まったゴミなんかは洗って取らなきゃいけないし、個人的には何度か使ったら新しいものに変えた方がいいとは思うけど。

 

それと、細かい網目のものでないと小さな砂などが通ってしまう可能性があるため、布ならなんでもいいわけではないのは注意点だ。

 

普通の濾過は液体の中の不純物を取り除くだけで、飲むためにはその後煮沸の必要があるが、その手間も省いちゃいましょうということで、〝濾過・異世界バージョン〟となる。


「では、いきましゅ」

 

久々なのでちょっと緊張するが、目を閉じて掌に魔力を集中させる。


そうして魔力が集まったのを感じたら、そっと布に触れ、魔力を流していく。

 

物体に魔法を付与するのは、そう難しいことではない。


下級聖女の中でも見習い中の見習いだった私でも、ポーションや魔石は作ることができていた。


「……はい、できまちた」

 

銀色の魔力を帯びた布は、見た目は先ほどと特に変わらない。


でも、効果はちゃんとついているはず。


「で、あとはかいの作った容器に取り付けるだけなんでしゅけど……」


「おう、今できたぞ」

 

ちらりとカイが作業する机の方を見ると、ちょうど出来上がったところらしく、カイが立ち上がってスキルで作ったものを持ち上げた。


「わぁ! かい、すごいでしゅ!」


「ホント、けっこうちゃんと作られてるわね」

 

カイの持っているものを見て、ミリアと共に感心する。


「そ、そんなたいしたモンじゃねえよ。その辺にあるものを組み合わせただけだし」

 

そうカイは謙遜するが、いやいや、なかなかの出来だと思う。


 私がカイにお願いして作ってもらったものは、もちろん濾過装置となるものだ。


〝濾過装置〟と言うと、仰々しいものを想像してしまうかもしれないが、なんならペットボトルでも作れるものだからね。

 

もちろんこの世界にペットボトルなんてものはないので、水を溜めておけるような容器で作ってもらった。

 

カイはとても賢くて、私が絵に描きながらこういう仕組みのものを作りたいのだと説明すると、それなら材料はあれとこれが使えそうだなと、すぐに材料を確保し、作成に取り掛かってくれた。

 

使ったものは、木製の大きなタライのようなものをふたつと、ザルのような鉄製の網、これだけだ。

 

ひとつのタライは底を抜き、もうひとつのタライとの間に私が魔法を付与した布を敷き、タライとタライをくっつけるような感じをイメージしていたのだが、カイはそこにひとつ手を加えていた。


「水の中には、石や砂なんかも混じってるからな。布の前に、この網目の細かい網でそれを取り除いた方が、布が汚れにくくなるだろ? 何回も使うなら、できるだけゴミはその前に取り除きたいからな」

 

なんと、私の拙い説明を聞いて、カイはすぐに濾過装置を理解し、繰り返し使うためのちょっとした気遣いを形にしてくれたのだ。


タライの間に挟む布の少し上部に、鉄製の網が張られていた。


「かい、すごすぎましゅ……! 感動でしゅ!」


「なるほど、考えましたね」


「そ、そうですか? ありがとうございます……」

 

私はともかく、アレクさんに褒めてもらえたのは嬉しかったようで、カイは照れながらアレクさんにお礼を言った。


もちろんしっぽはぴこぴこと揺れている。

 

そんな姿をミリアとふたりで微笑ましく思いながら見ていると、それに気付いたカイが顔を赤らめて咳払いをした。


「と、とにかくここにその布を挟めばいいんだろ⁉ ほら、やってみろよ」


「あ、はいっ!」

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