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そのお困りごと、解決しまちょぉ!2

馬車に揺られて二時間ほど、ついに視察予定の村に到着した。


「わ、やっぱり少し肌寒いですね」

 

今回もまた、アレクさんに抱き下ろしてもらって外に出る。


うう、久しぶりだけどやっぱり恥ずかしい。

 

ミリアはあらー!という顔をしているし、カイに至ってはなにしてもらってんだおまえ!?って驚愕の表情だ。


私だって好きでこうしてもらっているわけではない。

 

恥ずかしさを押し殺して、集まってくれた村人たちの方を向く。


今の抱っこショーを見ていた女の人たちに、羨望の眼差しで見られている気がする。


「ようこそおいでくださいました、聖女様」

 

村長っぽいおじさんが挨拶してくれて、他の村人もそれに習って頭を下げた。


こういう聖女扱いには慣れていないので、どう反応していいのか戸惑ってしまう。


「こちらの方が、聖女エヴァリーナ様だ。今回は獣人国の暮らしを知ってもらおうと視察に来ただけなので、皆には肩に力を入れず、普段通りに過ごしてもらいたい」

 

アレクさんは村人たちにそう告げると、私に目配せをした。


挨拶をどうぞということだろう。


「はじめまして、エヴァリーナと申しましゅ。まだこちらに来て間もないので、色々と教えてくだしゃい。できるだけお邪魔にならないようにしましゅので、よろしくお願いいたしましゅ」

 

実は先日アレクさんから、最初に会った時に貴族風の挨拶をされて驚いたと聞いていたので、今回はちょっと簡素に、ぺこりと頭を下げるだけにしておいた。

 

さてどんなお話が聞けるかなと期待して顔を上げると、村人たちは揃って目を見開いて固まっていた。


あれ、なんかこれ、デジャヴなんですけど。


「あ、頭を下げるなんてとんでもないことです! それに、我々のような者に直接お声がけくださるなんて……!」


「そうです! お邪魔だなんて、そんなこと」

 

村人たちは我に返ると、慌てふためいてしまった。

 

こ、こんな普通の挨拶も駄目だったの……!?

 

つられるように私まで驚いていると、それを見かねたカイが、私にそっと耳打ちしてきた。


「王城の人間はともかく、ここにいるのは全員ザ・平民だ。聖女サマってのも、〝人間国の強い魔力を持った偉い人〟って認識でいる。まだ小せぇとはいえ、我儘なお嬢様が来るだろうって思われてたのかもな。たぶん獣人の、それも平民の自分たちとは、直接話をするのも嫌がるだろうって思ったんじゃないか?」

 

そういうこと!? 


聖女、どれだけ性格が悪いと思われているんだ!

 

予想以上の印象の悪さに、くらりと目眩がする。

 

いやいや、気を取り直して、そんなに魔力は強くないけどまぁ嫌な奴ではないなと思ってもらえるようにしないと。


「あの! 私、できれば皆しゃんと仲良くなりたいなと思ってましゅ。だから、よろしくお願いしましゅ!」

 

もう一度、勢いよく頭を下げる。

 

ここで敬遠されるようになれば、話を聞くことすらできなくなってしまう。


それはまずい。


仕事ができないもの!


「あ、頭を上げてください! その、聖女様のお気持ちはわかりましたから」

 

まだ遠慮している感じはするが、私の必死さが伝わったのか、村人たちはそう返事をしてくれた。

 

よし、あとは……。


「それではまず、その〝聖女様〟っていぅの、止めていただけましゅか?」

 

すっごく他人行儀だし、聖女様なんてガラでもなければ、たいした実力もないもの。


「名前は長くて言いにくぃと思うので、りーなと呼んでいただけると嬉しぃでしゅ!」

 

私の提案に、村人たちは戸惑った。


いいのか……?という呟きも聞こえる。

 

さすがにちょっと行き過ぎだったかしらと思ったところで、アレクさんが一歩前に出た。


「リーナ様がこうおっしゃっているので、どうかそのように」

 

柔らかな笑みを浮かべたアレクさんがそう言うと、女性たちがぽっと顔を赤らめた。


「ど、どうする? 呼んじゃう?」


「隊長さんもそう言ってるし、いいのかな?」

 

おお、これはいい流れだ。


自らがそう呼んでみるとは、アレクさん上手い! 


そう心の中で拍手を贈る。

 

すると今度は、ミリアが私のうしろから声を上げた。


「警戒するお気持ちもわかりますが、リーナ様のお言葉に偽りはありません。実際、侍女の私もそう呼ばせていただいておりますし」

 

今度は男性たちが頷く。


「侍女のお嬢さんも自然に呼んでたし……いいのかもな」


「そ、そうみたいだな」


ミリア、グットタイミングだわ!

 

さすがだわ~とこれまた心の中で賛辞を贈っていると、今度は思わぬところからも声が上がった。


「俺もけっこう砕けた話し方してるけど、この聖女サマ、怒ったりしないぜ。ぽやぽやしてるし、まだ子どもだからな。聖女の権限でどうこうっていう考えすらないと思うぞ」

 

……カイ、それは褒めているのかしら?

 

ちょっとだけ引っかかるところはあったものの、カイのこの言葉にはお年寄りや子どもたちも心を動かされたようで、村人たちの表情から緊張が薄まっていくのがわかった。


「で、では……「りーなさま!」

 

村長さんが口を開いた時、ひとりの子どもが元気な声で私をそう呼んだ。


「リーナさま? かわいい! お人形さんみたい!」


「私の名前に似てない? あの、私、リリナっていうんです!」


「リーナさま、よろしくー!」

 

無邪気な子ども達が次々と私の名前を呼んでくれる。


みんな耳やしっぽをぴこぴこさせて。

 

か、かわいい。


私なんかとは違う、純粋なちびっこ(しかも耳としっぽ付き)の素直な言葉。


「はい、こちらこそ、よろしくお願いしましゅ。りりなしゃんってお名前なんでしゅか? 本当におそろいみたいでしゅね!」

 

子ども達の温かい声に、自然と頬が綻ぶ。


よかった、少しは受け入れてもらえた、かも。

 

そんな子ども達と私のやり取りを見ていた大人たちも、くすっと笑った。


「それではリーナ様、むさくるしいところではありますが、どうぞよろしくお願いします」


「ありがとうございましゅ! お仕事、がんばりましゅ!」

 

アレクさんやミリア、カイにありがとうと笑顔を向けて、私はいよいよ視察をスタートさせたのだった。

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