王様のお妃様⁉ それは無理でしゅね5
「……陛下。エヴァリーナ様に失礼ですよ」
ため息をついてアレクさんが陛下を窘める。
すると陛下がなんとか笑いを収めようとしながら悪い悪いと謝った。
「いや、失礼した。アレクに事前に聞いてはいたが、本当にちび……いや、かわいらしい聖女殿が来てくれたものだと」
今、ちびって言ったよね。
言い直しはしたけど、しっかりこの耳で聞いたわよ。
はははと豪快に笑う陛下は、たしかにミリアの言う通り、見た目はちょっと怖そうだけど大らかな雰囲気だ。
……ちょっと失礼なところはありそうだけれど。
「エヴァリーナ様、陛下がすみません。正直、我々が思っていたよりもお若い聖女様でしたので、少し驚いてしまって……。ですが、陛下も他の臣下たちも、あなたを歓迎する気持ちに嘘はありませんので、ご安心ください」
だよね、それは仕方ないと思います。
放心状態の私を、アレクさんが気遣ってくれた。
本当に彼は、こんなちびっこにも紳士的ないい人だ。
「そして向かって陛下の右側におりますのが、宰相のリクハルド・クレバーです」
「……クレバーです。よろしくお願いいたします、聖女様」
リクハルドさんは、綺麗な所作で礼をしてくれた。
……が、どことなく視線が冷たい?
「そう眉間に皺を寄せるな、リク。たしかに目論見が外れてしまったのは痛かったかもしれんが、この幼さでは仕方あるまい」
目論見?
宰相って言ってたし、聖女を連れてきてなにか考えていたってこと?
突然の国の陰謀的な話題に、顔が引きつる。
目論見が外れたって、私、どうにかされちゃうの?
なにかしらさせられるのだろうとは思っていたけれど、アレクさんたちがあまりに優しくて、油断していた。
「陛下、リク、そのあたりで。エヴァリーナ様が怯えています」
涙目になる私を見て焦ったアレクさんが、庇うように私の前に出てくれた。
その様子を見て、リクハルドさんがため息をつく。
「ああ、申し訳ありませんでした。まあそう固くならなくてもよろしいですよ。元々聖女様に、あれもこれもと期待していたわけではありませんから」
「ふ、ふえ?」
ぷるぷると震える私に、リクハルドさんが困ったような顔をした。
「私が怖いですか? この顔は元々なので、あまり気にしないでください。そこのアレクシスのように優しくもなければ紳士的でもありませんが、別にあなたをどうこうしようとは思っておりません」
「そうそう、リクの不愛想はいつものことだから気にするな。まぁ聖女殿が来てくれただけでもありがたいと思っているから、安心しろ。和平協定もそろそろ考えないとなと思っていたところに、人間族からこの提案があったものでな。ダメ元で聖女を望んだところ受け入れられたため、俺たちもまさかと驚いたのだ」
陛下が続いてそう説明してくれた。
つまり、獣人国がものすごく困っていて、それを聖女の力でなんとかしてほしいと乞われたわけではないってこと?
「エヴァリーナ様には大変迷惑な話だったとは思うのですが……。ですが、お力を貸していただきたいという気持ちも、もちろんあるのです。ただ、そこまで無理をする必要はないということです」
アレクさんも私の不安を解消しようと話してくれる。
でも、目論見ってことは、なにかを期待していたってことよね?
でも私があまりに幼いから無理だと。
〝力が弱いから〟じゃなくて、〝幼いから〟。
それってつまり……
「ひょっとして、聖女と誰かを結婚させようとちてた、とか、だったり……」
ぽつりと呟くと、私の前に立っていたアレクさんがぐるりと振り返った。
陛下とリクハルドさんは、驚いたように目を見開いている。
「ほう、年よりも賢く見えるという話は本当のようだな」
「へぇ、では誰と結婚させようとしたかはわかりますか?」
感心する陛下と試すようにそう尋ねてくるリクハルドさん。
誰と結婚って、そりゃぁ……。
「えと、国王陛下と、でしゅか? たしか、まだ独身でちたよね? そうでなければ、側近の方とか、陛下に近しい方と、かなって……」
聖女は私。
そしてこの三人は陛下とその側近の方。
……どう考えても
「無理でしゅね」
「ああ、無理だな」
「ええ、無理なんですよ」
「難しいと思います」
四人の意見が一致し、みんなでうんうんと頷くのを、私は微妙な気持ちで眺めていたのだった。