王様のお妃様⁉ それは無理でしゅね3
「ふあぁぁぁ! すごい! お城、大きいでしゅ!」
馬車を乗り換えてから二日と少し、ついに王都に到着した。
城下町に入ってからすぐに馬車の窓から見えてきた王城に、私は大興奮している。
「エヴァリーナ様、もうじき到着しますので、ご用意をお願いします」
アレクさんが窓の向こう側からそう教えてくれたのに、こくりと頷く。
わかってはいたけれど、こんな大きなお城に住んでいる王様に挨拶をするなんて緊張する……!
今になって胸がどきどきしてきた。
粗相したり、失礼なことを言ったりしないだろうか。
ただ挨拶するだけならまだしも、おそらく多少は会話をすることになるだろう。
大丈夫かな、ちゃんと受け答えできるかしら。
そうしているうちに、どうやら到着してしまったらしい。
馬車が止まった。
扉が開くと、アレクさんが手を差し出してくれた。
「お疲れ様でした。どうぞ、お手を」
「しゅみません。その、お願いします」
手を伸ばしてアレクさんに身を任せる。
そして、この二日間いつもそうだったように、私を抱き上げて降ろしてくれた。
すると、ざわりとどよめきが起きた。
この反応、二度目だ。
たぶん、聖女がこんなちびっこなのに驚いたのたと思う。
最初にアレクさんたちに会った時はどうしたんだろうと思ったけれど、よく考えたら、普通聖女が来るって聞けば、だいたいは若い女性を想像しちゃうよね。
それも超美人とか超美少女とか、清楚で優しくて超有能ないかにも聖女!って感じの人を。
それなのに実際やって来たのは、若いといえば若いけれど、こんなにちまい、本当に聖女……?って感じの私。
それなりに整った顔立ちはしていると思うが、超有能では絶対にない。
がっかりさせてしまったのは申し訳ないが、ここは期待が大きすぎたのだなと諦めていただこう。
できるだけお邪魔にならないようできるだけのことはするが、人には限界というものがある。
とりあえずここでも愛想だけはよくしておこうと、にっこりと微笑む。
敵意がないことだけはしっかりと伝えておきたい。
「お疲れのところ大変申し訳ありませんが、この後少し休憩をして、国王陛下に謁見……ええと、お会いしていただきたいと思います」
アレクさんが幼い私でもわかるようにと言い直して、そう教えてくれた。
よかった、まだ少し猶予があるらしい。
「わかりまちた。あれくしゃん、騎士の皆しゃんも、ここまでどうもありがとうございました」
アレクさんたちに向かって頭を下げると、再びざわめきが起きた。
こ、これも二度目なんですけど!?
なに、獣人国ではこういう時に頭を下げるのはおかしいことなの!?
いやでも、アレクさんはそんなことひと言も言っていなかったし……。
やらかしてしまったかしらと戸惑っていると、アレクさんが大丈夫ですよと微笑んでくれた。
「私たちの時もそうでしたが、あなたの礼儀正しさに皆驚いているだけです。さあ、お疲れでしょうから、まずは貴賓室でお茶をどうぞ。ミリア、頼むぞ」
「はいです!」
え!? か、かわいい‼
アレクさんが声をかけると、十五歳くらいだろうか、ひとりの少女が前に出てきた。
侍女服を着たその少女の頭には猫耳、そして背面からは長いしっぽがぱたぱたと揺れていた。
「聖女様、お会いできて恐悦至極にございます。わたくし、ミリアと申します。本日より、聖女様の身の回りのお世話をさせていただきます」
ミリアはまだ若いのに、丁寧な言葉遣いと綺麗な所作で挨拶をしてくれた。
この子が私の専属侍女ってことよね?
「みりあ、これからよろしくお願いしましゅ」
ミリアが呼びやすい名前でよかった。
アレクさんの時のような醜態を晒さなくて済んだ。
かわいらしいミリアの容姿も相まって、ほっとしてふにゃっと頬が緩んでしまった。
まずいまずい、へらへらしないように気を付けないと。
きりっと気を引き締めていると、なぜか目の前のミリアの顔もほにゃっと綻んでいた。
んん?
「ミリア」
「はっ! すすすみませんアレクシス様! あまりに聖女様がかわいらし……いえ! はい、貴賓室にご案内させていただきますっ!」
呆れたようなアレクさんの声に、ミリアがあわあわと慌てる。
そしてどうぞどうぞと私を案内してくれた。
そっか、ここでアレクさんたちとはお別れ、なのかも。
そのことに気付いて、歩きながらぱっとうしろを振り向くと、アレクさんと目が合った。
「また、後ほどお会いしましょう」
「あ、はい!」
後からまた会えるんだ。そのことにほっとしながら、私はミリアの後をついて行った。