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王様のお妃様⁉ それは無理でしゅね2

ぽすりと座席に座り、クッションに寄りかかる。

 

はぁ、お腹ぱんぱんだ。


ちょっと食べすぎたかもしれない。


でも魔物料理が意外と美味しいことはわかったし、これで食事の不安はほぼほぼ解消されたといえる。

 

ふうっとひと息つくと、出発しますねと声をかけられ、馬車が緩やかに動き出した。


それにしても、この一日で獣人ってそんなに怖くないかも?と思えるようになってきた。


最初に話したのがアレクさんだったからかな。


他の騎士のみんなもけっこう気さくだし、それに。


「……みんなの耳とかしっぽ、ふわふわもふもふしてて、ちゅぃ触りたくなっちゃうんでしゅよね」

 

急に触ったりするのはさすがに失礼だろうと思い我慢しているが、いつか触らせてもらいたいとひそかに思っている。

 

あれ? 


そういえば、ほとんどの騎士には耳やしっぽがついているのに、アレクさんには耳もしっぽもないよね。


「あれくしゃんは、いったいなんの獣人しゃんなんでちょぉ……?」

 

赤い髪に金色の瞳、一見するとクールな顔立ちだが、ああして話すととても紳士的で優しい。

 

耳やしっぽがない動物……ヘビ? いやいや爬虫類とか両生類っぽくはないし、鳥とか魚とかかな?


「今度聞いてみまちょぉ」


 獣人はその生き物の血が濃いため、獣化という、より獣の姿に近付けてもっと能力を高めることができると本で読んだことがある。

 

完全に獣の姿になるわけではないらしいが、きっと獣化してもかっこいいんだろうなぁ……。


「見て、みたいでしゅ、ね……。うう、お腹いっぱいだし、揺れのせいもあって眠くなってきちゃいました……」


 アレクさんたちに申し訳ないなと思いつつ、幼い体ということもあり睡魔には勝てず、私はそのままぐっすり眠ってしまったのだった。





* * *


「エヴァリーナ様、眠ってしまわれたみたいですね」


「ああ、できるだけ揺れないように気を付けるよう、御者に伝えてくれ」

 

騎乗して並走していたアレクシスは、馬車の窓からすやすやと眠るエヴァリーナの姿を確認し、くすりと微笑んだ。


「そういえば、陛下からのお返事はどうでしたか?」

 

同じように並走する騎士のひとりにそう聞かれ、アレクシスはため息をついた。

 

エヴァリーナと合流してすぐ、アレクシスは幼い頃に契約を結んだ従獣である鳶を使って、王都にいる国王に報告書を飛ばしていた。

 

従獣と主人は意思の疎通がとれ、会話もできる。


その鳶に託した報告書、その内容はもちろん、エヴァリーナについてだ。


「かなり驚いておられた。それはそうだろう、まさかあんなに幼い少女がいらっしゃるとは……。クロヴァーラ国は、いったいなにを考えているのか」

 

平和協定を結ぶ代わりにと聖女を望んだ自分達が言えたことではないかもしれないが、どう考えてもエヴァリーナにすべてを押し付けたようにしか思えない。


そう思うと、アレクシスの眉間には自然と皺が寄ってしまう。


「ですが、案外よかったかもしれませんよ。俺、気位の高い人や悲愴感たっぷりで泣いて暮らすことになりそうな人でも仕方ないなと思っていたんですが、いい意味で拍子抜けました。隊長も、同じように思っていたでしょう?」

 

そうだなとアレクシスは苦笑した。


たしかにクロヴァーラ国で活躍する聖女のことを多少知っていたアレクシスは、そういった聖女が来るであろうことを想像していた。


戦場で力を振るう上級聖女や中級聖女たちは、それぞれにプライドが高く、獣人国に来ることをよく思わないだろうということも分かっていた。

 

しかしアレクシスたちは知らなかったのだ、聖女の中には、下働きのように忙しく働かされている下級聖女という存在があることを。


「俺たちみたいなのにもお礼や挨拶をちゃんとしてくれますしね。国境で初めて会った時も、綺麗な礼をして、自分から名乗ってたし。向こうの馬車の馬にまでお礼言ってましたよね。あの馬も、嬉しそうでした」


 馬の獣人である騎士は、まるで自分のことのように嬉しそうにそう話した。


あんな風に動物と親し気に接している聖女なら、自分たちの国のことも受け入れてくれるのではと期待したのだ。


「魔物を食べてみたいって言い出した時は、本気で驚いたよな」


「ああ、しかもめっちゃ美味そうに食べてくれたし」


「それに、舌っ足らずでまだ小さいのに口調や言葉が丁寧なのがカワイイ。まぁ顔もすんげぇカワイイけど」

 

だよなー!と盛り上がる騎士たちに、アレクシスは苦笑した。


「たしかにかわいらしいお方だが、ちゃんとわきまえろよ。……ああして気さくに接して下さるのは、エヴァリーナ様がまだ幼く、国同士の思惑などよくわかっていないからだ。今は我々のことを警戒しておられないが、今後どうなるかはわからない。……親兄弟から離れていらしたのだろうから、せめてこの道中だけでも、不便のないよう我々が気遣って差し上げなければ」


(その後のことは、陛下のお考え次第だからどうなるかわからないが……)

 

王都まで、あと一日程度で到着するだろう。


その後のエヴァリーナの処遇について懸念しつつも、アレクシスは国の安寧を想って、まだ遠い王都の方を見つめるのであった――。


* * *

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