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王様のお妃様⁉ それは無理でしゅね1

「ふあぁぁ、すっごく、美味しいでしゅ」


「でしょう!? 人間やエルフは魔物なんて……って嫌な顔をしますけど、食ってからモノ言えってんですよ」


「リーナ様、こっちも焼き上がったぜ! 熱々が美味いですから、冷めないうちにどーぞ!」

 

獣人国へと引き渡されてから、丸一日。


王都へと向かう旅路は、思っていたよりもとても快適だった。

 

まず馬車だが、獣人は人間に比べて大柄な人が多いため、馬車も大きくて広い。


現代日本ほど道の舗装はされていないが、そこは下級とはいえ聖女だ。


癒やしの魔法のおかげでお尻の痛さとも車酔いとも無縁で、広々とした車内でのびのび乗っていられる。


同乗すると私が怖がるのではとアレクさんが気遣ってくれたため、車内ではひとり。


行儀が悪いかもしれないが、のんびりだらっと足をのばすこともできる。

 

クッションなども用意してくれていたため、お昼寝だってできる。


幼いこの姿は疲れやすいので、気兼ねなく眠れるのはありがたい。

 

ちょくちょく休憩を挟んでくれるので、外の空気を吸って気分転換もできるし、その時間に獣人たちと話をする機会も持てた。

 

そして食事。


これが一番危惧していたことだったのだが、野菜や果物などはともかく、獣人たちは動物を食べない。


なぜってそれは、自分たちが動物の血を引いているから。


共食いをするようなものだ、そりゃ嫌よね。

 

では、なにでたんぱく質を摂っているのかと言えば、魔物だ。

 

そして今、私の目の前には魔物料理が並んでいる。


「サンダーバードの丸焼きか。エヴァリーナ様、少しピリッと刺激があるので気を付けてください」


「あ、しゅみません、ありがとうございましゅ」

 

アレクさんが、食べやすいようにと小さく切ったお肉を皿に乗せてくれた。

 

獣人国に入って初めての食事は、パンと果物だった。


魔物など人間は食べないだろうと考慮してくれたのだろう、私の分だけ別で用意してくれたのだが、正直、物足りなかった。

 

そこでアレクさんたちの方を見ると、美味しそうに魔物を食べているではないか。


獣人は魔物を食べるということは知っていたが、本当だったのだなと思った。


そして、いいなぁと思ってしまった。

 

でもその時は我慢した。


パンと果物も美味しかったし、せっかく用意してくれたものにケチをつけるみたいなことはしたくなかったから。

 

だけど、その次の食事もパンと果物だった。


種類は変えてくれただけありがたかったのだが、ちょっと待てよと私は思い立ったのだ。

 

もしかして、私、この先ずっとお肉や魚が食べられないのではないかと。

 

一日二日なら我慢できる。


でも、私は獣人国に無期限で滞在することになっている。


つまり一生食べられない可能性がある。

 

それはちょっと、いやかなり厳しい。


ただ単に食べたいという気持ちだけでなく、たんぱく質不足で今後の成長にも支障が出るだろう。


ただでさえ普通の五歳児より華奢というか、小さいと思っているのに。

 

では、どうすればいいのか。


答えは簡単だ、魔物を食べればいい。

 

すぐにその考えに至った私は、三度目の食事、つまり今回、思い切って魔物を食べてみたいと声を上げたのだ。

 

そりゃ抵抗はあった。


でも、前世でだってこんな見た目のものが⁉というものが美味しかったりしたもの。


食べてみなければわからない。

 

最初、アレクさんをはじめとするみんなが戸惑った。


人間が魔物を食べないことを知っていたから。聖女様にそんなもん食べさせていいのか?という空気が漂った。

 

でも私はゴリ押しした。


これから獣人国で暮らすのだから、この国の慣習に慣れたいのだと。


すると、騎士たち全員が私の発言を喜んだ。


「まだお小さいのに、エヴァリーナ様は気概がありますね」


「聖女様なのに、遠征用の簡素な食事でも文句言わないしな」


「おかわりもどうぞ。たくさん食べてくださいね!」

 

魔物を食べてみたいというたったひとつの発言で、みんなの態度がかなり軟化した。

 

それまでも丁寧な扱いは受けていたけれど、私としては今のように気やすい感じの方が嬉しい。


中には愛称で呼んでくれる人もいて、距離がぐっと近付いた感じがする。


「まさか、こんなに美味しそうに召し上がっていただけるとは思いませんでした。無理はしていませんか?」


「はい、だいじょぶです! これも、ちょっとぴりっとしゅるのがとっても美味しいでしゅ!」


 魔物料理なんていうからどんな見た目なのかと思えば、調理後は普通のお肉料理とほとんど変わらない。


明らかに魔物です~なグロテスクな見た目なら無理だったかもしれないが、これなら全然抵抗なく食べられる。

 

そう笑顔で答えると、アレクさんはほっとした顔をした。


「あなたは、不思議な方ですね。聖女様をお迎えにするにあたって、我々は相応の覚悟をしてきたのですが」


「覚悟、でしゅか?」

 

なんの覚悟だろう。


ちなみに私はそれなりに覚悟してきたが、今のところいい意味で裏切られているのだが。


「ああ、余計なことを言ってしまいましたね。すみません、忘れてください」

 

あんまり言いたくないことなのかしら?


それならここは聞き返さない方がいいのかも。

 

もぐもぐしながら首を傾げるにとどめておくと、アレクさんはくすりと笑って私に向かって左手を伸ばしてきた。


「頰についておりますよ。ふふ、とても大人びていらっしゃるので驚きましたが、年相応に幼いところもちゃんとおありで安心しました」

 

なんとアレクさんは、私のほっぺたについていた食べくずを指でひょいと摘まむと、そのまま口の中に――っっ!?


「な、な、なななな……っ!?」


「お気に召したのであれば、どうぞたくさん召し上がってくださいね」

 

慌てふためく私とは違って、アレクさんは涼しい顔をしている。


「それにしても、もうすでにあなたを愛称で呼ぶ騎士がいることに驚きました。たった一日で、ずいぶん馴染まれたようですね」


「あ、えと、はい。休憩時間に、皆しゃんとしゅこしお話ししゅる機会があったので」

 

アレクさんが平静なのに私がいつまでも狼狽えているのも変よねと、無理矢理平常心を装う。


顔はおそらくまだ赤いだろうが、せめて会話は普通にできるようにがんばろう。


「失礼がなければいいのですが。あまり馴れ馴れしくて不快にお思いになれば、私におっしゃってくださいね」


「い、いえ! 皆しゃんとてもよくしてくれて、嬉しいでしゅ!」

 

私なんかのことで騎士たちが叱られてしまうのは申し訳ない。


だいじょぶです!と前のめりでアレクさんに伝える。


「そうですか。なにかお困りのことがあれば、遠慮なくおっしゃってくださいね。さて、そろそろ片付けて出発しようと思うのですが、お腹は膨れましたか?」


「はい、とっても美味しかったでしゅ。皆しゃんごちそうさまでした」

 

料理を用意してくれた騎士たちにもお礼を言って、馬車に乗り込む。

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